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『浅井との別れを悲しむ会』があった。 といってもとりあえず身内だけ。
比呂と俺と小沢と佐伯と、坂口と斉藤とヒノエ。あとは浅井本人。
みんなで入れて密室系で、飯が食えて、かつ時間できっちり貸しきりにできるとこ・・・
という選択基準から、今回はカラオケボックスに白羽の矢がたった。

みんなで食いもんと飲み物、一気に注文。
本来カラオケで頼む量の倍ほど注文したから テーブルに乗り切らなくって、
空いたソファーやテレビの上にも、食い物が置かれててすげえ状態だった。

で、まずは浅井から状況説明があった。 浅井が話をするために立ち上がっただけでもう、
みんな泣いちゃって ・・・ヒノエが泣くのを初めて見たから、俺はそれにまた感動して泣いた。


30分くらいはひたすら泣いて、そのあとちょっとだけ落ち着いて、
冷めた飯を食いながら、比呂が話し始めたんだ。

『浅井だったら他所の土地にいっても・・きっと・・頑張れないよ。』
・・・は?俺が比呂の顔をみていたら、坂口が大きく頷いて
『無理だ。他所の土地にいったら、絶対頑張れない。』 という。
すると麦が 『そうだな。浅井はやっぱ、ここでないと。』って笑った。

・・ああ・・そういうことか。・・・そういうこと・・・か・・。

『そうだなあ・・。俺自身、正直自信ないやー。』
浅井が笑いながら、ポテトをつまんでコーラを飲んだ。
そんで比呂のピラフを受け取ると、ミックスベジタブル系の具の中の、
にんじんだけを拾って食べてあげてた。 食べてあげるね・・とか、そういう言葉一切なく、
まるで当たり前のことのように比呂のピラフのにんじんを食う浅井。
・・・・グっときた。

その時、ヒノエが急に立ち上がった。『俺、浅井君とちゃんと喋った事ないよね。隣座っていい?』 という。
浅井の両サイドには、比呂と坂口が座ってて、 その言葉を聞いた比呂が、黙って席を立ち俺の隣に座った。

どき。

比呂はただ単に、俺の隣が空いてたから座ってくれただけなのに。 でもね、そんないきなりあれなんだよ。
両思いになったからって、いきなり隣に比呂が座るとか・・そういうのに慣れる事は出来ないよ。
まだね・・・恋人というよりは、憧れと言うものに近いから。比呂は。

ヒノエと浅井が話をしてて、それを邪魔しないように、 俺等は飯を食いながら、学校の話で盛り上がった。
斉藤の友達に時田ってやつがいるんだけど、 体が弱くて冬休み明けからずっと休んでたのね。
そいつが先週末に、久々に学校にでてきたから よかったね・・って、なんか・・そんな感じの話。
そんな話をずっとしてた。

ヒノエが気の済むまで浅井独占して、そのあとは、俺が浅井の隣に座った。
そしたら浅井がすげえ優しいんだ。 この子の優しさは、すごく柔らかい。
他のやつらはヒノエが入った瞬間から、超常現象の話にかわって、
惑星語の連発だから、逆に浅井との会話に集中できてよかった。

『ごめんね。俺、みんなより先に比呂から状況聞いてて・・・。』
『いいよ、それよりごめん。今まで黙ってて。』
『そうだよー。水くさいよー。』
『あはは。ごめんごめん。』
『俺こそごめん、なんか・・なんとなく。』
『あははは。』
俺はいつも、比呂経由とか麦経由とかで、浅井と話してたことが多いから
こうやって一対一になると、何喋っていいのかわからない。
浅井はね、そんな俺に、すげえやさしく話してくれるんだよ。

『あと2ヶ月くらいだけど、仲良くしてね。』
『そんなのあたりまえだよー。』
『あたりまえじゃないよ。ここの子達はほんとにさー、友達大切にできてすごいよ。』
『外から見たようなモノの言い方しちゃやだよー。仲間じゃん。浅井は。』
『・・ありがとね。本当に。』
『だから、別れの言葉みたいのは早いよ。』
『あははは。なんかさー・・。』
『え?』
『俺嬉しくてね。こういうの今までなかったから。』

