彼氏見学ツアー | |||||
明日は、俺の誕生日。あー・・・。教習所通いに疲れ果てる毎日だ。 今年は比呂には会えない・・バタバタと、お互い忙しい。 今日は夕方の用事が急になくなったから、とりあえず部屋に戻って、 不貞寝してたらへんな夢を見た。 夢の中で、俺は目が覚めて、そしたらさ、俺、草むらの中にいたの。 草むらって言うか、ジャングル的な。 ジャングルなんだけど、生えてる草とかは、普通に日本に生えてる雑草でさ。 要は、俺が小さくなってるっていうね。 で、何でか俺は、高校生時代の俺なの。髪ピンクで、肩にカバンかけてさ。 見上げたら空の色は夕暮れ後くらいで、ほとんどが夜って言う感じで、 風も涼しいのね。それはとっても気持ちいいんだけど、状況が状況じゃん。 もーほんと、体が震えるようでね。 かさかさと、草掻き分けて、歩いたの。 自然と足が動くのね。意識が引っ張られる方向があるんだよ。 歩き続けているうちに、なんていうのかな。ふうって心が落ち着いたんだ。 さっきまで不安だったのに、今、この一歩を踏み出したとたんに、感じたんだ。 俺を守ってくれる人が、いるっていうこと。 だからもう、全力疾走。走ったよ。カバンがずり落ちそうになって、コケたけど気にしない。 走って走って走りまくって、そしたら草むらだった視界が、一気に開けた。 ああ。 ここは。 ここは、パンタグラフの庭。 比呂が毎日手入れをしている花や多肉植物がたくさんあって、店には明かりがともっている。 様子を覗こうと思ったけど、なんだか怖い。 比呂しかいないんだったらいいけど、知らない人がいたとしたら・・・。 そこにいけば比呂がいるってわかってるのに、そこにいけない。 それはとんでもなく悲しいことだった。 すごく心細くなって、俺は一番近くにあったリプサリスの鉢によじ登って腰掛けた。 グルっと庭を見渡す。きれいな花がたくさん咲いてる。 ・・あんな実がなる木なんかあったかな・・・。 見慣れているはずの庭なのに、知らないことがあちらこちらに散らばっている。 ぴょんっと鉢から飛び降りて、俺は、葉っぱや木の実を集めて遊ぶことにした。 さみしさ紛らわすとか、そういう理由もあったんだけど、一番の理由は、 まあ、ほかにやることがなかったからだ。 庭の端の作業台の下に、ブリキの薄いバケツが置いてあったから、 拾ったものや、摘んだものは、そこにいれることにした。 そしたら意外と楽しくて、気がついたら、夢中になってしまった。 ブリキの薄いバケツの中に、沢山の木の実や花びら、葉っぱがたまって、 あんまりにもいいにおいだから、俺はその中で眠ることに決めた。 これは、比呂のにおいに近い。花関係の作業をした後の比呂の服からは、 こんなふうな、甘くて優しいにおいがする。目を閉じてみたら、とても幸せだった。 カンっ。 ブリキが小さな音を立てて、少しだけゆれる。・・・・俺は目を開ける。 不思議と驚かなかった。小さな音も、かすかな振動も、優しさに満ちていたから。 目の前には、比呂。びっくりしたような顔で、俺を見てる。 とりあえず俺は立ち上がって、髪を整えてから、比呂に手を振った。 『小さくなった★』 笑って言うと、比呂も笑った。 『笑い事じゃない。』 比呂はそんなことを言いながら笑って、俺を花や草や実ごとすくい上げる。 『なにしてんの。』 『わかんない。比呂に会いたいなーって思いすぎてこうなった。』 『新種の生霊なのかな。それとも俺が疲れてんのか・・・?』 『多分夢だから大丈夫だと思うよ。』 あははははーって、お互い笑った。 『・・高校生じゃん。』 『うん。なんかね。懐かしいよね。』 『かわいい。』 『はずかしいよ。』 『細いから、折れそうで怖いな。』 『えへへー。比呂ー。』 『ん?』 『触りたい。顔に近づけて?』 『いいよ。』 比呂がゆっくりと、俺を顔に近づけてくれた。 俺はそれが嬉しくて、比呂の髪に触れて、そして、比呂の頬を撫でた。 そしたら、俺の体が少しずつ、光になって透けていく。 願いがかなっちゃったから、俺は消えるんだ。そう思ったら悲しくなった。 ずっとそばにいたいなあ。毎日好き過ぎて、比呂になりたいくらいなのに。 『多分・・目が覚めるんだと思う。』 『ああ。うん。』 『せっかく会えたのに。』 『うん。』 夢の中なんだろうにな。なのにこんなに離れがたい。 いつも、比呂とさよならするときに、引き裂かれるような気持ちになるのは、 俺と比呂の心が、ひとつの大きなハートだからなのかなあ。 |
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