2021.04.01(木)

昨夜、久しぶりにアラームかけないで寝たんだけど、 結局いつもどおり朝5時半に目が覚めた。
今日は何も予定が無い。自由に行動していい日。 だけど俺・・・今までそんな日を過ごした経験が無い。
自由に何をしてもいい元気な日を一人で過ごすって事が今まで無かったから・・。
起きた瞬間どうしていいのかわからなくって、とりあえず天国の方向を見た。

ハルカさんが気遣ってくれて、俺は3か月無職でいられる。 当然給料は出ないけど、貯金があるから大丈夫。
・・・生活費はいつも比呂が出してくれてたんだ。 『何かあった時のために、那央は貯金しな』って言ってくれて。
それにこの家も・・残してくれた。ありがとう。比呂ちゃん。

まずはこの三か月で三食食べる習慣を取り戻したい。 リフォーム工事が始まる前に断捨離もしなきゃいけないし。
一人で色々しなきゃいけないから頑張りたい。 ・・・まずは比呂の所に行こうかな。

昔はピンとこなかったけど今ならわかる。 本当にわかるよ。カカシ先生の気持ちが。

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『おはよ』2021/04/01(木) 08:52:33(ユッキーブログ)

なんか不思議。どこの職場にも属してないことが久しぶりだから 予定の組み立て方がわからない。
昨夜は岸先生がおいしいお肉を買ってきてくれて、2人で庭を見ながら焼肉して食べた。
比呂の思い出話をたくさんした。色んな事が落ち着いたら飲みにいこうと約束もした。
窓から入る光で明るい部屋。空気は冷たい。 カーテンを開けたら薄曇りだった。
こういう空も花曇りというんだろうか。

空気が澄んでて気持ちがいいから、比呂のところに行ってこようかな。

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『天気がいい 』2021/04/03(土) 10:36:17(ユッキーブログ)

今日も朝のうちに比呂に会いに行ってきた。 そしたらね、お寺の駐車場にカフェがあったんだよ。
立て看板がなかったら気づかなかった。 今まで何度も通ったけど、普通の長屋だと思ってた。

朝パンセットってのがあったから買ってきた。 ・・・ライ麦パンにチーズとブロッコリースプラウト・・
赤玉ねぎと タンドリーチキン・・・にんじんラペが挟まってた。
あとはカフェオレとクラムチャウダースープ。最高。

カフェの真横に桜の木があって、出来上がりを待ってる間 はらはら舞ってる桜を見てた。
親ばか・・っていうか彼氏ばか?みたいな感じなんだけど
『やっぱり比呂の桜が一番綺麗だな』って思いながら見ていたよ。

少しして「お待たせしましたー」って声がして、朝パンセットが入った紙袋を手渡された。
あ・・これは・・・って思い出した。・・・俺は前にも一度、この紙袋を手渡されたことがある。

仕事帰りの比呂が『おみやげー』とかいって買ってきてくれたから。
たしかあの時、比呂の車に桜の花びらがついてた。去年じゃないからおととしだ。
あの頃の比呂は本当に忙しくて、徹夜続きの毎日だった。 そうそう。春だったね。

俺は俺で新年度でやることが多くて、毎日家ではグダグダだったから
比呂が毎日仕事帰りに朝ご飯を買ってきてくれてたんだよね。

ライ麦サンドをがぶりと食べる。厚みがあるから一齧りで口が満タンになる。
美味しい。覚えてる。この味だ。
あの時も本当に美味しくて・・・ 比呂に寄りかかりながら食べたんだよね。
また買ってくるよって言ってくれてたけど、俺の予定のない休日と
比呂の徹夜仕事のタイミングがなかなか合わなくて、あれが最初で最後になっちゃったなあ・・・
開店時間が俺の出勤に間に合わないから平日は無理だったし。

それに・・お寺の駐車場にあるカフェだから俺を連れてはいけなかったんだろうね

俺の親父に全てを許されて、俺にお墓のことを話す時が来ていたなら
比呂はあのお寺に俺を連れて行ってくれて、プロポーズをしてくれたのかな。
その帰りにあのカフェに寄って『あの時の朝ごはんはここのでしたー』・・とか
言って俺を驚かせたでしょ絶対。

比呂ちゃん、俺達の未来には、たくさんの幸せが順番待ちしてくれてたんだね。

もうめんどくさいから涙は拭わない。泣いてたってご飯は食べられる。
美味しい。やっぱり美味しい。
だけど食べてくうちに『なんだか少し味が違うかも』って思ったら
前の時はにんじんラペが入ってなかったことを思い出した。

もともと入ってなかったのか、比呂が抜いてもらったのか今となってはわからない。
でも、あの日の朝の比呂の笑顔や、話したことを全部思い出せたよ。

おととしの春には、比呂がいたんだ。涙は止まらないけど笑顔になっちゃう。
あの日の比呂が笑ってくれるから、今の俺も笑顔になっちゃうんだよ。
・・比呂より年上になっちゃったけど、かわいいって思ってもらえたら嬉しいよ!!!

