2006.4.23(sun)
『紺野の事。』

部活帰りに紺野の家にいった。
あいつと佐伯の音楽話についてけなくて悲しいから紺野にCD借りることにしたんだ。
家につくと、お母さんらしき人がいたから、ペコりと頭を下げてみたら『君がユッキー君? 』だって。

『比呂がよく君の事はなししてるよ。会えて嬉しいなあ・・。』だって。

比呂が常に俺の話してんだって!



『あ、そうですか?ははっ。』と、俺は表面的にはクールにやり過ごした。
でも心の中ではサンバカーニバルだ。今ならラテンの血にも負けない。

二階に上がるとき、その人が紺野を呼び止めて飲み物とかを渡してきた。
そのさりげなさが素晴らしい。俺の母親にも伝授しよう。

ドアをしめて紺野の部屋に入る。そしたらCDがいっぱいあんの。
俺の知ってるのはリップとバンプくらいかな・・。あ、レミオロメンなら『粉雪』くらいは・・。
ちなみに最近までレミオメロンと呼んでたことは、墓場まで持ってく内緒ごとだけど。

『どれでもいいよ。好きなのもってけよ。』そういいながら紺野はジャージを脱いで着替え始める。
『おすすめなに?』俺が聞くと、『べつに、どれでもいいんじゃねーのー。』と素っ気無い。
団地妻の話するときには、あんなにキラキラした目で話すのに、つれないなー・・・。でもいいや。
俺は適当に10枚チョイスして借りた。

借りたCDをカバンに入れながら、俺は紺野に話しかけた。
『おまえの母ちゃん。なんか若いね〜。』
すると紺野がきょとんとした顔でこたえた。

『・・・・あの人、俺の母親じゃないよ?』

・・・・・・・・。

やば・・・。俺、地雷踏んだ?

『え?じゃなに?お前、母ちゃんいないの?』
『うん。かあちゃんどころか父ちゃんもいないよ?』
『・・・・・・・。』
『2人とも死んだ。でもずっと前の事だから、うん。俺はもらわれっこなんだ。』
『・・まじで?』
『ほんと。もともと椿平にいたんだけど、もらわれて、ここに越してきた。』
『・・・わり・・俺・・・知らなくてさ・・・。』

思い切りうろたえる俺。そういえば昔・・椿平からきた何とかってやつの・・
家庭環境がなんだかんだって・・誰かが話してるの聞いたことがあった気がする。
どっちにしても、おれ、余計なことを言っちゃった・・・。
若いお母さん化、年の離れたお姉ちゃんだと思ってた。
露骨に落ち込んでたら紺野が、カラっとした声で笑う。

『なんだよー、全然いいって。俺、おじちゃんもおばちゃんも好きだしさ。』

・・・そういう問題じゃないんだって・・・。
俺はそのあと、そのことばかりが気になって、ロクな話を出来なかった。

帰り道。紺野がバイトだっていうから、途中まで一緒に自転車ころがした。
・・・ちょうど夕暮れで、悲しい気持ちになって無口になる。
そしたら紺野が俺のケツを自転車でドスってひいたんだ。
力なく俺が振り向くと 『じゃ、俺こっちだから。』っていって、自転車に乗る。
俺も自転車にまたがって、『ほんとごめんね。』ってあやまると、紺野は笑って首を振り
『じゃ、また明日ね。』といって、自転車をこいでいってしまった。
明日は部活があるからね、俺は紺野にまた会える。

家に帰った俺はコンポ前に直行。借りてきたCDを聴いてみたら、涙がどんどん溢れてくる。

ベッドに寝転んで紺野をおもった。

入学式以来、俺はあいつの事を『悩み事のない平和な部類の人間』だとばかり思っていた。
でも違った・・。あいつはただ、自分の苦しみを他人に言わずにいただけなんだ。
年中笑ってばっかのやつが、何も抱えていないとは限らない。・・きっとそういうことなんだ・・。

俺は紺野にメールした。
『バイト頑張りなよ。』
たった一言だけだったけど、今の俺には余計な文字列が浮かばなくて。

そしたらさ、二時間くらいしてレスがあって・・多分休憩時間に打ってくれたんだとおもうんだけど

『うん。』

それだけ。


・・・・・・


もうちょい何かいう事あんだろお前っ!


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