比呂。

今日、いつもより早い時間に学校にいった。
そしたら坂口が来ててさ、黒板にいたずらがきして遊んでたんだ。

・・それで・・それで・・・

麦も来て・・おぎやんとかもきてさ・・だけど小沢がこなくってさ・・。
『月曜日は絶対行くから。』とかいってたのに・・おかしいなって思ってたんだ。

そしたら・・うん・・。

岸先生が教室に来て・・比呂が意識不明になって病院に運ばれたとかいうんだ。
みんなでギャグだと思ったんだけど・・・でも・・ギャグじゃなくて・・

朝から降ってる雨の中を・・自転車で病院に移動して・・集中治療室の前に行ったら・・
泥だらけであちこちすりむいてる小沢が・・小沢んちのおじさんと一緒に座ってた。

目があったら・・・泣くんだ。小沢が声あげてパニックになりながら泣くんだ。
麦も坂口もみんな誰も喋れなくて・・・中の様子も全然わかんないし・・。
小沢・・比呂に昨夜電話して・・一緒に学校に行く約束してたみたくて・・
で・・・うん・・。
比呂んち近くまで行ったら、比呂の家の前に救急車がとまってて・・人だかりが出来てて・・そしたら・・
ストレッチャーみたいなのに乗せられた比呂の上に救急隊員の人がまたがってて・・
心臓マッサージ・・してんだって。周りにいる人がみんな泣き喚いてて

走り出した救急車を無我夢中で追いかけて・・
道路で転んで見失いそうになったんだけど、サイレンの音を頼りに必死に追いかけて
病院に着いたら救急車がとまってて・・救急外来の自動ドアの向こうで
うなだれてるおじさんたちを見つけたんだって・・。

比呂のね。比呂の家の近くまでいったら・・雪が降ってたんだって。
さっきおじさんが話してくれたんだけど・・・
比呂、今日は学校行くつもりで、あさごはん食べる前にさやくんと・・一緒に遊んでたんだって。
居間に子供布団を敷いて、そこにさやくんを寝かせてたんだけど、添い寝して遊んでたんだって・・・。
そのうちにさやくんが大声で泣き出すから・・・おばちゃんが見に行ったら比呂が寝てて、
さやくんが比呂の隣で泣いてて、おばちゃんは『比呂ー、学校どうするのー?』って声かけたんだけど
そのときおじちゃんが気づいたんだって。

カーテン開けた窓の外に、雪が舞ってること。

おじちゃんがどんだけ名前呼んで、揺り起こそうとしても返事・・無くて・・
息もしてないし、鼓動も聞こえなくて・・・心臓マッサージと人工呼吸して・・
おばちゃんが呼んだ救急車が来て・・・病院に運ばれて・・・

もう駄目かと思ったんだけど・・・でも・・絶対駄目じゃないって信じて・・
うん・・・・。名前をね・・・呼び続けてね・・・。

そしたらね・・・うん。動いたんだ。比呂の心臓。呼吸も・・うん。戻った。
でも意識が全然戻らなくて・・まだ集中治療室にはいったまんまなんだ。
面会時間ギリギリまで・・ずっとおれ病院にいたんだけど・・

そしたらさ・・浅井がね・・浅井がね・・広島から来たんだ。

すごく・・・うん・・すごく・・・。

会いたかった浅井が来たよって・・だから早く目を覚まそうよって
教えてあげたいのに・・俺は比呂のそばにいけない。
ドアの向こうで比呂が、どんな状態なのかもわからない。

浅井は岸先生のアパートに泊まってる。岸先生の判断で麦と坂口も一緒。
俺も誘ってもらったんだけど・・・でも・・ひとりになりたくて
家に帰ってきた。そしたら部屋は静かで・・泣いたら比呂が死ぬんじゃないかって
思ったら・・・俺、すごく怖くて・・

今日は・・朝から一度も比呂から電話がかかってきてない
メールもないし・・・っていうか・・俺・・今日は一言も比呂と喋ってない・・・
手も握ってないし・・日記だって・・・もらってない

木曜日には卒業式の予行練習があるんだよ。三月になったらすぐに・・卒業式もあるんだよ。
俺・・答辞いわないといけないんだよ。入学式のときみたいに・・比呂に見守ってて欲しいよ。
練習しないといけないのに・・こんなじゃ俺・・そんなのできないよ。


比呂、息は苦しくないの?点滴とかされてんの?・・・痛い?
意識ない間って夢は見てんの?どうにかして・・俺の声を聞いて欲しいよ。
電波に乗せたらお前に届く?どうすれば俺の声を聞かせてやれんだよ


『愛してる』って・・あれがお前の遺言になったら嫌だかんな


俺は絶対そんなの嫌だかんな










2009/02/23(月) 22:19:42
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