2007/3/28 (Wed.) 23:08:39

今夜もいつものようにメールが届く。

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件名:大漁

<ちょうちんアンコウがやたらつれる>
<ほんとは金魚をつりたいのに。>

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紺野ちゃんだ。あはは。さてはどうぶつの森やってんな?
最近寝不足っぽいから、早く寝ればいいのにね。
レスしようとおもったけど、気まぐれで電話をかけてみた。

たわいもない会話をする俺達。ゲームの話。ほぼそれだけ。
化石を掘っただの釣りしただの蜂に刺されただの・・・よくわかんない会話。

あーあ・・。今、俺の人生時間は三倍速で進んでるかんじ。
紺野ちゃんはのんびり話してるのに、時間がグングン過ぎてくかんじだ。

5分くらい話をして、『おやすみ』って言って電話をきった。
きったあとの静寂。目を閉じて、耳を澄ます。

あー・・・。静かだなあ。車の通る音。風の音。遠くで誰かが話してる声?
ああ、これあれだ。紺野ちゃんの声が耳に残ってるんだ。まだ。

もう夜。
目の前にひろがる夜空。真っ暗で寒くて、どう頑張っても悲観的になる。
俺は立ち上がってベランダに出た。町の様子を見とこうと思って。

そしたら下のほうで『あ。』と言う声がした。
目を向けたらそこに、ユッキーが立っていた。
ビックリして、部屋を飛び出し、階段下りて俺は走る。

社宅の駐輪場・・不審すぎるだろお前・・。幸村は、俺を見ると涙をこぼした。
ぽろぽろと落ちる涙が駐輪場前のコンクリに染みる。

『どしたの・・ぴんくちゃん・・。』『ごめんね・・。今バイト帰りで・・。』
『バイト帰りって・・比呂は?』『比呂はまだバイト。今日は最後までだから。』
『でも今電話で話したよ。』『たぶん休憩だとおもう。』


何で泣いてるのって聞こうと思ってやめた。原因は俺が一番よくわかってる。
ごめんね。なんかほんとごめん。ありがとう。泣いてくれる優しい気持ち。

『これ。』幸村が手に持っていた紙袋を差し出す。
『?』俺はそれを受け取って、中を見たらデコポンが入ってた。

『こないだのうどんの時に・・美味しいって食べてたの思い出して・・
それがなんか印象深くて・・バイト帰りにスーパーで買ったんだけど・・。』
『うん。』
『よく考えたら俺・・・デコポンそれほど好きじゃないんだ。
なのにそんなに買っちゃって・・よかったら・・食べて・・。』
『・・・あ・・ありがとう。いいの?全部もらっても・・。』
『・・うん・・・』
『・・・・・。』

俺が黙っていると幸村は、口をヘノ字にして涙を流す。

『・・っていうかごめん。』
『え?』
『ほんとは・・最初から・・・浅井にあげたくて買ったの。』
『・・・・ユッキー・・。』
『・・・浅井?・・あのさ・・俺・・今までなんか、あんまりお前と話しできなくてごめんね。』
『・・・。』
『俺もっと、浅井と沢山話せばよかった。ごめんね。今更なんかごめんね。』
『・・・・そんな・・。』
『俺は浅井が笑ってくれると、すごく楽しい気持ちになったよ・・。
浅井がいてくれると安心して・・・みんなとも友達になれたよ・・。』
『・・・・・。』



・・・ピンクちゃん・・・。

ありがとう。




泣きたくなったけど、ぐっとこらえて、俺は幸村の肩を叩いた。
『あがってく?時間大丈夫なら。』
そう声をかけると、幸村は首を横に振って
『ご家族の人たちに悪いから、今日は帰るよ。』
っていって、『また明日。』って帰っていった。


また明日・・か。
いい響きだな。紙袋の中のデコポン。

コレを幸村が買ってきてくれて、こんな時間に俺のとこに来てくれて
でも家族に遠慮して、・・・いつからあそこに立っていたんだろう。


・・・うん・・。もっと色々話したかったね。
俺はいつも心配してたよ〜。だってピンクちゃんはあれだもん。
心も体もへし折れそうで。

紺野ちゃんと仲良くしなよ。俺はおおっぴらに応援できないけど。
でもやっぱ幸せになってほしいよ。
ほんとはずっと、君達と一緒にここにいたかったよ。

階段をゆっくりあがる。
一段上がるごとにその振動で、目から涙がこぼれてくる。

部屋に戻ってすぐに、幸村にメールをした。

『ありがとう』って一言だけうって、そのまま送信したら
すぐに返事が返ってきた。



件名:うん。

<ありがとう、おやすみ。>



たった単語三つ分。でも忘れない。

俺はずっと忘れないよ。
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