比呂のビーサン


今日は、比呂がうっかりビーサン登校。体育も外掃除もビーサンで
『リゾート気分でいいなあ』と言われ続けてた。

で、部活後に一緒にジャスコに行ったんだけど、そしたら数学の岸先生に会った。
岸先生とは今朝学校で、比呂のビーサンの件で盛り上がり、
『ジャスコにもいく』とか言ってたから、 会うかなーと思ってたら本当に会えた。

比呂ががちゃがちゃで遊んでて、俺はその横で比呂を観察してて、
そしたら背後で『よお、暇人。』とか言われたから振り向いたら岸先生がいるじゃん!

『先生、マジで来たの?』『うん。きたよ。お前らいるかなーって思ってね。』
『ほんとに?あ、そだ。結局ビーサン買った?』
『うん。黒白のやつを一足買ったよ。』
『あーーー!まじ?!いいね!あれ、いかすね!俺も最後まであれと迷ったもん。』
『そうか(にやにや)』

比呂と岸先生の会話を聞きながら、俺はニコニコと笑っていた。
話をしながら比呂は俺の腕をぱしぱしたたいて笑ってるし、
岸先生は、俺の頭をずーっとなでくりまわしてる。あはは。

ひとしきり話が終わると
『俺、職員室のコーヒー買わなきゃいけないから行くよ。』
といって、 岸先生が食品売り場のほうに歩いていってしまった。
『『さよならー!』』
って、比呂と手を振って、俺らも帰ろうって話になった。

でもさみしい。さみしいから、『腹減ったね。』っといってみた。
比呂は、あっけらかんとした顔で、『わかる。じゃ、なんか食いに行こう』っていうと、
ジャスコの店内図で店をチェックし始めた。やったね。誘導尋問(?)成功!!
話し合いの結果俺たちは、ケンタで人生について語ることにした。
ちなみに人生について語ることにしたってのは、俺が勝手に決めたことだけど。(しかも心の中で)

そしたらね。比呂が超ご機嫌なんだよね。何お前ってくらい、幸せそうに食ってるんだよ。
『うまいねー。』『だよな。この世の物とは思えないよな。』・・・とかいってんの。
『好きなの?ケンタ。』
『うん。大好き。』
『知らなかったよー。』
『つか、から揚げ全般が大好きなんだー。』
『そうかー。そういや、なんか前にそんなこと言ってたよね。』
『言ったかな・・俺・・。』

おっもしれえな。から揚げ好きなんて。子供か。そんなことを思ってたらさ、比呂が急に俺に聞くんだよ。

『幸村ってさー頭いいじゃん。』
『・・うん。』
・・うん・・とか思いっきり言っちゃったよ、俺のあほ。
『すごいよね。家で一日にどんだけ勉強してんの?』
『俺?』
比呂は、俺を見て無言で頷く。だから俺は正直に話した。

『帰ってから最低2時間かなあ。塾があるときは塾の復習だけ。
俺さあ、勉強好きなんだよね。なんか嫌味に聞こえるかもしんねーけどさ。』
そしたら比呂が、ん?って顔をする。
『嫌味?なんで?』
『だってさ、勉強好きなんていうとさ・・嫌な感じしね?なんか・・。』

そしたら比呂はげらげらと笑ってこういうんだ。『なーんでだよ!お前、気にしすぎだよ!』
『・・・でも実際俺、それが原因でいじめられてたし・・。』

・・そんな風に笑い飛ばしてくれるやつなんかいなかったし・・

『ねえ、イジメって、そんなひどかったの?』
『・・・無視ってさ・・すげえ、心にクるよね・・。』
『シカトされてたって言ってたよな。前に。』
『うん・・。』
『・・・なんかあれだよな・・。みんながかわいそうな感じだよね。』
『・・・?』
『だってあれだよ。お前無視してたやつの半数以上は、仕方なくやってたんだと思う。幸村その性格じゃん。』
『・・その性格?』
『いいやつじゃん。お前。だからお前を無視するのって、周りのやつらも相当苦痛だったと思うよ。』
『・・・』
『イジメの首謀者とかっているの?』『・・・ああ・・。まあ・・。』
『名前教えろよ。俺が文句言ってやるよ。俺、ずっと思ってたんだ。こないだお前にそれ聞いてから。』
『比呂・・。』

