『うん。』

比呂が目を覚ました。

学校で・・・それを聞いて・・俺、そのあとどうやって予行練習こなして
病院までいったのか、いまいち記憶にない。

病院に・・1時ごろに着いたんだよね。先生たちと打ち合わせがあって、
俺だけ帰るの遅くなっちゃってさ。小沢が待っててくれるっていったんだけど・・
早く比呂のとこに行ってあげてほしかったから、先に行っててもらってさ。

で・・病院着いたらさ・・。ロビーで麦と浅井が待っててくれて
『そろそろ来るかと思ったから。病室変わったよ。』って俺を連れてってくれて
比呂はナースセンターから少し離れた個室に移動になってた。

面会謝絶の札はない。中から笑い声が聞こえる。
ドア開けたら、比呂がベッドの上で座ってみんなと話してた。
俺と目があった比呂は、俺の大好きなあの笑顔で笑いかけてくれたんだよ。

人目とか・・友達の前だとか・・・そういうの・・気にする余裕なんかなかったって言うか
俺・・病室のドアからベッドまでの数歩分の距離を
ぼろっぼろ泣きながら走ってた。比呂に抱きつく。あたたかかった。
『俺も〜!!』っていって、坂口も抱きついた。
浅井も抱きついて、みんなで抱きついて、だけどそんなハグの中心で
比呂は俺の事を抱きしめてくれてた。ぎゅーって、力の入らない腕で精一杯・・
俺の事を抱きしめてくれて、耳元で『ぴんくちゃん。』っていってくれたよ。

少しだけ・・話してみてね・・やっぱりちょっと普通じゃないって事に気づく。
会話はしているんだけど、比呂はほとんど相槌だけなんだ。
胸のアザはだいぶ消えてたけど・・少しだけ喋る時、咳をケホケホしたりして。
管とか色々いれたりしてたから、ノドとか変な気分なんだって。
腕とか足とかに注射とか点滴の痕がいくつもあって・・
顔つきもちょっとぽ〜っとしてる。俺の大好きな寝起きの顔。
時々目をこするから、やっぱりまだ眠たいのかなあ・・・。

俺が病室についてから少しして麦が気づかってくれて、
みんなして飯食いに行ってくれたのね。で、俺ら2人きりになれたんだけど。
比呂、ベッドにぱたんって寝転んで、ぼんやりと窓の外を見るから
俺は窓側にパイプイス移動して、比呂の手をギュって握った。

『大丈夫?』
『・・・うん。』
『・・・・よかったね・・。元気になって。』
『・・・・・・・ん。』
『ここ何日かの事・・覚えてる?』
『・・・・。』
首を横に振る比呂。静かにゆっくりと話をしだす。


『・・だけど・・何があったのかは・・医者の先生から聞いた。
・・・さやと遊んでたのは覚えてて・・そのあとは・・
夢はみてないけど・・何かを考えてたようなきもするし
ただずっと・・なんかの音がうるさいなっておもってて・・
なんかの機械の音と・・ガチャガチャ何かがぶつかる音と・・
・・でも話し声とかは聞こえなかった気がする。
俺が思い出せないだけなのかもしれないけど・・』

比呂の声を聞けていることが、まるで夢のようだった。
ここ数日、俺の一番の願いが比呂の声を聞くことだった。
俺は比呂の髪を撫でて、比呂の手を自分の頬に摺り寄せる。
とろんとした目で俺を見る比呂。

『那央・・。』
『・・・・?』
『・・毎日来てくれたんだって・・おじちゃんからきいた。』
『・・・そんなの当たり前じゃん!』
『・・・・。』
『・・・付き合ってること・・忘れてないよね・・・』
『・・・うん。』
『・・心配だよ。思い出とか・・約束とか・・忘れてたらどうしようって。』
『・・・・・あ・・。』
『・・・・・どしたの?』
『俺・・交換日記・・渡してないよね。』


・・・・ばか。


さっき散々泣いたのに、その言葉でまた涙が出てとまらない。
別にいいんだよ。思い出も何もかも忘れてたとしても・・
比呂が生きててくれるだけで幸せなんだから。

結婚も・・なにもかも・・
比呂が生きててくれてこそ見れる俺の夢。
もしかしたら・・比呂が目覚めた時、俺との恋愛関係を
忘れちゃってたり・・嫌悪したりするようになってたら
俺は黙って身を引こうって思ってた。
大事なのは比呂の人生だ。

比呂が生きていてくれるだけでもういい。
もういいって・・本当に思ったんだ。

なのに・・ばかじゃないのこいつ・・。交換日記なんて・・そんなさ・・
俺と比呂の内緒ごとまでちゃんと覚えててくれて・・
順番まで覚えてくれてて・・ばかじゃねえの・・早くお前の分・・読ませてくれよ。

『比呂・・・。』
『・・・・・・・。』
『俺の事、ちゃんと覚えてる?』
『・・・・・・うん。』
『・・お前の事をスキなことも?』
『・・・うん。』
『お前・・愛してるって言ってくれたよ。』
『・・・うん。』
『結婚してくれるっていってくれたよ。』
『うん。』
『・・・・・・。』
『・・・・・アイスも・・好きだろ。』
『・・・・・うん。』


うん。

好き。

大好きだよ。

もう何年もだよ。


比呂と一緒にいると俺の心のなかの
冷たい部分がぬくもりで溶けて涙になる。


よかった。比呂が目を覚まして。本当によかった。心から思った。
すっげーよかった。


サイコー


2009/02/27(金) 23:23:05
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