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『花冷え』2021/04/04(日) 11:45:39(ユッキーブログ)

今日は少し寒い。朝早くに親父から電話があったから、 朝のうちに比呂の所に行けなかった。
桜がきれいなところだから、この時期は朝の早い時間しか ゆっくりお墓を参る事ができない。
状況的に花見団体がバカ騒ぎするようなことは無いと思うけど、 あの場所にいる間は誰とも会いたくないんだよ。
空も曇り。なんとなくつらい。 夕方お寺に行ってみて、人が少なそうなら比呂の桜を見に行ってみる。

比呂を亡くしてから何もかもに興味を持てなくなってしまって、 色々なことを御座なりにしてきた。
特に『食』だ。本当に酷かった。 食べはするけど、ガム一粒を一食としてカウントした日もあったくらい。
『三食ちゃんと食べる』って、決めたからにはしっかりしないと。
俺が心で誓ったことは、全部比呂に届いてると思うから。

朝は昨夜の夕飯材料の残りと、ウィンナーでスープを作った。
材料を全部鍋に突っ込んで、煮込んでる間に床を拭いた。
嫌なことがあった時は大体、床を拭いて気持ちをスッキリさせてる。
余計な問題に比呂との記憶を汚されたくない・・ そんな思いをなんとか体現しようとしてるのかもしれない。

・・・前は比呂のために床を拭いてたんだけどね。
あの人はすぐに床に寝ちゃうから、いつもきれいにしておきたくて。

昼は冷やご飯でなんか作るつもり。炒飯とかにしようかと思ったけど・・・
比呂の卵炒飯の味を覚えていたいから別の何かにする。
もうずっと比呂の炒飯を食べてないじゃん・・・勝手に上書きされるのが怖い。
今ならちゃんと覚えてるから、絶対忘れたくないんだよ。

坂口がピーマン沢山くれたから、ピーマンと肉の炒め丼にしようかな。

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夕方から雨だったから、比呂の所に行こうと思ったんだけど・・
お寺の駐車場はほぼ満車で、人も多かったから、なんとなく・・・やめた。
あんまり行き過ぎても比呂に飽きられちゃうよね・・・とか、心の中で言い訳。
帰りに寄ろうと思ったスーパーにも結局行けなかった。
自分を騙す嘘も言い訳も全部使っちゃって残ってないよ。

唇を嚙む。

例えば浮気されたとか、なんかの理由で振られたとか
そういう類のさよならだったら、まだ希望が残されていた。
命の限り俺は比呂のために努力をしていたかったのに・・・
いてくれたら・・いてくれさえすれば・・・・・

パシっと両頬を叩いた。

『していたかったのに・・・』ってなんだよバカ。
その先に言葉が続いたら、比呂を責めることになるじゃんか。
比呂はもう何もできないんだよ。俺の今を見てたとしても。

俺は車のキーを掴んで、財布の入ったバッグを持った。やろうと思ってたことをやれなかったから
ネガティブになってるだけだろが。 今からやれよ。比呂のせいにすんな、バカ。

外に出たら雨はやんでいた。スマホで時間を確認する。18時過ぎたとこ。
お墓は20時まで入口があいてるから、まだ間に合う。
こんなに露骨に落ち込んだ顔をしてしまった。天国で比呂が心配をしてる。
しょげてた理由をちゃんと説明しないと、比呂も天国でゆっくり眠れない。

さすがにこの精神状態でスーパー行くのはきついから 帰りにコンビニで飯とアイス買って帰ろう。
車に乗った。運転するのは俺だ。エンジンをかけて何となく助手席を見た。

はしゃいで浮かれる若かった頃の俺を想像して、そして前を向いた。

「比呂大好き」声に出して言ったら、背中からふうっと力が抜ける。
比呂が笑顔を見たがってるような気がしたから、 フロントガラス越しに空を見て笑った。