こいごころ

さーて今日も、病院いってから学校。今日で診察終わりの予定。早く比呂に会いたいなあ。

昨日、比呂と静岡のホビーショーにいったあと、地元の模型屋に行って、
その後2人でご飯を食べに行った。久々にゆっくり話をしたいねーってことになって
注文してから飯が出てくるまで、超絶的に遅いカフェがあるんだけど、そこに行くことに決定。
2人でのんびり歩いていって、店に入り、注文をした後ゆっくりとほんとゆっくりと話をした。

『・・ねえ比呂? 』『・・・・?』
『さっきの話だけどさ・・。』『うん。』
『・・・安心?』『・・・安心。』
『・・・どゆこと?』『・・・・。』

飯が出てくるのは遅い店だけど、飲み物だけは早く出てくる。
比呂は冷やし黄色炭酸、俺は冷やし紫炭酸をたのんだんで、
互いにそれを一口飲む。まあ、単なる檸檬ソーダと葡萄ソーダだ。

『・・・安心っていうか・・安定?よくわかんねーけど・・。
なんかさ・・お前に告られた頃はさ、なんかアレだったじゃん。』
『?』
『なんかさ・・友達からさあ、こういう感じに移行して・・色々勝手わかんなくてさ・・。』
『・・・・うん。』
『今だからいえるけど、本当に悩んだんだ。俺。』
『そうなの?』
『うん。そう。』
『へ〜・・。えへへ。』

俺が笑ったら比呂も笑った。そんで窓の外をちらっと見て、そのあと俺のほうをみる。

『・・那央のことをー・・スグにそういう意味で好きになってーそうしたらさー・・ほら・・』
『・・・』
『友達とは違うからさ・・駄目になったら別れが待ってるわけじゃん。』
『ああ。』
『ってことはさ、続いて行きたいならさ、駄目にならないようにしないといけないじゃん?』
『うん。』
『それまでは友達で、そんなの意識すらしてなかったけど』
『・・・。』
『でもそうはいかなくなって〜・・・。』

恋愛についての話なんて・・なんか久々な気がしてお互い照れて、ふふって笑っちゃう。
でも俺は、比呂がそういう気持ちを俺に話してくれるのがうれしい。

『・・でーーー。』
『ふふ。』
『とりあえず、毎日を平穏に過ごそうと決めたんだけど、そしたらお前はさもないことで、泣くし怒るしで。』
『ふふっ。』
『どーしよーって思ってさ、毎日毎日考えてもうね、頭働かす余裕もなかったのね、俺。』
『・・・ふふっ。』
『いきなり目の前で泣かれると、どうしていいのかわかんなかったの。』
『うん。』

比呂の檸檬ソーダに入ってた氷が、カラン・・・と音をたてる。
それをじっと見たあとに、比呂はなんでか、ふふっとわらった。

『でさあ・・。』
『うん。』
『その場その場で思ったことを、そのままお前に話してさ、とりあえず色々収まって、家に帰るじゃん。』
『うん。』
『で、俺、家に帰ると毎回一人反省会。』
『うっそでしょー!』
『嘘じゃない。お前に勢いで自分の本音を言ったらその日は抜け殻の俺の一人反省会なのよ。』
『あははは。』
『5キロやせたんだぜ?一時期。』
『・・まじで?』
『うん。』
『・・・そっか・・。』
『あ、でもすぐに戻ったけど。』
『・・・・ほんと?』
『お前と初えっちしたら、すーーーぐ戻った。』
『えええ?!』
『やっぱあの壁は大きかったよ、なんせ男同士だったし。』
『・・・そうだねえ。』
『・・ええ、まったく。』

・・・俺は比呂と初エッチしてからすぐに2キロ痩せた。
初めてのときはちゃんと最後まで、比呂にやらせてあげられなかったから。
俺が、さほど遠くないその頃の記憶を、甘い感情でふりかえっていると、
比呂がまた話を始める。今日の比呂は、沢山話をしてくれるなあ・・。