浅井の飲んでたコーラにはいってた氷が 、カランと音をたてて水面を揺らす。
広がる波紋を見ながら、浅井はやっぱり優しい顔をしてた。

『俺さー・・いつもさー。』
『うん。』
『転校をギリギリまで友達にいわないでいたの。』
『・・・・。』
『最初はね・・・最初の頃は、ちゃんと一ヶ月前には言ってたんだけど。』
『・・・うん。』
『どうしてって言うとー・・前もって言ってさあ・・。』
『うん。』
『悲しんでもらえなかったらどうしようってさ・・。』
『・・・・。』
『転校が決まって、俺の世界が全部変わっても、 周りのやつらの反応が、何も変わらないのが怖くって。』
『・・・そうなんだー・・。』
『うん・・だから、比呂がさ・・まだ転勤が決まってなかった頃にさ』
『うん。』
『勘違いだったんだけど、俺が転校するんじゃないかって言って、泣いてくれたことがあってね。』
『・・・そうなの?』
『うん・・・それがすごい嬉しくて、俺の中では大事件で。』
『うん。』
『ますますここが大好きになったんだけど、結局転校きまっちゃって。』

俺は・・そのときの比呂の心情や、 勘違いだったのにもかかわらず、
泣いた比呂の顔とか様子を 何も知らなかったよ・・・。 だってその頃は恋人じゃなかったし。

『俺さあ・・、世間にはマニュアルがあるんじゃないかってくらい、毎回同じ事を言われてたの。』
『・・・どんな?』
『お前なら、どこでも元気にやっていけるよー。とか、暇な時に電話くれよーとか。』
『・・・うん。』
ああ・・でもそれって、当たり前と言うか・・思いやりの表れなんじゃないのかな・・・
そんな風に思っていたら、浅井が、すごくさみしそうな顔で、俺を見て言うんだ。

『暇じゃない時にも、友達に電話したいんだ。俺は。 だってさ・・せっかく慣れた頃にいつも、次の町に引っ越して。
環境全部がかわるじゃん・・しんどいんだ。実は転校って。』
『・・・・。』
『暇だったらかけてって言われると、もうね、絶対電話なんか出来ないの。
だって離れた場所にいたらさ、相手の暇時間がいつなのか、もうわからなくなっちゃうじゃん。』
『・・うん。』
『そうやって、遠慮しているうちに、どんどん時間は過ぎちゃうでしょ?
そうなると、もうね、その友達は、電話したい相手リストから消えるんだ。』
『・・・。』
『有効期限切れっていうか・・もう忘れちゃったなー、俺のこと・・みたいな。』

俺は何を言っていいのかわかんなくて、黙っちゃったんだ。 そしたら坂口が隣から、話に入ってきて・・
『案外忘れてないもんだよ。特に転校生の事は。』 という。

『相手の電話番号わかってるなら電話してみたらいいよ。』
『え、でも、もうさー長い間会ってねえし。』
『でもお前は覚えてるんだろ?そいつを。なら相手だって覚えてるよ。』
『・・でもさー・・俺そこを出たあとに3回くらい転校繰り返してるんだよー。
なんていって電話すればいいのかわかんねーよ。』

そしたらヒノエが、自分の話を中断して、浅井に言った。

『そのときって、いつ?』
『小学校の・・・4年くらいの時かな・・。』
『何小学校?』
『第三小学校。』
『じゃあ、第三小学校の4年の時、同じクラスだった浅井だけどーっていえばいいんじゃね?』
『でもわかるかな・・。もうそれぞれ高校生年齢だし。』
『わかるさー。だってそいつの中では、ずっと浅井は第三小学校の4年の時に転校生してった子なんだから。』

俺、そのやり取りを隣で聞きながら、色々なことを考えてた。 本当に、色々考えた。浅井のこととか自分のこと。

会が終わり、俺は比呂と一緒に帰る。 帰り道、比呂は疲れちゃったみたいで、眠いのか時折ウトウトしてた。

別れ道で、軽くちゅっとして、それぞれの家路を急いだ俺達。

浅井がいなくなっちゃったら、つらい・・・さみしい・・嫌だなあ・・・。


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