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2006/8/2 (Wed.) 23:19:33

比呂と川で遊んだ。俺は今日は夕方から塾で、比呂はバイト。最終まで。
だから、早めに待ち合わせをして、14時過ぎまで遊びまくった。

比呂には、ここ2〜3ヶ月、ちょくちょく会ってた女の人がいたんだけど
川にくる前に、その人のとこに寄って、きっちり別れてきたそうだ。
俺は昨夜、比呂にそれを相談されて、で・・・

自分かわいさに、つい・・つい別れをすすめてしまった。
だから、すげえ罪悪感というか・・、比呂が掴みかけた本物の恋を、
俺の勝手で・・自分の都合でぶち壊してしまった気がして・・

だけど、河原の近くの一本杉の下で、比呂を待っている時、
自転車立ち漕ぎで俺に手を振って、ぐんぐん近づいてくる比呂を見たら
嬉しい気分になっちゃって、戦ってもいないのに俺はその女に勝った気がしちゃって
・・別れの報告をされた時にも、にこっと笑って『そうか』っていっちゃったんだ。
心の底からの笑顔でさ・・・。


比呂がアイスを買ってきてて、溶けちゃうから先に食おうっていって、
河原に座ってアイス食ってたら、セミの鳴き声がうるさくて『あーあちい・・。』っていいながら、
比呂がどんどん溶けて手首にまで流れたアイスを、舌でペロッとなめたんだ。

どきっとした。

アイス食い終わって、比呂が『ゴミ、よこしな。』っていうから、アイスの棒とか袋を渡して、
あいつがそれをコンビニ袋に入れて自分のバッグにしまって・・・
かわりにバッグからビーチボウルだして、ふうっとほっぺ膨らまして空気入れて
今度はそれがすげえかわいくて・・・

他所の女のものにならなくてよかったと思った。

わりと深い川なんだけど、ここらは田舎だからすげえ水がきれい。
比呂が川底までもぐっていって、河童みたい浮き上がってきて、俺に何かを得意げに見せる。
こいつ、アユをつかみどりしちゃったよ。すげえ。

掴んでた魚をすぐに離す比呂。すばやく泳いで逃げる魚を、見送る比呂の横顔が、
一瞬とてもさみしそうに見えた。

俺はその様を、ビーチボールを抱えながら見ていたんだけど、
なんつーか・・そのあたりから、胸がきりきりと痛んできたんだ。

恋の病、末期症状。
ふと見せる比呂のさみしそうな顔が、俺を引き寄せてがんじがらめにする。

『今何時かな。もう昼?なんか腹減ったねー。』
比呂がばしゃばしゃと俺に近づく。その時遠くから声がした。

『おーい!変態こんにょ〜!』
比呂はその声を聞いて、露骨に嫌そう顔をする。
『あ、ヒノエだ。うわっ・・何あいつ!女連れかよー!!』

ヒノエってのは、3組のやつで麦の幼馴染なんだけど
俺は一度も話したことない。見た目はガチガチの真面目めがねだ。

『なんだよお前、川遊びかよー。』
『そーだよー。お前こそなんだよー。ナンパー?』
『ちげえよー!彼女と彼女の友達ー。青空合コンやるんだよー。』
『はあっ?俺には連絡来てねえけどー?』

大声であほな会話をする紺野とヒノエ。
ヒノエの連れの女が『あれが紺野って子?』とかいうのが聞こえた。
勝手に紺野に興味持つんじゃねーっ!クソバカ女っ。

『ばーか。誰がお前なんか誘うかー!』
『ばかっていう奴がばかだー!』
『お前らいつまでここにいるのー?』
『えーとねー・・、今何時?』
『今?今は12時半だよー。』

ヒノエに時間を聞いた比呂が、俺のほうを向く。
そんで、俺にだけ聞こえる程度の声で『12時半だって。飯食い行こうか。』といった。
俺は頷く。

『あーわりー。俺らもうちょいで帰るー。』
『えー・・まじでー・・。後三人女子がくるのにー。』
『用事があるー。』
『なんだよー・・・。』
『おめーと違って忙しいんだよっ!』
『忙しい人間が男二人で川遊びなんかするわきゃねえだろっ!どあほー。』

女どもが笑う。うざ。どっかいけ。

『うっせー。お前明日部活あんのー?』
『おおー。あるよー。』
『じゃあそん時あれかしてー。こないだ言ってたDVD−。』
『おっけー!絶対忘れるけどなー。』
『ならメモれやーっ!』
『じゃあなー、夜メールしてー。』
『俺の方が忘れるわー。』
『じゃあなー』
ヒノエは手を振っていってしまった。

『女は置いてけー』と比呂が小声でいって、俺がくすくすと笑い、それを見て比呂も笑う。
その後30分くらい、川辺で石投げをして遊んで、昼飯食いに川のそばのお好み焼き屋に行った。

2人分のお好み焼きを比呂が一人で焼いてくれて、俺はソースとかマヨネーズをかける係になった。
焼きたてのお好み焼きは、すげえ熱くて、会話もままならない。
その時比呂の携帯がなったんだけど、比呂は番号見たらそのまま電源を切った。

『いいの・・?』
俺は口の横に、ソースつけた間抜け顔で比呂に言う。
『うん・・。もう終わったんだし。』
比呂はそういって、お好み焼きをぱくっと食べた。

電話の相手はかおりなんだ・・。

俺の胸がまたズキリと痛む。でも電話にでなかったわけだし・・。電源切ったし。

だけどちょっとして、比呂は携帯を取り出した。
やっぱ・・かおりにかけちゃうのかな・・・。そうおもった。
でも比呂は、何も言わず、無表情でいくつかボタンを押し、そんでケツぽけっとに電話を戻す。

『・・・かけないの?』また聞く俺。
『履歴とか色々消しただけだよ。』その声がすげえ男っぽかった。

俺は、かおりに勝った気でいたが、ほんとは最初から惨敗だったんだと思う。
比呂はまだきっと、かおりが好きだ。突き放すのは、比呂なりの愛情なんだ。

お好み焼きの中に入ってた海老を見つけて『あれー?』っと比呂が言う。
『お前のほうに全部入れたはずなのに・・。』って言うと、俺の皿に海老をのせてくれた。

・・負けてるのに、ご褒美は俺の物。
かおりさんは愛されてるのに、何ももらえず全部失った。

今頃海老みたいに丸まって、かおりさんは泣いてるに違いない。
でもだからって俺は、かおりさんのとこに、比呂を行かせやしない。

俺はもらった海老を、口に入れて、比呂に『サンキュー』といった。
比呂は、『はいよー。』っていうと、ふふって笑って、ファンタをぐいっと飲んだ。