『で、まずはほら・・そういう面でクリアして、ちょっと気持ち的にほっとして、
・・・それまでは、そういう方面でガマンしてたわけ。』
『うん。』
『・・不気味に思われたら困るんだけど、俺マジでエッチとか、ちゅうとか、大好きでー。』
『ふふ。』
『好きな人がいるのに、それができないとなると、本当に苦痛なのね。わかるだろ?そういうの。
そういうのがすげえ悩みの種だったんだけど・・・』
『うん。』
『でもそれをー乗り越えたから、あとはなにを乗り越えればいいのかなーと思って。』
『・・・うん。』
『いろいろ考えてー。』
『考えたの?』
『ああ、考えたよ。俺なりにね。』
『あはは。』
『で、これは初心にかえろうと。色欲に溺れて大事なものを見失ってはいけないぞと。』
『あはっ。』
『へへ。・・でー・・・、相変わらず泣くお前をー・・どうしたらいいのかなーとか思って。』
『・・・・うん。』
『ちょっとした不眠症にもなりつつ・・・。』
『ほんと?』
『うん。ほんのちょっとの間だけな。』
『・・・ごめんね?』
『いいんだよ。好きな子のこと考えて、寝る時間減ったって別に苦じゃねえし。』
『・・・。』

どくんっ。やばい。恋心が、何度も比呂に打ちぬかれる。

『・・で、学年変わって、まずクラスが一緒でほっとして、
そのあとにー・・隈井の事があって・・ってこれは最近だね。』
『うん。』
『お前にとっては・・なんか迷惑な一件だったと思うんだけど。』
『そんなことないよ。』
『・・でも俺にとっては、ちょっと一区切りになったわけ。』
『?』
『・・俺はさ・・付き合う前の話だけど・・・どこだっけ・・ジャスコかどっかでさあ・・
話したことあったじゃん・・・。岸先生にあったりしたの・・いつだっけ・・。』
『・・ああ・・、一年の始めの頃かな・・・。』
『そうだ・・。まだどこか他所他所しかったころ。』
『んふふ・・・。ビーサンがどーとかっていう・・。』
『しまった!そうだ!そういうのは早く忘れて!』
『あはは。』

懐かしい話・・。でも俺と比呂、共通の思い出。

『・・あんときだかに、いじめだかの話・・したよね・・。』
『・・覚えてくれてたんだ・・。』
『忘れないよ。絶対。俺、あの時本当に悔しくてさ。』
『・・・・。』
『まじむかついてさー・・くっやしくてさ・・。』
『・・・・。』
『お前と付き合い始めたら、それがなおさらむかついてさ。』
『・・・・。』
『夢でドラえもんに、土下座した事もあったんだぜ?』
『はあ?』
『「頼むからタイムマシーンを貸してください」』
『あはははは。』
『・・貸してもらえなかったけど。』
『そっかー。』
『夢だからあたりまえなんだけど。』
『その前にドラちゃんはアニメだからね。』
『ふふっ。・・そんでー。』
『うん。』
『ばっさりきっちゃうけど、で、こないだの隈井の一件でさ。』
『うん。』
『あいつがさ、那央にすれ違いざまに、なんかボソッと言ったじゃん。』
『・・・うん。』
『そのときさあ、俺さあ・・こいつかあ〜!!!って直感きて。』
『うん。』
『で、言い合いになって、酷いこといわれたらさ、もう無意識に殴っちゃったんだけど・・・。』
『・・・。』
『あの時の反射神経だけは、天下のカシオのストップウォッチでもさすがに測りきれなかっただろう。』
『あほ。』
『ふふ。』

・・気を使いながら話してくれてる。俺が深いとこまで落ちないように。

『結局お前を泣かせちゃったし、潤也まで泣かせちゃったし・・おばちゃんも泣かせちゃったし、
しまいにゃ停学になっちゃったしさー・・ろくでもないことしちゃったんだけど、でも俺は・・
すげえなんか、・・・うん。なんか一歩進んだ感じがしたの』
『・・・いじめの相手をやっつけたことに?』
『違う。そんなんじゃなくて・・。だから・・。』
『・・・・・。』
『・・・なんか・・なんだろう・・うまくいえねえけど、でも・・なんか・・』
『うん。』
『ごめんね、まって?』


