風邪もすっかりよくなって、午後授業はちゃんと受けられた。
俺、今日から比呂の恋人だ。世界中の幸せ全部貰ったような気分。
授業中に比呂と目が合ったら、比呂が俺から目をそらした後に、
へへって照れ笑いをしているのが見えて、胸の奥がキュンとなった。

『一緒に帰る?』帰りの会が終わってから、比呂が俺の腰にかるく膝蹴りして聞いてくる。
『いいの?』俺がそういうと、『うん。いい。』といって比呂が笑った。

その時教室の前のドアから、岸先生が顔をのぞかせて、『幸村ー、風邪大丈夫ー?』と俺に声をかけてきた。
俺が頷くと先生は、『ちょっと時間あるから、今日の授業のとこ教えてあげるよ。』という。
保健室で寝ていた時に、数学の授業があって、その補習をしてくれるんだって。

あ・・でも比呂と帰る約束したばっかなのに・・・。

俺は、困ったような顔で、比呂の方をじっとみた。そしたら比呂は、ふふっと笑い、俺の肩を叩いてくれた。
そんで、岸先生のとこまで歩いていくと、『どんくらい?俺、幸村と帰る約束してるんだけど。』と聞いている。

わあ・・・なんか・・・なんか・・うまく言えないけどすごい照れくさい。
友達の時とはまるで違う繋がりめいたものと、守られているという安らぎを実感した瞬間だった。

『20分くらいかな。』・・・岸先生が言う。すると比呂は俺のほうを見て
『学校探検してくる。20分したら職員室の方に行くよ。』といって、教室を出て行った。
でもすぐに顔をドアからのぞかせて、『お前、もし早く終わったら、あそこで待ってて・・音楽室の前。』といい、
俺に笑いかけて手を軽く振ると、今度こそどこかにいってしまった。

岸先生との勉強は、15分ぐらいで終わって、俺はいそいで音楽室の前まで上がり比呂を待った。
・・・ああ・・ここ、あったかいな。音楽室の前の廊下は、他のとこより窓が多くて、
しかも日当たりも最高で、すっごく温かいんだよね。だからここで待てって比呂は言ったのかな。

これって世間一般的にいうところの『彼氏待ち』というやつかな。
・・・付き合い始めてまだ数時間で、こんなに大事にしてもらっちゃってる。

少ししたら、比呂がたらたらと、かったるそうに歩いてくる。
俺がにっこり笑いかけたら、比呂もだまって、にこりと笑った。・・・・わあ・・・。
手に花を一輪もっていて、俺のとこまで来ると、俺の髪にそれをすっとさしてくれた。

『何この花』
『さっき華道部で遊んできて。』
『えー?この学校、華道部なんかあるっけ?』
『あるよ。三人しかいないけども。』
『あははっ。』
『のがみ先輩の友達がいたからー、廊下から覗いてたら、くれたー。それー。』
『のがみ先輩の友達?』
『ほらいつもさ、部活の時にプリントもって来るじゃん。メガネの。』
『ああ、あの人?』
『そう。あの人がいてー、どこかで見たことあるなーとおもって、じっとみてたら、それくれた。』
『ふふっ。・・・よかったねえ。』
『うん。似合う。幸村。』
『えーーーっ!』
『幸村って、お花ってかんじ。』
『はあ?』
『お花ちゃん(ハート)』
『なんだよもー!!!!』
『あははっ』


・・・うん。俺は花かもしれないね。誰かが栄養くれないと、すぐに枯れちゃう貧弱な花。
雨にも風にもすぐ負けちゃうから、守ってほしいの。大好きな人に。

比呂はそうだな・・、花ではなくて、きっと大地なんだとおもう。
のんびりとしてて、いつも冷静で、雨にも風にも負けないし、色々な痛みを恐れない。
みんなに沢山栄養あげて、自分は一歩下がって笑ってる。
大事なものを全部守って、大切にして、ほんとすごいとおもう。

俺は、そんな比呂に栄養貰って、守ってもらって幸せだから、綺麗に綺麗に咲きたいと思う。


一番綺麗に咲いて見せるから、誰より一番大好きになってね。
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