秋山のお父さんが倒れた。詳しい状況はわからないが、急いで地元に戻ることになった。
とりあえず、店のコーヒーと軽く食べることができるものを作って秋山に渡しに行く。
あいつは、『ありがとう。後で連絡する。』とは言ったが、俺に 『一緒にいこう。』とは
言わなかった。

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一晩寝ずに待ったが、連絡はなかった。明け方、ラインをいれてみたけれど、
既読はついたが返事がこない。とりあえず店前の掃除でもするか・・・と、箒をもって
外に出る。ぼんやりとしていたら、紺野が『おはよー』と声をかけてきた。

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昼になっても連絡はなく、何度か入れたラインは既読になっても返事が来ない。
『あいつのお父さんの心配』から、『俺達のこれからに関する不安』に 
俺の気持ちが変わった頃、ようやく秋山からラインがきた。

<連絡が遅れてすまない。親父は大丈夫なんだけど、
<家族で揉めてて帰れない。そっちに戻れる目途がついたら、
<連絡する。心配はしないで大丈夫です。

頭が真っ白になった。どういうことだ?と思った。
俺が何も思わずにこの返信を待っていたとでも思ってんのか?
ああいう状況で既読スルーした挙句に送ってくる返事がこれか?

悪い奴ではない。秋山はいい奴だし、優しい男だし、馬鹿だ馬鹿だと俺は言うけれど、
頭の出来は悪くない。ただ、言葉が足りないことが多く、困ったときには黙る癖もある。
だから俺はね、言葉の足りない部分を自分で想像する癖がついてしまった。

そして自分で想像することなんて、悪い事しかないんだよ。

秋山は俺に嘘はつけないから、俺が傷つくようなことは言わない。
俺に連絡よこしてこなかったのは、つまりはそういうことなんだろう。
親父さんは大丈夫なのに、揉めてて帰れないって言ってる。
帰る目途がついたら連絡するって言ってる。目途がつくまでは俺には話せないんだろ。


ああ・・・・


潮時なのか。
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翌日。
予約が入っていなかったから、店は午前営業で午後は臨時休業にした。
体調不良を理由にして、店の奴らに翌日も店を休むことにすると伝える。
先月末の休業予定日に急遽パーティー予約が入ってしまい
休みが潰れてしまっていたから、その穴埋めということにすると
みんな快諾してくれたが、俺の体調を心配してくれた。

皆が帰ってから、一人、店の床を磨き、窓を拭き、スープを作った。
秋山の代わりに来てくれている比呂に差し入れようとおもったからだ。
鍋の中で踊る野菜をぼんやり見ていると、一人でいた頃の感覚を思い出した。

数々の別れを思い出した。








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