塾の休憩時間に、麦から写メがきた。
なんだろうって思ったら、墨をほっぺにつけて笑ってる比呂が『幸村那央殿』とかいた書初めを持っている写真だった。

なにこれーー!!!

俺はすぐに麦に電話する。3コールほどで、麦が電話にでた。

『よおぴんく。写真みた?』
『みたよ!なにあれ。』
『書初めだよ。冬休みの宿題の。』
『うん。』
『あれを今、俺んち近所の公会堂で書いてるんだけど。』
『何で公会堂?』

『町内の掃除の時にさー、区長さんに「書初めかくのに、部屋狭いから書けねえ」とかいったら
公会堂貸してくれるっていうからさー。だから、比呂とふたりできてんの。』
『浅井は?』
『あいつはもう書いたって。今日はおじちゃんち実家みたい。小沢もかいたみたいだし、お前は2日にかいたんだろ?』
『うん。』
『ほんとは坂口も呼んだんだけど、あいつ昨日、家族でスノボいって骨折したらしくてさー。』
『うっそー』
『ほんと。まあ、あいつも最近忙しかったしさ、ゆっくり休めってことだよ。』
『うん。そうだね。』

麦とは夏休み前に、ちょっと揉め事おこしたんだけど、その後はいい感じで話が出来るようになった。
ちなみに俺ら学校の書初めは、自分の好きな5文字言葉をかくことになってるんだけど・・。

『麦はなんて文字にしたの?』
『俺?俺はー、"謹賀新年也"』
『也?』
『帳尻あわせで"也”つけてみた。』
『あはは。』
『幸村は、なににしたの?』
『大恋愛希望。』
『あっは!!なにお前、そのキャラのくせに、そんなの書いたの?』

わ、うけた。けっこう真剣に考えた言葉だったのにな。でも笑ってもらえてちょっと嬉しかったりして。

『ねえねえ、比呂はなんてかいたの?』
『えーとね、今のところ、一番うまくかけてるのが、運気上昇中』
『あはは。』
『比呂にかわるよ。ちょっとまってて。』
『うん。』

比呂、そばにいるんだ。わーどきどきする。

『もしもーし。』
『もしもし、比呂?』
『うん。あけおめー!あけおめー!』
『それ今年になってから、何度言ってんの!!』
『書初めがうまくいかないよ(棒読み)』

あはは。小学生みたいな言い草だなあ。

『どして?上手にかけてるって麦がいってたよ。』
『あのね、今ね、"運気上昇中"で6枚かいたんだよ。』
『うん。』

『そしたらさ、一枚は"運"って字が、上手にかけて、もう一枚は"気”と"中”がうまくかけて』
『ふふ・・。うん。』
『も一枚は"上”と、名前が上手にかけて。』
『あはは。』
『”昇”はまだ一回も上手にかけてない。』
『なにそれー!!あはは!!』
『一文字ずつ選んでさー、一枚の清書用の紙に貼り付けたいよー。』
『あはは。できっこねーじゃん。がんばりなよー。 』
『だから今ー、気分転換に友達の名前かいててさ、うまくかけたからユッキーに写メして!って麦にたのんだわけ。』
『ふふ・・。上手にかけてるねえ。他の子の名前もじょうずにかけた?』

そしたら比呂が、短く『は?』っていったあと、俺に言ったんだ。

『なにいってんのー。お前の名前しかまだ書いてねーもん。』
『え?』
『一番最初に浮かんだから、とりあえず書いたんだ、お前の名前。』


・・・・わ・・・。ほんと?・・俺の名前を一番にかいてくれたの?


『ちなみに次は、"小沢潤也殿”ってかこうとおもってる。』
『・・ふふ。』
『”坂口安静中”もいいかな。』
『だめだよー!茶化しちゃ!』
『そっか。じゃあ、"浅井眼鏡店”とか。』
『もー!!しっかりかきなよ!"運気上昇中”!』
『わかったよー。じゃあ、うまく書けたらまたメルする。携帯マナーにしといて。』
『うん。』
『じゃ、勉強がんばって。』

俺はいつも塾の間は、携帯は電源きるんだけど、比呂からのメールが楽しみすぎて
マナーにして教室に入った。

英語の授業の途中、ぽけっとで携帯がぶるぶるとなる。
こっそり携帯画面を見たら、ひろが満面の笑みでピースしていたよ。