翌日、日曜。

比呂の誕生日であり、母の日当日でもある5月13日。

比呂の店は大繁盛で、目がまわるほどの忙しさだったから、俺は夕方まで仕事を手伝い、
沼田さんに駅まで送ってもらうことを伝え、店をあとにすることにした。

比呂は、『ごめんな。バタバタしちゃって・・。』という。
俺は、ううんって首を横に振って、『また来週来るね!』って笑った。
比呂も、笑ってくれた。

とりあえず、駅に送るフリに付き合ってくれた沼田さんの車にのりこむ。
走り出す車を見送りながら、比呂がいつまでも手を振っていてくれた。

・・・作戦開始だ。

『早く帰ると疑われるからな、時間つぶすか。』という沼田さんの提案で、
俺たちは、隣町のファミレスに向かい、飯を食ってじかんをつぶした。
あたりが暗くなってから、沼田さんの店に戻って、俺は裏口通って二階に上がる。
一人で裏口に行くのがちょっと怖くって、沼田さんについていってもらった。

日曜の晩は、沼田さんが『俺のとこに泊まればいいよ。』っていってくれたから、
それに甘えることにして、お風呂にも入って、することもなくなった俺は、
店の明かりが消えた後、電気がついた比呂の部屋の窓を見ながら、
ずーっとずーっと、比呂のことを考えてた。


俺は、比呂のことを好き。大切にしたい。
大切なんだよー・・・。俺、一生比呂のそばにいるからね。

5月14日。月曜。
明け方、秋山さんが、頼んでおいたバラの花束を持ってきてくれた。
前日の夜、比呂が風呂に入っている間に、ソッコーでつくってくれたらしい。
『つくったはいいけど、隠すの相当苦労したわー。』って笑って言う秋山さんの
頭を沼田さんが撫でた。俺は花束を受け取って、目を閉じると、深呼吸をする。

『今日は、午前休みだけど、あいつ通販作業するんだって。いつもどおりなら9時頃からかな。
俺は用事で外出るし、あいつ一人で作業場にいるから、突撃すんならソコだな。
俺、あいつが仕事はじめたの確認してからでかけるようにするから、それ合図にしな。』

俺は、黙ってうなずいた。

その後、沼田さんの部屋の窓から、そーっと比呂の店の方を伺う俺。
いったん比呂が外に出てきたから、急いで隠れたんだけど、なんか惜しいから、
バレないように、そーっと覗いて、比呂が庭木とかに水をまいてるのを眺めてうっとりした。

そして、9時前に、秋山さんが出かけていくのが見えたから、沼田さんに『いってきます!』って
声をかけて、そーっと比呂の店の裏口に歩いた。
いつもは一人で歩けない道を、今日の俺は、何の恐怖心もなく、歩くことができた。

そして、比呂の店の裏口に到着。ドアをそっと開ける。
・・・比呂がいた。たくさんの花や緑に囲まれ、窓から入る太陽の光を背中に背負って俺を見た。

言葉が出なかった。

『那央じゃん。』
『・・・・・・・・うん。』
『おはよう。』
『・・・うん。・・・おはよう。』
『・・・・・・・。』

ぎゅっと花束を握り締める俺。

『・・・あのね・・・』
『うん。』
『これ・・・・・・。』
『ん?』
『・・・・ローズデーって・・・知ってる?』

比呂から目を離すこともできず、ちょっと放心状態になりながら、
俺がうわごとのように、比呂にそういうと、比呂が俺に近づいてきて
手に持っていたバラの冠を、俺の頭に、そっとのせてくれたんだ。
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