『愛について語った』

バイトの休憩が比呂とちょうど同じで 、スタッフルームでカップラーメンを食った。
俺はどこかのご当地ラーメン系のやつに、ウーロン茶。
比呂はヘルシー志向のラーメンに、当然のごとく本日もファンタだった。

スタッフルームにはテレビがない。 だから会話に集中できて嬉しい。
ラーメンをずるずる食いながら、二人で恋愛観について語った。

『比呂ってさあ・・結婚願望強い?』
『あんまかな。・・お前は?』
『・・あんまかな・・。』
『まだこの年だもんな』
『だな。』

ずるずると、ラーメンをすする。

『お前ってどういう女が好き?』
『年上。』
『なんで?』
『・・なんとなく。』
『年上の、どんな女が好き?』
『頭のいい人。』
『ふーん。』

若干ショック。

『お前は?』
『・・俺は・・運動神経よくて、頭はどうでもよくて、黒目がでかくて、ほがらかな人。』
『ほがらか?ほがらかって・・なんだっけ・・・。』
『あはは。・・ほがらかはともかく、まああれ。頼れる人がいいね。』
『・・頼れる人?甘えられる人とかじゃなくて?』
『ああ、甘えたいねえ。でもやっぱ、俺こんなじゃん?』
『うん。』
『だから頼りたい。守って欲しい!』
『彼女に守ってもらうの?まあそれも、ありっちゃありかもね。』
『ありだよー。やっぱさー。支えあえるのが一番だもんな。』
『ああ、それはいえる。』

お互いラーメン完食して、飲み物飲んで、ぼーっと考える。 すると比呂が、話を始める。

『俺さー・・、中学のときにさー、年上の人と 付き合ってたんだけどさー・・』
『うん。』
『今思うと、俺、その人に守られっぱなしだった気がする。』
『・・・・なんで?』

比呂は席を立って二人分のラーメンの空き容器を捨てると、 壁にもたれて言った。

『俺はさ、あの人を一生懸命守ってたつもりだったんだよ。
嫌なことがあったら慰めるとかさ、歩くときは手をつなぐとか。
でも俺がそういうことを出来たのは・・ 大人の世界で必死に俺とのことを、
あの人が隠してくれてたからだったんだなーって・・。』
『・・・。』
『俺、とにかくその人が大好きで、俺が守るって偉そうに思ってたんだけど、
結局それはあの人が、必死に作ってくれた世界の中だったから 通ったことで、
普通だったら俺には何もできなかったし、付き合うなんてもってのほかだったんだけど・・。』
『・・・・比呂・・。』

比呂が席に戻る。そしてジュースをぐいっと飲んで俺を見た。

『まあ・・もう終わった話なんだけど。』
『うん。』
『・・・・・・。』
『・・・・。』


比呂は飲み終えたジュースのペットボトルを ゴミ箱に入れて、タバコを取り出した。

『比呂・・。』
一服するため、外にでようとする比呂の背中に声をかける。
『・・・?』
『・・その人との終わりって・・どんな感じだった。』

比呂は、タバコに火をつけて、ドアを閉めながらこたえてくれた。


『ふられた。俺が。』


ドアが閉まる。比呂は廊下の一番奥にある窓辺でタバコを吸うんだろう。
俺がスタッフルームにいるから、この部屋で吸わないでくれたんだ。


比呂がふられた。 想像がつかない。

中学の卒業文集を見たけど、比呂は眼をひくほどかっこよかった気がする。
まあそれは、俺の目に恋心フィルターがかかってるからかもしれないが。

俺はまだ恋愛経験がない。片思いは、今現在進行中なわけだけど
比呂が思ったよりも、しっかりとした恋愛観をもっているのに驚いた。
ならなんであいつは、そのへんの女と、誰かれかまわず寝るんだろう。

比呂が過去の女の事を『あの人』と呼んでいるのを聞いて
俺は、みぞおちの辺りが痛んで、息もろくにできなかったよ。





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