Date 2006 ・ 10 ・ 12
どんぐりごま
放課後、職員室に俺は呼ばれて、掃除中だった比呂に声かけたら
『じゃあ、教室で待ってるよ。』といわれた。
今日は部活は休み。バレー部の練習試合があって、体育館を使えないから。
職員室で先生と話をしたのは文化祭の事で、
ついでに色々雑談したら、20分くらいたってしまった。
慌てて教室に戻ると、比呂が机の上にリュックを置いて、それを枕にして寝ていた。
窓側の席なのに窓全開で、今日はあたたかかったけど夕方近くになると風が冷たい。
『比呂。』肩を静かに揺らす。すると比呂は、かすれた声で
『すぐ起きるから、ちょっと寝かせて』といった。
すぐ起きる?ほんとかなあ・・・。
すぐってどんくらい?10分くらい?
それから5分ほどたっても、比呂は全然起きやしない。
黙って寝顔を見ていた俺は、どんどん不安になっていく。
そのとき。
比呂の手から何かが落ちた。
コツンと小さな音がして、机の脇にころがっていった。
比呂が昨日、クラブでつくったどんぐりごまだった。
俺はその瞬間、全身から血の気がひいて
席をがたっと音をたてて立つと
比呂のことを、激しく揺さぶった。
『比呂っ・・ひろっ・・・』
そしたら比呂が、驚きのあまり声も出ないようで、俺の顔をじっとみた。
俺は比呂の頬を触る。俺だって声が出ない。
なんだよばか・・・。
死んだかと思ったじゃんかよ・・・。
前の日比呂は、例のエルレ英詞カタカナ変換ブームのせいで
いろんなやつからメールが来て、殆ど眠れなかったんだって。
だから熟睡しちゃったらしいんだけど
だけど・・・。
比呂は低体温で、ちょっと眠るとすごく体が冷たくなるんだ
お父さんもお母さんも、それぞれ早くに亡くなってしまって
そんな2人の染色体を体にやどしているんだから・・。
帰り道。比呂と途中で別れて、俺はたまたま部活が休みだった小沢の家に立ち寄った。
そんで泣きながら比呂の話をしたら、あいつは黙って聞いてくれた。
家に帰ったら母親が、俺の顔を見てぎょっとした。
その後何も言わないから、俺が誰かと喧嘩でもしたんだと思ったんだろう。
それかまた・・いじめられたとか・・。
そんなときに携帯がなる。この着メロ・・。
『もしもし』
『あ、おれ。幸村?』
『ひろ・・。』
『ねえ、大丈夫?おまえ。』
『・・・。』
『なあ、ごめんな。俺、寝すぎて。』
『ううん・・。ぐすっ・・』
『あー・・また泣いてるんじゃんー・・。まじごめん・・。』
『比呂は悪くねえよ。』
『悪いよ、俺があほみたいに寝こけてたのが悪いんだから。』
『(あほみたいにねこけてた・・)・・ふふっ』
『ねー、ほんとごめんな。』
『ううん。』
はっと我に返り正面見たら、母親がホッとしたような顔をして俺のことを見ていた。
俺は手の動きで(しっしっ・・あっちいけ)と合図すると、母親は台所に消えていった。
比呂はまだすまなそうに、話をしている。
『ほんとごめんな?』
『なんでだよ、謝られるようなことされてないよ。』
『だけど・・・。』
『だけどじゃねえよ。大丈夫だよ。』
『・・・』
『むしろごめん。気を使わせて。』
『なーにいってんだよ!あやまるなっ。』
『・・・きにしてくれてありがと。』
『・・や・・いやほら・・あの・・うん。』
謝るのやめて御礼言ったら、比呂は照れくさそうに頷いてくれた。
秋ってさ、葉っぱが散ったり風が急に冷たくなって、どうも感傷的になっちゃうよね・・・。
加えて俺、片思い中。比呂にしょうもなく片思い中。きれいな空を見るだけで泣ける。
毎日ガラスで出来た時間を、こわごわ歩いてるような感じだ。
気を抜いたらまっさかさまにおちていきそう・・・
落ちた場所が比呂の腕の中だったらすごくうれしいんだけど・・・。
着替えようと思って、制服脱いだら
ぽけっとからなんかでてきて、そしたらそれ
比呂がつくったどんぐりごまだった。
よく見たらそのどんぐりには、かわいい顔が描いてあった。
かわいいっておもったのに、なぜか悲しくなって泣けてきた。
片思い中の感情コントロールって、果たして可能なのか不可能か。
Post at 23:41
