比呂の気持ち。 学校にいったら、斉藤が顔にバンソコ貼ってた。どうしたってきいたら、彼女にカバンで殴られたとか言う。 比呂もちょうど学校に来たから、たまたまそばにいた小沢や坂口と一緒に、斉藤の話を聞いた。 『俺・・野球部の練習たてこんでてさ・・冬の大会に向けて練習試合も多いし・・・だからこないださ・・・ しばらく会えそうにないって言ったんだ。で・・、俺・・ほら・・今さ、副部長じゃん。 すげえ色々考えることあってさ・・・彼女にそういうことも話して冬の大会まで野球に集中したいからって言ったんだ。』 ・・そっか・・。 『ここんとこ急に練習時間が延びたりしてさ、デートすっぽかすことになっちゃったりしてて・・。 やっぱ悪いしさ・・。彼女の事も考えて、俺はそういったんだけど・・。そしたらカバンでバコーン殴られて、 金具で顔切って、それっきり。ったく、女って謎だよな・・。』 痛いの苦手な坂口が、うえっと顔をしかめる。小沢は黙ってる。比呂も黙ってる。俺は斉藤に激しく同情をした。 『なんで瑛が殴られんの?彼女の事考えてのことなのに。ひどくね?』 斉藤は黙ってる。比呂が窓の外を眺めながら何か考えてた。 坂口は、瑛の頬をのぞいて『痛かったろー。思い切り叩かれたの?』といって、斉藤の肩をたたく。 斉藤が『ああ。すげえ痛かった。』とかいうから、俺、なんか本気でその女に対して頭にきちゃってさ。 『どんな神経してんだよ、お前の女。瑛は全然悪くないよ。』っていって、斉藤の頭を撫でた。 その時・・。比呂が近くにあった机をけっとばした。 みんなでビックリして、坂口なんかは座ってた机から落っこちそうになったほどだ。 比呂は立ち上がると斉藤に『ちょっとこいよ。』っていって、廊下に出て行く。 斉藤があとを追っていって、階段の踊り場で2人が話し出した。 比呂がなんとなく喧嘩ごしだったから、俺は急いでそばに行く。 なにを比呂が怒ってるのかわかんなかったけど・・ 俺がそばにいれば、喧嘩になってもすぐに止められると思って・・。 『あきらー・・。おまえさ、何考えてんの?』 いきなり比呂がそんな事言う。斉藤は黙ってて、だから俺が助け舟を出す。 『比呂、どうしたんだよ。・・斉藤はさっき事情はなしたじゃん。』 比呂の腕を掴んで言うと、その腕を振り払われた。 『お前は黙ってろ。』って俺を睨むと、比呂はまた斉藤に話しかける。 『・・お前がどんだけ彼女の事を考えてそう言ったのか知らねえけど どんだけ酷いこと言ってんだよ、お前。かよちゃんに謝れ。』 ・・かよちゃんってのは、斉藤の女の事なんだろう。俺は名前までしらなかったけど。 俺は比呂の言葉に腹が立った・・・。思わず比呂を突き飛ばす。 『ふざけんなっ。比呂は友達よりも、女の肩をもつっていうのかっ?! 斉藤はこんな怪我するほど、目いっぱいぶん殴られたんだぞ? いつもの比呂だったら、斉藤の気持ちとかわかってやれるんじゃねえの? なんだよ、今日は・・どうかしたのかよ。』 斉藤は黙っている。比呂が俺のほうをみた。いつもの優しい表情じゃない。 『・・彼女に目いっぱいの力で斉藤を殴らせることになった理由を、何で考えらんねーの?』 ・・・・俺は思わず黙る。 『だって・・・それは・・さっき・・斉藤が言ったことだろ。』 『言ったことってなんだよ。』 『だから・・斉藤が・・色々いそがしくって・・・会えないって言ったからだろ・・。』 俺がそういうと、比呂は俺を見て・・そして斉藤に視線を移し、話し出した。 『それは、斉藤が彼女に話した斉藤自身の事情じゃねえの?』 『・・・・・。』 