2006/8/12 (Sat.) 13:33:32

高校入学当初、俺は紺野のことをあまり好きじゃなかった。
よく知らない相手に、『バカ』だの『エロ村』だの言ったりして、無神経でヤなやつだなって思ったから。
そんな紺野の印象が変わったのは、4月中旬に俺の母校の中学で校内研修があったときのこと。

校内研修と言うのは中学1年生が土日かけて、学校に泊まって親睦はかるそういう行事なんだけど
俺は昨年度卒業生のボランティアとしてそれに参加し
紺野は風紀委員だからと言う理由で、初日に手伝いに来ていた。

『あ、小沢じゃん。』紺野が先に俺を見つけて、駆け寄ってきた。
『ああ、紺野じゃん。』別に話したかないけど、二言三言雑談をした。

中学生の子らが運動場に座って先生の話を聞いて
全員起立で立とうとしたら、俺らの近くにいた女の子が、しくしく泣いて立ちあがらない。

おかしいな・・っておもってたら、隣にいた紺野がジャージの上を脱いで、その子の腰に巻いてやった。
なんだ?って思ってみてたんだけど、その時、その子のハーフパンツに赤いのがついているのがみえた。

あ・・もしかして・・アレになっちゃったのかな・・。

俺がまごついてる間に、紺野がその子をがばっとおぶって、列の前にいた担任の先生に、
『すみませーん。一人貧血みたいなんで、医務室つれてきます。』といった。

一回校舎のほうに行こうとしたんだけど、すぐに俺のとこに戻ってくる。
『医務室の場所・・どこ?知ってる?』というから、『案内するよ。』と俺が言った。

この日は普段の保健室はつかえなくって、普通の教室を医務室代わりに使う。
そこまでのみちのり、女の子はずっと泣いてたんだけど、
比呂は『大丈夫?外暑かったからねー』とか『ちょっと寝ればよくなるよ』とか
あくまで貧血扱いで、彼女に話しかけていたんだ。

俺はそれで紺野を見直した。

救護室と書かれている教室。紺野が『貧血ですー。』と入っていく。
中には何人か先生がいて『小沢ーどうしたー。』と俺の中学時代の担任の先生が言った。
俺も紺野と同じように、『貧血です。』とこたえた。
紺野はその中の女の先生の前においてあったパイプイスへと、彼女をそっと腰掛けさせた。

そんで腰に巻いてたジャージをとると、『じゃ、失礼します、』と、部屋からさっさと出て行くのだ。

俺もあわてて部屋をでる。紺野がジャージを羽織ろうとしてるから
『汚れなかった?』ときいたんだけど、『この色目立たないから大丈夫だよ。』と、いって、笑った。


『小沢って、この辺の家なの?』廊下を歩きながら紺野が聞く。
だから俺が『うん。』と頷くと『へえ〜。』っといいながら紺野が窓の外を見た。

『いい学校だね。』『うん。』そんなやり取りが心地よかった。

今まで紺野のそういう言葉をきくと、調子いいやつ・・とおもっていたけど、
今は素直に俺の母校を褒めてくれてありがとうっておもう。

人の思い込みって、ほんと邪魔くさいなって、つくづく実感した瞬間だった。

30分くらいたって、その女の子が戻ってきて、紺野にお礼を言いにきた。
紺野は『大丈夫?』って言っただけ。その子は笑顔で頷いた。

その数ヵ月後のある日、俺の友達が紺野のことを好きだという。
男友達であるそいつは、紺野に夢中で死にそうだった。

本来ならば、そんな片思い全力でやめさせるべきなのだろうが、
考えた末、その恋を応援することに決めてしまった。
俺の大親友が恋する相手として、紺野は実にふさわしいと思うし
ああいう男を選んだ友人の見る目は正しいと思うのだ。
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