比呂はもうニコニコしてない。

『ふざけたハナシだよ。ほんと、むかつくよ。幸村はいいやつだよ?でもお前全然自分に自信ねえだろ。
環境が悪すぎたんだ、きっと。お前は悪くない。お前は全部自分のせいだって思ってるけど、
全然そんなことはないんだよ。わかれよ?そういうのはちゃんと。』

・・やばい・・・勝手に涙が目に溜まる。こんなとこで泣くわけにはいかないのに・・。

『や・・でも俺にも落ち度がきっと・・あった・・と・・。』
そこまで言うと、比呂は『店、出よう』といって、トレーを手にしてごみを捨ててくれた。
そんで、俺のバッグをもって、俺の手を引いて店を出た。
俺の目からは涙があふれる。ジャスコを出て駐輪場の手前の暗がりで俺はついにへたり込んだ。

比呂が俺の横にしゃがみこむ。
『・・落ち度なんかあるわけないよ。落ち度ってなんだよ。中学生だろ?落ち度もなにも、第一あれだよ、
正しいイジメなんかないんだよ?無視するやつのほうが絶対悪い』
・・ついには嗚咽まで混ざる俺の泣き声。こんなに泣くのは初めてで、体がどうにかなりそうで怖い。
『無視は放棄だ。そうだろ?ね?考えてみなよ。お前が悪いなら、注意すりゃいいんだ。でもしない。
なぜだかわかるか?注意するようなことがないからだよ。ただ気に入らないだけだったんだよ。』

・・・比呂が、一生懸命話してくれてる。

『勉強できるし、性格いいから、妬まれたんだ。それしか考えられない。お前は何にも悪くねえんだよ。
お前はそれを、全部自分のせいにしてるみたいだけど・・もうまじで忘れな。
忘れらんないんだったら、そいつらと会って、無視の理由吐かせようぜ。俺がやってやるよ。』

駐輪場の前を車が通った。暗がりが一瞬車のライトで天国みたいに明るくなる。
そしたら比呂の顔が見えた。目にいっぱい涙がたまってる。

光が通り過ぎて闇がもどる。あたりの静けさに思わず俺らは黙り込んだ。
比呂が・・比呂が涙を拭って、はあっと息を吐いて夜空を仰いだ。

『入学式のとき・・お前が泣いただろ。あの時俺・・本当に困ったんだ。』

比呂はあの時、自分がいった『エロ村ハゲ』で、俺が泣いたんだと一瞬思ったみたい。
だけど俺が比呂にすがりついた時、理由は別にあるのかもって、ちょっと安心したんだって。
でもその後に、俺は比呂に、自分の中学時代の話をした。それを聞いて比呂は思ったそうだ。

何であの時、無責任に、『俺が泣かせたんじゃなくてよかった』なんて思ったんだろうって。

・・・考えすぎは比呂のほうだ。でも俺は、そんな比呂の性格にすくわれている。


結局その後、なんとなくその話を終わりにした俺らは、自転車を転がして、とぼとぼと帰り道を歩いた。
比呂のびーさんがぺたぺたと、気の抜けた足音をだしている。

『ごめん。』と比呂が言う。だから俺は『何で』ときいてみた。
『なんか俺・・つい・・言い過ぎた・・。』なんて申し訳なさそうに謝るから、
『そんなことないよ。うれしかったよ。』といって、俺は笑った。

ほんとだよ。すげえうれしかったんだ。
比呂の口から『お前は悪くない』って言ってもらえた事が、どれだけ俺の気持ちを救い、楽にしてくれた事か。

すげー泣いた・・・。泣きすぎてのどが渇いて、帰りにコンビニに寄った俺は、炭酸買って一気飲みした。
比呂は比呂で、遠くのほうで、タバコを吸って泣いていて、それを見てたら俺もまた泣けた。

ずっと気にしてたんだって。なんとなくだけど気にしてたんだって。
そんなやつには見えないのにな・・・。
でも俺すっげえ、うれしかったよ。すっげえすげえうれしかったよ。







Post at 23:20 // Date 2006 ・ 04 ・ 25
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