最近2人して忙しいから、朝ご飯を作るのをやめた。
朝は弁当やパンを食べて、飲み物はペットボトル飲料のみってルール。
カップスープも駄目なんだよ。お湯を沸かすのすら禁止。
レンジであっためるのはオッケーなんだけど、そういう全部を比呂が決めたんだ。

俺は栄養面とか心配だし比呂に何かしてあげたい系人間だから、猛抗議をしまくったんだけど、
「3食のうちの1食じゃん。」って、比呂は最後まで引き下がらなかった。

いつもの『朝飯買ってきたから明日はゆっくり寝よー。』ってのじゃなくて、
『朝ごはんつくるの禁止。』だからね。今までのとは、わけが違う。

ついに俺の朝ごはんに飽きたのか…って最初はめっちゃ落ち込んだ。
不貞腐れながらパンをかじって泣き真似をしたこともあった。
それでも比呂には全然効かなくて、結局俺は3日目で抵抗すんのを諦めた。


そしたらね、次の夜くらいに『あれ?』って思うことがあったの。
いつもと同じくらいの時間に帰って、お風呂もご飯もいつもどおりだったのに、
片づけ終わってスマホ見たら、いつもの片づけ終わり時間より1時間くらい早くって。

で、そのあと比呂は持ち帰りの仕事があるから自分の部屋に行ったんだけど、
俺はその1時間の事が気になってしょうがないから、レポート用紙を引っ張り出して、
謎を解決すべく分析をはじめた。

朝ご飯を作らないことで無くなる作業は、翌朝使う食材の下準備と・・・
『朝の調理禁止』によって弁当作りも出来なくなったから、弁当おかずの作り置き作業。

ネットで作り方を漁ったり、冷凍保存するなら調理して冷ますとか、
基本『なんかのついで』って感じでやってた事ばっかだったんだけど、
書き出してみたら結構毎日色んな事やってたってわかったんだ。

朝飯見た時びっくりさせたいとか、弁当の蓋を開けた時に『すごい!』って思われたいとか、
そういう願望を叶えるためには絶対ネタバレ禁止じゃん。
だから比呂の目に触れないように、細心の注意払いながら作業するようにしてたりさ。
・・・もう、『ついで』が『ついで』じゃなくなってたんだね・・俺。

自分の中で『なるほど。』って納得できたから、レポート用紙にそれらをまとめて比呂に見せた。
仕事は終わったみたいだし、ゆっくり話したいと思ったから「説明するから寝転んで」って
頼むと黙ってベッドに寝っ転がってくれた。

俺の説明を聞きながら笑ったり感心したりしてた比呂が、俺の話の後でぽつりと、
「なお、毎日大変だったんだね。」だなんて申し訳なさそうにいうから、
「大変じゃなかったよ。ごめんね。」って俺も申し訳なさそうな顔をしたよ。

それからずっと『朝ご飯禁止令』は発令されたままだ。

一昨日の夜に「せめて温かいスープくらい飲みたい。」って俺が言ったら、
昨日の帰りにレンジで温めるだけのレトルトスープを比呂がたくさん買ってきてくれた。
「カップとスプーン使ったら洗い物でるじゃん」って言ったら、なぜか「大丈夫。」って言われて終わったから、
ペットボトルの飲み物はちょっと味気ないって意見も出してみたら、それは比呂も感じてたみたいで、
今朝からはオレンジジュースとか野菜ジュースをガラスのコップで飲むこともOKになった。

洗い物は、帰ってからでもできる。だけど朝の調理はそうはいかない。
作る時間が必要だし、その分早く起きなきゃいけない。
比呂の判断基準は、きっとそのへんの事なんだと思う。

俺ね、「寝坊したら朝ごはんどうしよう」って、毎晩少しだけ不安だった。
こんな弱音は朝ご飯づくりをやめた今だから言えることだけどね。
朝飯づくりを何日かやめてみて体感したんだよね。
朝の1食は大切だけど、作り手にとっての負担がすごく大きいって事。

そういう『負担』を『問題』だって思ってくれた比呂に感謝してる。
『あとは食べるだけ』ってものが『翌朝用』として用意されてるの、まじで最高だよ。

今まで比呂が何度も家事について話し合おうとしてくれたのに
そのたびに俺は突っぱねていた。分担なんかする必要ないって。

『分担』の話なんかじゃなかったんだね。『負担』についての話だったんだね。

比呂は遠距離の頃からずっと、家事を俺だけに押し付けるような人じゃなかった。
一緒に暮らすようになってからも、なんでも一緒にやってくれていた。
それでも俺の負担が大きいって感じたから話し合おうとしてくれたんだ・・・。

俺と比呂では育った環境が違うから、俺が毎日ああやって朝飯を作っていたことを
『無理をさせてる』って思ったのかもしれない。
紺野さんの家にいたころも、そんな風に思いながら過ごしていたのかな・・・。

昔の話をしても仕方ない。

比呂ちゃん、俺のことをちゃんと見て、考えてくれてありがとう。
明日の朝ごはんは俺が前から食べたかったコンビニ弁当。最高だぜ!!!