比呂は檸檬ソーダを一口飲んで、軽く咳払いすると、ちょっと考え込んだ。それで・・

『・・お前にとっては・・、きっといじめの思い出の終わりって・・中学卒業までだったとおもうんだよね。』
『うん。』
『けど、クマと俺が喧嘩したら、それが終わりになったって言うか・・・
とりあえず、いじめの記憶が更新されたって言うか・・。』
『・・・。』
『あんな喧嘩一つで・・お前が長い間抱えてたいじめの苦しみを減らせたとは思わないけど・・。』
『・・・そんなことない。救われたよ。』
『・・サンキュ。でも、なんていうかー・・ほら、俺、結局無関係だったじゃん。お前のいじめ問題に』
『・・・・』
『そこに関われたなら、・・那央のいじめに対する思い出の中に、関われたなら・・・』
『・・・・。』
『・・・あーやっぱよくわかんねーや。』
『あはは。』

比呂が言いたい事は、すごくわかる・・・。俺の心の中の比呂は、隈井だけじゃなく、あの頃俺をいじめてた全員を、片っ端からぶん殴ってくれてるもん。

『で、まあ、そのへんはそんなかんじで、安定のあれなんだけど。』
『うん。』
『いろいろそういうのがあって、なんか、もう、俺ら、絶対別れないなって思ったの。』
『え?』
『まあ、結婚は無理としても・・とりあえず・・進路とか
そういうのを考えるまでは、大丈夫だなっておもったんだ。』
『・・・。』
『お前・・・だから、ユッキーは、俺の事をずっと好きでいてくれるなーっておもったし、
俺は自分だからよくわかってるけど、お前の事、多分一生好きだと思うんだ。』
『・・・ひろ・・。』
『だから、なにがあっても、結局俺等は一緒に生きていきたいんだから・・・』
『・・・。』
『生きるとか言うと大げさだな。だから・・まあ・・一緒にやっていきたい?とおもっているんだから・・。』
『ふふっ・・・。』
『だったら俺らに問題とかがおこっても、それは2人で一緒になって、解決していく事だっていうか・・。』
『・・・・。』
『共通の問題だから、2人で寄り添って考えればいいし・・・なら・・
なんでも、一緒なんだから、なんでもきっと・・幸せだなと思って。』
『・・・・。』
『だから・・のんびりと・・やっていければそれでいいから・・・
一緒にいる時間も・・プラモでもやりながら・・のんびりすごしてもいいかなって・・。』


・・・・俺は、ゆっくりゆっくり時間をかけて、比呂に伝えてもらった恋心を
体の隅々まで満たして、幸せで宙に浮いてしまいそうだった。

言葉が出ない。もはや返事すらできない。
目から虹色の涙がこぼれそう。それくらい、幸せが満ち溢れていた。

だまって比呂をみつめる。そしたら比呂がちょっとてれて、何故かイスに姿勢よく座りなおす。
そんで俺をみて、深呼吸して『俺は、那央の事を、ほんとにほんとに・・だいす・・・・・』といったその時

『チキチキチキンカレーセットお待たせしやした〜!』



と、店員が料理を運んできた。思わず壁にデコをぶつける比呂。
『大丈夫ですか? 』と店員に聞かれて、比呂はうつむきながら
『あ・・はい・・。すみません。』・・と、寂しそうにいうのだった。

店員さんが笑いながら、俺の前には、ぴちぴちフィッシュカレーセットを綺麗にすたんばってくれる。

『大好き』っていってくれようとしたんだよね。どうもありがとう。比呂。
そう思いながら俺は、大きな口で美味しいカレーとでっかい幸せをを頬張るのだった。

2007/05/21(月) 09:28:21
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