ぬくもり

ラブホです。

比呂がー朝からずっと変になっちゃって、学校でもずっと、ずるずる泣いてて
ノガミ先輩が噂聞きつけて、教室まで見にきたほどだった。

朝、俺が下駄箱で靴を履き替えてたら、坂口になでなでされながら比呂がきて・・
すでに泣いてるの。で、岸先生が通りかかって、比呂を職員室に連れて行ってさ。
『先にいってて。』って岸先生にいわれたから、俺等は先に教室にあがって
事情を坂口にきいたら、坂口も、わんわん泣いちゃって。

朝おきて、歯を磨こうと思って下に降りたら、すっごい普通に朝飯があって
比呂の箸とかもちゃんと置いてあったんだって。
で、なんか、わけもわからない状態で、飯食って、そんで歯を磨いて
二階に行って着替えて支度して、玄関に行って靴を履いてたら
サヤ君を抱いておばちゃんが、寄って来たんだって。
で、『にいに、いってらっちゃい。』っていって、サヤくんの手をもって、
バイバイってさせたんだって。

『いってきます』って、サヤ君の小さな手をそっと撫でて
玄関開けて、外に出て、玄関閉めたら、泣けちゃって、
しばらく家の前で泣いていたらしい。

頑張ってちゃり漕ぎ出しても、涙が全然とまらなくて、
坂口が会ったときは、道端で比呂がうずくまって泣いてたみたい。

職員室から比呂がきて、みんなで泣き顔見てびっくりして
・・ほら・・人前で泣くことなんか、あんまないからさ。
どうしたんだー?てきいてさ。
比呂がさ、ひっくひっくいいながら、事情を話してさ。

みんなで泣いた。だって、うれしかったから。

比呂が・・比呂の家が、どんだけ複雑かなんて、光が丘の俺らの年代のヤツは
殆んどが知っている。比呂はもてたし、飛びぬけて変わった家族環境じゃん?
母親一人に、男が4人同居してるって有名だったんだって。
俺は中学の頃、イジメられてみんなに無視されてたから、あんま詳しく知らなかったけど。

最初は憧れるんだよね。そういう普通じゃない家族構成に。
でも、俺らももう高校生じゃんね。単純じゃないことに気づく年じゃん。

クラスのヤツのほとんどは彼女もちで、
男と女の恋愛みたいなものも、なんとなくだけどわかってきている。
親が不倫してるヤツもいるし、離婚して母子家庭になったヤツもいる。
父親と母親なんて、恋愛だったり遊びだったりの延長線上にあるもので
実はすごく不安定なものなんだよな。
家庭なんてあたりまえのように存在するものような気分でいたけど。

俺たちは、そんな不安定で、脆いものの上をあたりまえのように歩いて育ってきたんだよな。
受験めんどくせーとか、運動会ウゼーとかおもいながら
あたりまえみたく出来てる朝飯のおかずに文句をいったりして

なんか・・。うん。ごめん、俺の親。あんたらは、俺の見えないとこで、
随分頑張ってくれてたんだよな。

脆いもののうえを、あたりまえのように俺たちが歩いてこれたのは
俺たちがぐらつかないように、踏ん張って支えてくれた人がいたからだ。
2人だけの時間をたくさんもって、いっぱいラブラブでいたかっただろうに
俺たちのために走り回って、ビデオとったり、写真を撮ったり
病気になれば面倒見てくれて、俺がいじめにあってたときに母親が
ゲッソリ痩せたのも覚えている。

正月、父ちゃんが酒を飲むたびに俺を見て
那央に沢山友達ができて本当によかったっていって泣くんだ。
大人のクセにみっともないって思ったけど、そうじゃないんだよな。
俺・・今ならそんな父ちゃんが、すげえ誇りに思える。
この人たちに育ててもらってよかったって思うよ。


最近、なんか・・いろいろなことに、今更ながらきがついて
しみじみ俺って幸せなんだなーとおもうと、比呂の過去がすごい
悲惨でつらいもののように思えてくる。

でもさ、過ぎた比呂の過去をどうすることも、俺にはできないけどさ・・
よく比呂が言うように、あれなんだよ。
未来はこれからできるものだから・・・・。うん。

あーでも、かなしい・・。比呂がそれを言うのは
自分にきっと、言い聞かせるためだから・・・・。

今過ごす一秒一秒が、確実に過去になっていくなら、ここから変えてくしかないんだよな。
俺は家族じゃないけど、でも、おじちゃんだって血がつながらないのは一緒だ。
比呂は血のつながり以上のもので、おじちゃんやおばちゃん、サヤ君とつながって、

俺や、麦や小沢や坂口や、・・浅井たちみんなともつながってる。
同じ時期に、同じ場所で生きてる仲間?すっごいシンプルだよな、なんか。
でも、もともと俺等はさ、たった一回限りの命を生きる単純な生き物だから。

何いってるんだか、わかんなくなっちゃったよ。
比呂がとにかくさ・・泣いてしょうがなくてさ・・。
いつもと逆で、変な感じだけど・・・・でも俺思うの。

比呂はさ、子供の頃、ちゃんとこういう涙を流してこれなかったじゃん。
子供の涙は重いんだよ。自分の感情にすごく忠実だから。
これから先、比呂が100まで生きて、毎日涙を流したとしても、
子供の頃の10年ぐらいのあいだに、ガマンしてきた涙の量は
消化できないんだろうなっておもう。

それに比呂は、子供の頃の思い出をどうこうしようなんて思ってないしね。
この子は、苦しい過去ごと全部背負って歩ける強さをもっている。
泣き虫の俺を片腕に抱えてね。
・・・・すごいよね。比呂は。


でも今日は、ぐずぐず。ラブホついたら、泣きつかれて
倒れるようにベッドに寝ちゃった。寝ながらヒックヒックいってる。
家族愛を求めないことで、バランスを保ってた比呂は
もしかしたらこれから、大きく揺れ動くことになるかもしれない。

俺、支えられるかな・・・。
大丈夫かな・・・・。

でも、比呂を支えるのは俺以外の誰でも嫌だから・・
だからがんばる。


とりあえず、目が覚めたら、一回エッチしてくれないかなー。
甘えた様な声で名前を呼ばれたい。
そしたら俺は、もっともっと甘えた声で比呂の名前を呼ぶよ。







2008/01/07(月) 16:20:25
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