幸村家のお婿さん

今日は、朝から一家で、すこぶる風邪。
央人菌が蔓延して、父ちゃんも母ちゃんも俺も休んだ。央人も相変わらず風邪でダウン・・・。

風邪薬が朝の分できれて、でも薬局にいく元気なんかない。
俺と父ちゃんは熱と咳。かあちゃんは気持ち悪いのと寒気と頭痛。
クソ兄貴は全症状フル出動。どんだけの菌を溜め込んできたんだよー。くっそ。

母ちゃん以外は食欲があって、昼の時点でストック(昨夜の飯とかの残り)は食い尽くした。

あーもー、このまま一家で餓死だ・・と、しくしく泣いていたところに比呂がきてくれた。

大量の食料と薬を持って。



玄関に出たのは俺の父ちゃんだった。
俺はそのとき。もーれつに関節が痛くて、居間からクビを覗かせるだけで必死だった。
『那央くんからメールがあって・・とりあえず・・これ・・・。』
買ってきたものを親父に渡す比呂。そして、俺に声をかけてくれた。

『大丈夫かー・・?』『ひろー・・・・。』
『薬・・市販のヤツで効くのか?』『・・・・・・。』

比呂は俺の父さんに『薬だけもらえるなら俺、取りに行きますよ。時間あるんで。』という。
俺の父さんは遠慮しない男だから、比呂に『すまないね・・・頼むよ。』というと、
かかりつけの医者に電話をして処方箋を出してもらうように頼んだ。

比呂が薬をとりにいってるあいだに、死ぬ気で階段を這い上がり
部屋に行って、一番大好きなパジャマに着替えて、髪をとかした。
んで、階段の上から枕と毛布とかけ布団投げ落として
階段下りて、玄関前に掛け布団をひいて、その上に寝た。

幸村家一同の薬を持って、帰ってきた比呂は、俺の姿にのけぞる。

『・・・なーにやってんだ、おまえは。』
『・・おかえり・・。待ってた。』

『あほ。おじちゃんたちは?』いいながら俺の頬を触る比呂。わ・・・。つめたい。
『・・・熱あるな。』そういうと、比呂は俺を背負って二階に連れて行った。

俺をベッドに寝かすと、すぐに下におりていって、
枕だの布団を持ってきてくれて、かけてくれる。・・・うれしい。

『待ってたの?あそこで。』『うん・・・。』
『・・・おまえはー・・・。』『・・・・。』

比呂が笑いかけてくれたから俺も笑う。
『薬、おいてくるね。』そういって、比呂は階段をおりていった。

ほどなく比呂が階段をあがってくる。
『じゃあいくよ、バイトだから。』
『・・・いっちゃうの?』
『・・・・行っちゃうよー。今、おじちゃんにも言っちゃったし。』
『・・・おれの父さんに?』
『うん。・・バイトあるっていったのに、ずっとここにいたらまずいだろ。』
『・・・・・。』
『いい加減なヤツと思われたくないし。』
『・・・・・。』

完璧お婿さん。大好きだ。

抱きついたら、抱きしめ返してくれた。
『・・・ちゃんと食って、薬飲めよ。』
『うんっ・・・。』
『もう玄関で寝ないよーに!』
『・・・うん・・・。』
『かわいいな。このぱじゃま。』
『!!!!』

あまりの嬉しさに、免疫力あがって、風邪なおっちゃいそう。

比呂が俺の部屋をでていったら、玄関で人の声がする。
あがってきたのは、兄ちゃんの彼女だった。
『ひろとー・・・。』って声が、兄ちゃんの部屋に入っていって消えた。
ちょっとしたら、俺の部屋に彼女が入ってきて『那央くん、大丈夫?』っていう。
俺が頷いたら、にこっとわらって
『お友達が買ってきたもの、あたためるね。お粥もつくるから、もうちょっと待ってて。』
といった。・・・・・・・・くそ。いい人だ。

こんな出来た嫁さんだったら、あほ央人も何とか人生を進んでいけるだろう。

比呂のくすりと買ってきてくれたおかず、
そんで央人の彼女さんのお粥のおかげでだいぶ調子よくなった俺。
小沢に電話して、比呂の今日一日の様子をきく。

『比呂、今日実習中に手首怪我したんだ。』
『え?』
『や、打撲だったみたいだけどさ、ツッチーが実習室でコケてさ
旋盤機械のとこに頭ぶつけそうになってー・・』
『うそ・・大丈夫だったの?』
『比呂がとっさにかばったんだけど、そんとき機械に手首モロぶつけてさ。』
『・・・・・。』
『保健室いってシップしてもらって、そんでそのままあれだけど
しばらく痛いんじゃないかなー。』

・・・・。

電話きったあと、俺、泣けちゃって。

俺をおぶって部屋に運んでくれた比呂・・・。手首痛かったんだろうなー・・。
何も言わないんだもん・・・。パジャマは褒めてくれたのに。

家に来たとき、おいていってくれたノートのコピーをみてみたら
坂口が俺にあてたらしいメッセージが書き込まれていた。

<ゆっきーがこないと、紺野君が怖いです。早く治ってください。さかぐち>


俺の前ではすごく優しかったよ。俺の前ではすごく元気そうだったよ。
せっかく下がった熱が、また上がりそう。
明日までに意地でも風邪なおそ。そんで比呂の手首を撫でてあげたい。

2008/01/30(水) 21:34:10
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