2007/1/14 (Sun.) 22:52:21

今日は日曜だったんだけど、俺は塾の強化授業があって、
付き合い出してから初めてのの日曜休みだったのに
比呂とデートもできなくて、物悲しさを数字や漢字にぶつけた。

昨日のうちに比呂に塾の事を言ったらあいつは、笑ってくれて
『休みの日まで大変だね。また時間ある時にどこか行こう。』
って、言ってくれたんだ。

俺は、まだちゃんと、比呂に好きって言われてない。
別にデートとかそういうのは、どうでもいいと思ってるのかも・・。
昨日までは、まだなんか、比呂と付き合えることになった!っていう、
枠組みの部分にしか目が行かなくて、色々なことを見落としてた気がするんだ。
俺、とにかく幸せすぎて・・。
でも、ちょっと冷静になった今日、不安が急に押し寄せてくる。

比呂は同情で付き合ってくれたんじゃないのか・・
俺に断るのが面倒だから、名目だけ恋人にしてくれたんじゃないのか・・・
俺が泣き喚いたからとりあえず、あの場を納めるために恋人になってくれて、
少しずつ距離をおいて、友達に戻るつもりじゃないのか・・

・・ああ・・。その全てが全部当てはまる気がする。怖くてたまらない。胸が痛い。

午前中がバイトで、午後から比呂は19時までバイト。俺は15時から21時まで塾。
6時間も塾に缶詰だった。延々と続く授業を終え、21時過ぎに外に出たら、夜風が冷たい。
地味な気分で携帯の電源を入れたら、大塚愛の『ユメクイ』の着ウタが大音量で流れ焦った。

『もしもし・・』
『俺。・・授業終わった?』
『?!!終わった!さっき終わった!』
『ねえ、お前、飯どうするの?俺まだなんだけど。』
『え・・・(どういう意味なんだろう・・)』
『お前、まだなら一緒に食おうよ。』
『え?ほんと?』
『ほんと。じゃあ、今からそっちいくから。』
『え?!』
『塾前のサニマで待ってて。じゃね。』

プツっという音の後に、ツーツーという音。
え?なに?だって比呂、もう家なんじゃねえの?つかなにその強引・・。

俺は、とりあえず自転車を、目の前のコンビニの駐輪場までおしていき、
店に入って、プラプラとする。恋人できた途端にさっそく
明るい家族計画系のアレが目に付いて、そんだけで興奮しちゃって
自分の変態ぶりに愕然としつつ、のど飴とか買って店を出た。

そしたらすぐに比呂がつく。
『なんだよ、寒いから店に入ってればよかったのに。』
『や・・ちょっと・色々冷やしたくて。』
『?』

そんな不毛な会話をしつつ、近場の喫茶店に入る。
俺は海老フライプレート頼んで、比呂がチキンカレーセットを頼んだ。
『から揚げじゃないんだね。』俺が言うと、ふふっと笑って比呂は話し出した。

『塾どうだった?』
『えー?塾?』
『うん。』
『勉強は好きだけどやっぱ休みは、ちゃんと休みがいいなって思った。』
『はは。』
『比呂は?バイトどうだった?』
『俺ら方はまあ、いつもどうりの感じだよ。』

セットメニューのサラダとドリンクが来て、俺等はそれを口にしながら、のんびりと会話を続ける。

『ねえ・・ごめんね・・。』
『?』
『バイト19時までだったってことは、家に帰ってたんじゃねえの?』
『ん?なんで?』
『なのにわざわざでてきてくれて・・ごめんね。』
俺は、しょんぼりとした。そしたら比呂、俺をのぞきこんで、笑ってくれたんだ。
『大丈夫だよ。』
何が大丈夫なのかなって思ってたら、お互いの料理がいっせいに運ばれてきた。

賑やかになったテーブルの上を見ながら比呂は、こう言った。
『お前の塾終わりに合わせて、バイト時間延長したんだ。今日は忙しかったし。』
いただきます・・って短く言って、比呂がカレーを一口たべる。
『・・おいしい・・幸村も食べなよ。』
『・・うん・・。』
俺は、いただきますのあとエビフライを一口食ったら、なんか涙が出た。