『それを言われた彼女が斉藤の言葉にどう思ったかが、殴った理由なんじゃねえのかよ。』 『・・・・。』 比呂が俺をみて、憮然とした顔をする。 『他人の痴話げんかじゃねえんだよ。斉藤とかよちゃんの問題なんだ。 首突っ込むならちゃんと考えろ。うっかりしたこと言うんじゃねえよ。』 ・・・・。 『瑛も単純すぎるわ、お前は。考えてやれよ、お前の女だろ。 何でお前が見失ってんだよ。なんでちゃんとわかってやんねーんだよ。 俺はお前のほうが悪いと思う。誤解があるなら早くといてやれよ。』 階段下から声がして、俺等は話を中断した。 斉藤は何か考えるところがあったらしく『かよに電話するわ・・』とかいって、屋上の方に行った。 とにかく俺は納得がいかない。すごい悔しくて・・下から来た奴らが階段をあがっていった後、比呂に文句を言った。 『比呂は酷いよ・・瑛は何も悪くないじゃん・・。なんで俺にまで酷いこと言うんだよ・・。あほひろ・・。』 比呂は・・比呂は俺のほうをみる。瑛がいなくなったら少しだけ 表情が柔らかくなった感じだけど・・でも・・やっぱ、いつもと違う。 『あのさ・・那央・・。』 『・・・・なんだよ・・。』 『・・何かに集中したいから会わないとかさ・・そういうのってどーなの?』 『・・・・・。』 『・・・そういうことを・・言った斉藤を、酷いと思う俺がおかしいのか?』 『・・・。』 『すっぽかされてもガマンして斉藤についてきたのに、野球理由で会えないとか言われた彼女の何が悪いんだ。』 『・・・・だって・・殴って怪我させたんなら・・・悪いじゃん。』 『・・・殴ったかよちゃんが・・そのあと何にも考えてねーとでも思ってんの?』 『・・・・・。』 思わず黙る俺。だけど・・だけど・・。比呂は、ふーっとため息をついた。そんでゆっくり話し出す。 『・・那央はさ・・毎日俺といるのに寂しがるじゃん。学校も一緒でバイトも一緒で ずっと一緒にいるのにさ・・それでも年中泣き喚いてるじゃん。』 『・・・それは・・だって・・。』 比呂は階段に腰掛ける。俺も隣に座った。 『殴って終わりじゃねえんだよ?殴る前には理由があるし。 殴られて怪我したことなんか、小さいことだよ。治る範囲なんだから。 俺らは男なんだからさ・・そんなのたいしたことなんかない。 あいつの彼女がそんだけのことをしたってのが、でっかい問題なんじゃねえの?』 『・・・。』 『いくら金具がついてたからっていっても・・相手は女だし身長差もあるんだ。 そんな殴り方するほど彼女を苦しめた理由は、絶対斉藤にあるんだ。』 『・・・でも・・斉藤が言ってたことは正しいよ?』 俺はさっきの斉藤の発言を振り返ってみて、落ち度を見つけられない。 比呂は斉藤に対して厳しすぎるって、そう思ってちょっと悲しい気分になった。 だけど・・・だけど・・その後比呂が話す言葉を聞いて、俺はすごく納得してしまったんだ。 『集中したいから会わないって・・・・なに?っておもうんだよ。 俺も前に、お前に・・塾のテストあるから集中したいって言われて・・ あんときは確か3日間くらいだったけど・・どんだけショックだったか。』 『え?そんなこといったっけ・・?』 『言ったよ・・やっぱ忘れてるじゃん。俺はすっごい悲しかったのに。』 『・・・・。』 『期間限定であえないとか・・ふざけんなとか思ったよ。 わけを話してくれれば俺の方から、気をつけることもできたのに・・』 『・・・。』 『しかもあんとき、お前のほうが、初日に俺に電話してきて、会いたいとか言ってきてさー、うやむやになったしな。』 『えー・・ごめん。』 『馬鹿。そのおかげで俺は救われたんじゃんか。