沼田さんは震えていて、目には涙がたまっていた。

『沼田さん、つらかったんだよね・・、俺、声かけられなくってごめんね。
秋山さんがむこう戻ってから、沢山の事を考えたんだよね。
ねえ、もしかして、どっかいっちゃおうとか思ってるとかないよね・・。
とりあえず俺んち店行こうよ・・。話しようよ・・。』

沼田さんは車から降りようとしない。ずっとハンドル握ったまま、
震えてるのを見て俺もつらくなる。
沼田さん、何にも言わないんだもん。俺も何言っていいかわかんないよ。

どうにもこうにも困っちゃって、そしたら急に腕が痛み出す。
腕どかしたら沼田さんが車走らせてどっか行っちゃいそうだから
今度は体を車とドアの間に押し込む。
そしたらやっと、沼田さんが、ポツリポツリと話をし始めてくれた。

店の片づけが終わって、ゆうが他の二人と飲みに行ったから、沼田さん、何してるかなって思って
外を眺めてたら、カフェのドアが開いて、沼田さんが出てきた。
大荷物もって、車に積んで、また店に戻ってく。そして、店の電気消して、しばらくドアの前に
立っているから、俺は声をかけようと外に出る。

雨が降っていた。

傘さすほどではなかったから、走っていこうかなって思って、濡れた地面見た後に顔をあげると、
沼田さんがカフェに向かって頭を下げんの。なんか変だって思って、なんかものすごく怖くなって、
大声で名前を呼んで、ダッシュで沼田さんのほうに向かう。

そしたら沼田さんは俺のほうを見て、愕然とした顔をすると、慌てて車に駆け寄っていったから、
柵を飛び越えて、とにかく走って、閉まりかけた車のドアに腕突っ込んで、
そこでやっと沼田さんの動きが止まった。

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『どこいくの?』
『・・・・・・・・』
『秋山さんとこいくの?』
『・・・・・・』
『顔色悪いよね。寒いんじゃないの?いったんうちにおいでよ。』
『・・・・・・紺野・・腕・・血が・・・。』
『大丈夫。沼田さん、大丈夫だから。落ち着いて。』


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『・・・紺野、ごめんね。俺駄目だ。黙って見逃して。 』

やっと話してくれて言葉がそれだもん。悲しくなって俺の方が泣きそう。

『やだね。絶対ダメ。見逃したら、どっかいっちゃうんだよね。
どうせ帰るつもりないんじゃん。だから店にお辞儀とかしてたんだよね。
二度と会えないとかありえないよ。絶対やだから。絶対。』

腕は痛いし、沼田さんどっかいっちゃおうとしてるし、雨に濡れてくそ寒いし、
でも、その雨もだんだん小降りになってきてる。

沼田さんは、疲れ果てたような顔で、俺を見ると、血が出てるよ・・って言った。