比呂は13時からバイトだったんだ。13時から21時って・・。
途中休憩があるっていっても、比呂は中堅の店員だから、きっちり休憩取るの難しい。
部活のあとに、約8時間も働いてたなんて・・俺の塾終わりに合わせてくれたなんて。

比呂は、俺が泣いてるのをじっと見た。『お前はよく泣くね。』とも言った。俺は思わずうつむく。
すると比呂は、俺の皿ににんじんをのせて、テーブルの俺が視線を落としてたあたりを、とんとんって指でつついた。
俺は比呂の顔を黙って見つめた。

比呂はちょっと考えた後、俺に言った。『もう俺・・お前を不安にさせた?』

俺は思わず固まる。いや・・そんな・・そんなんじゃない。でも声が出ない。ドキドキした。
別れるって言われたら、俺はきっと死ぬ。
露骨に困った顔をする俺、そんな表情を見て比呂がぼんやりとする。そして言ったんだ。

『俺、お前のことが好きだよ。』

俺は、その言葉を耳で聞いて、思考回路で処理して、心の奥で感じた。
息苦しくなって、体が熱くなる。でもこれは風邪じゃない。恋の病だ。

『・・比呂・・・。』名前しかもう呼べなかった。
目の前の比呂は、少し照れてたけど、そのあとも喋れない俺のかわりにゆっくりと、話を続けてくれた。

『・・・お前と一緒に飯食いたいなーと思って・・さっき電話してお前誘った。
一方的で悪かったけど、どうしても・・・ちゃんと話がしたかったし。』
『うん。』
『・・会いたいなって思った。今、泣かれてすっげー心配だよ。』
『・・・ん。』
『・・続いていきたいと思ってるよ。・・ささいなことでも不安になるのは俺も一緒だから・・』
『う・・ん。』
『なんでも言いな?遠慮すんなよ。もうそういう余計な気遣いいらないから。』
『・・・・うん。』

ああ・・。よかった・・。幸せな夢は、どれだけ泣いたって覚めない。

『早く食べな。冷めるよ。』
『うん。』
『これからはにんじん、全部食ってもらえるね。』
『うん。』
『・・・もー泣くなよ。』
『・・うん。』
『・・いや・・別に泣いててもいいんだけど・・。』
『・・・・』
『でも俺がいないとこでは、泣かないでよ。』
『・・・。』
『・・・なんか恥ずかしいね、こういう会話。』


俺たちは、そのあとも、てれてれしながら飯を食った。
今まであんなに友達付きあいしてた俺に、こんな事いうのには、勇気がいっただろう。
ありがとう。お前がちゃんと言葉にしてくれたから、俺、すげえ安心したよ。
この恋は、独りよがりでも、夢でも妄想でもないんだね。

飯代は比呂が全部払ってくれた。付き合う相手に金出させんのが嫌なんだって。
変なとこで古い考え方の比呂。俺は男なんだから、そんなふうに気を使ってくれなくてもいいのに・・・。
でも今日は、ご馳走してもらっちゃった。ああ・・今日の飯は、本当にデートって感じだった。

帰り道、いつもの別れ道で、なかなか離れられない俺たち。
人目がないのをいい事に、俺は比呂に抱きしめてもらった。
人を抱きしめ慣れているような比呂・・全く不慣れなおこちゃまな俺。
抱きしめられながら、俺の頭は、はじめてのちゅうの予感でパンクしそうだった。

と、そのとき、比呂が『あの人、俺ら学校の二年だ。』って言って、俺の体を少し離した。
でもすぐにその人は別の道に入ったようで、『あー・・びびったー。』といって笑った。

『やっぱ・・みんなにばれたら嫌?』俺は思わず比呂に問いかける。
比呂は、そんな俺をみてきょとんとしたあと、ふはって笑って、
俺の手を握ってくれたんだ。『守りたいの。お前を。』


******

家に帰り風呂に浸かる。ああ・・・もう俺・・多分一生分の運、完全に使い果たした。
『俺はお前が好き』『余計な気遣いいらないから』『『守りたいの、お前を』
・・・・俺、夢でもそんなの言われたことないよ。


会いたいなあ。さっき別れたばっかだけど。比呂に抱きしめてもらいたいなあ。
あれだけ憧れてた比呂の腕の中は、もう俺の場所なんだなあ・・・・。
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