よかった、俺は必要とされていた!ってな。』 『・・・比呂・・。』 比呂は俺を見る。 『いきなり野球に集中したいから会えないっていわれた彼女の気持ちを考えてみてくれよ。 相談も何もなしに、いきなりそんなこといわれたらどう思う?』 『・・・・・。』 『約束を何度ドタキャンしても、別れずについてきてくれた彼女に言う言葉か?それが。』 『・・・・。』 『そんな悲しいことを言う前に、彼女に相談すればよかったんだ。 会えなくて辛いねとか・・ちょっと野球を頑張らないといけないんだけど、どうすりゃいいのかとか・・。』 『・・・・・。』 『・・・2人の事は2人で話し合って、2人で考えないと駄目なんだ。 自分ひとりで相手の事考えて最善策を出したとしても そんなの結局ひとりよがりじゃん。自分の想像出来る世界の中だけでの最善策じゃん。』 『・・・・・。』 『大体・・どんなに時間が足りなくたって、メール一回打つ時間ぐらいあるだろ。 電話で声聞くだけだって、気持ちの支えになるじゃんか。』 『・・そうなの?』 俺は比呂を見る。 『そうだよ。俺はお前の声聞くと、疲れ取れるよ。ほんとに。 付き合って結構たつけど、いまだにすげえうれしいよ。お前の電話とか・』 『・・・・比呂。』 比呂は、階段の下のほうを見つめる。 『好きな人間のために割く時間なんか・・いくらでもあるとおもわねえ?確かに・・声聞いたら 緊張感が途切れるかもしれないけど、24時間集中しっぱなしとか、そんなの絶対ありえねえじゃん。』 『・・・・うん。』 『時間とかの問題だってそうだよ。斉藤が都合つけられないなら、彼女が合わせていけばいいんじゃん? なのに、勝手に斉藤は会うのを諦めてさ・・彼女はそういう努力もさせてもらえないじゃん。』 『・・・。』 『あいつらはさ、付き合いが長いのね。中学の時からだし。だから、斉藤はさ・・細かく言わなくても 彼女はわかってるって・・どっかでそう思ってんだよな。でも、わかってたってさ・・斉藤のことをわかってたって、 受け入れられないこともあるんだよ、彼女には。』 『・・・・。』 比呂は言った。 『好きなら会いたいのは当たり前じゃん。俺は、斉藤を殴った彼女の気持ち、すっげーかわいいし共感するけど。』 俺は考えた・・・。そして、斉藤の彼女に嫉妬をした。 たしかに斉藤の彼女のしたことは、よく考えたらすげえキュートなことだと思った。 斉藤に会えない宣言されて、きっと文句も言いたかっただろう。 でも、斉藤の事情を考えたら、口から言葉を出せなかったに違いない。 だからって、笑顔で承諾することも、彼女はできなかった。だから殴ってしまった。自制がきかないで。 それは何故か。何がそうさせたか。 会えないなんて絶対に嫌だという、彼女の斉藤への愛情がそうさせたんだ・・・。 予鈴がなって、俺たちは話をやめて教室に戻る。階段あがると坂口たちが俺らの話を盗み聞きしてた。 比呂が黙って2人の間を通り過ぎて教室に入っていく。その後姿を見ながら小沢は黙ってたけど、色々感慨深そうな顔してた。 俺は坂口に肩叩かれて『愛されてるね★』って言われたよ。 HR始まるギリギリ前に、斉藤がもどってきた。席に着くとすぐにHRで、電話の内容を聞くことができない。 HRが終わると斉藤は、比呂の席に歩み寄って話をしてた。 その表情はすげえデレデレ顔で、そんな斉藤をみて比呂が『ノロケ話はいらねーし』と、迷惑そうな顔で笑った。 2007/11/08(木) 23:50:06 |
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