あけてた窓閉めて、スーツはワイシャツだけ替えて、
ネクタイ締めなおして、髪の毛整えて、発声練習して、玄関かぎ閉めた。

車に乗って、さっき比呂から来たメール確認する。到着19時51分。

俺が身支度すんの計算してくれたんだろうなー。
俺だったら、19時過ぎに来いっていわれたら、19時01秒!とかにきちゃうよ!
だって待ちきれないもん。

車は駅からちょっと離れたとこにとめた。
地下駐車場とか、立体とか、どうしていいのかわかんないし!
俺、駅までの運転は練習したけど、毎回通過のみだったからさ。

時間に余裕はあったけど、つい早歩きになる。
髪の毛心配になって、ビルのガラスに映る自分見ながら時々手ぐしで整えた。

ああ、心臓がドキドキする。
超能力があったら、まだ新幹線の中にいる比呂のひざの上にテレポートしたいよ!!!

改札の前でじっと待つ。

アスティでなんか買ってこようかなって思ったけど、
とにかく比呂がもう着くから、緊張して動けなくなってる。
ネクタイをもう一回なおして、かけてためがねをなんとなくしまった。

俺から3メートルくらいのとこに、めっちゃかわいい女がいたから、
早くどこかに行けばいいのにって、ちょっとだけイラっとした。

頭の上で大きな音がする。新幹線の音だ!

わわわわわわわわわ。ちょっとだけ、呼吸忘れたー。息ってどうするんだっけー・・

半パニックでグルグルしてたら、沢山の人が階段を降りてきて、
その中で、いっちばんかっこいい比呂が、俺に両手を振ってくれた。
忠犬ぽぽろん王国は、飼い主にめがけてダッシュ!改札抜けながら、比呂が笑う。
『はろー。』だって。
なんだよもー。やっぱ、比呂が喋る声は、全部比呂って感じだなー。


半袖Tシャツ、左腕のひじあたりから、包帯が巻いてあって、
俺があげたアームウォーマーしてくれてた。
俺がこれしてたら浮くけど、比呂だから似合う!

駐車場のほうに向かって歩き出しながら『大丈夫?痛い?』ってきいたら、
比呂は、『もうあんま痛くない。』って笑った。
『秋山さんに、バリ勝男とこっこ買って来いっていわれたー。』とかいうから、ベルマートに寄った。
沼田さんがバックパッカー時代に、こっこ食べた思い出があるらしくて、
沼田さんに食べさせてあげたくなったんだってー。
で、バリ勝男は、秋山さんと比呂が、時々酒のツマミにするらしくて。

俺の分まで買ってもらっちゃった。あー、大事に食べないと。
駅を出て、駐車場に向かう間、暗い道にさしかかると、堪えてた涙がポロリと落ちた。
会えないと思っていて、とてもさみしかったから・・
比呂の生まれた日に、どうしても、一緒にいたいと思ってたから、
その願いがかなったのがうれしくって、いったん溢れた涙はとまらない。

『かぎと駐車券貸して〜。』という比呂。
『え、大丈夫、運転できるし、払う払う!』慌てる俺。

『いいよ。ほら。』そんなこというから、結局いわれるがままに渡しちゃった。
『こんな時にしか、してやれないから。』
独り言のように言った比呂の言葉が、もっともっと俺の涙腺つっついた。

運転席に座る比呂。
『お前、座席前過ぎじゃね?』っていって、イスの位置を調整するから、
『え?よくわかんないけど、普通だと思うよ?』っていったら、
『那央、緊張して運転してんだろ。前のめりで。』って比呂が笑った。

ああ、たしかに。

前に、職員会議の時に出す茶がなくなっちゃって、岸先生と買いにいったとき、
『幸村、運転の仕方が女子みたい。』って言われた・・・。
俺の車を運転する比呂も、やっぱ、かっこいいんだ〜・・。

左腕、どんなんなんだろう。あんまり詳しく聞いてないけど、打撲のひどい感じっていってたっけ。

『骨は大丈夫だったの?』
『うん。俺、絶対折れたと思ったんだけど、割と丈夫だったみたい。ははは。』
『転んだお年寄り、大丈夫だったんだよね。』
『うん。なんか一昨日、また家族でお詫びにきてくれて、ほんと、もうしわけない。』
『ねえ、そんときってどういう状況だったの?秋山さんの説明わかんなかった。』
『あはは。えーとねー。地域の清掃活動的なのがあってさ、そこに俺はでてたわけ。
で、おばあちゃんが、ほら、よくお年寄りが押して歩いてるのあんじゃん。
・・シルバーカーってやつ?あれ押して歩いててさ。』
『うん。』
『で、坂道だったんだけど、そこをばあちゃんがのぼってて、で、俺はその脇で草とってたの。』
『うん。』
『そしたら、トラックが下ってきたんだけど、ばあちゃんが車避けたら、
シルバーカーの片輪が側溝に落ちちゃってさ、
バランス崩してばあちゃんが転んだの。』
『あー、そうなんだ。』

『で、俺とっさに右手でばあちゃん抱えて、左手地面についたんだけど、
ちょうど草刈鎌もってたからさ、変な風になっちゃって、
側溝のコンクリにガンってぶつけちゃったってかんじ。』
『うへえええええええ・・。』
『周りの人が、すぐに車出してくれてさ、病院連れて行ってくれたんだけど、
でも・・大丈夫だった。ばあちゃんも。』
『そっか・・・。でも痛かったでしょ。』
『でもさー、鎌もってたわけじゃん。ゾっとすんね。そっちの方が。』
『あー、そっかー。刺さんなくてよかったね。』
『うん。動かせる程度のケガでよかった。』

・・・・仕事のことより自分の心配して!!!
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