『でんわ・・・』
『ん?』
『・・あ、なんでもない!比呂、忙しい?』
『大丈夫だよ。』
『・・・・。』

『那央は?今日も忙しかった?』
『教習所は苦手。でもがんばったよ。』
『ふふっ。』
『・・・・・・・あー・・消えるね。』
『うん。』

俺は比呂の手のひらの中に座って、指にぎゅっと抱きついた。
消えていく体で、それでもやっぱり比呂のそばにいたくって。

夢の中でも何でもやっぱり、比呂と一緒にいたくって。

比呂の指に頬ずりして、ぎゅっと目を閉じたら涙が出てさ、
次に、目を開けたとき、俺は自分の部屋のベッドに寝転んでいた。



俺、泣いてた。



服装も、髪の色も、花や葉のにおいも、なにもかもを夢の中においてきてしまったみたい。
でも、なんだかものすごく惜しくってさ。夢なんて思えないくらい、比呂のぬくもりがリアルすぎて。
そしたら携帯がなった。比呂だ。

『もしもし。』
『・・・・・・・・・・・那央?』
『うん。なに?どうしたの?電話・・・』
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあー・・・・・・』
『?!!』

大きなため息。

『生きてるね。』
『え?!何で?!生きてるよ!今日も元気だよっ!!なんで?』
『なんでもない。・・あのさー・・』
『なに?』
『俺、今日、おまえんとこいくよ。』
『え?!!!』

なにがなんだかわからない。

『なんで?いそがしいのに?』
『大丈夫。』
『ほんとに来てくれるの?!!』
『うん。』
『うそ・・・っ』
『ほんと。最終でいくから遅いけど。』
『待ってる!大丈夫!うそ!!!ゆめみたい!!!』

そういってはしゃいだら、電話の向こうで比呂が笑った。

『夢ねー。夢。』

何いってんのかなって思ったけど、もうそんなのどうでもよかった。
比呂に会える!今度は本物に!!!うそみたい!!ゆめみたい!!!

約束をして、電話を切った俺は、とりあえず冷蔵庫のなかを確認する。
鶏肉でも買ってくれば、つまみとか色々作れるな!

財布もって、ダッシュだっ!!!!!



*************

・・・とんでもない体験をした。すんごくかわいい生霊が俺んとこにきた。
店閉めようかと思って、外に出たら、庭がなんか荒らされてて、
葉とか花の屑をたどっていったら、バケツの中ですごい寝相で寝てる
那央みたいなのをみつけた。

那央みたいなのっていうのは、その姿があまりに小さかったから。

そんときたまたま近所の人が、通りかかって話しかけてきたから、
持ってたタオルをバケツにかぶせて立ち話してたんだけど、
那央みたいなのが窒息したらどうしようって、気が気じゃなかった。

で、話を終えて、タオルをとって、じっくりみたら、歯軋りとかまで那央にそっくり。

だから、ほっぺつついて起こそうと思ったんだけど、あんまりにも小さいから、
触ったらつぶれそうな感じがしてさ・・バケツを指でつついてみたんだ。
そしたら、そいつは、ガバって飛び起きた。

目が合った状態で10秒くらい固まったあと、服についた汚れを払って、
髪の毛てぐしで整えて、笑顔で手を振るから、どうしていいのかわかんなかったよ。

ちょっとだけ話をして、そしたらすうって消えちゃったんだけど、
手に残った感触とか、バケツの中の葉だの花だのはそのままだし、
無残に荒れ果てた庭の様子とか、甘いにおいのする実についた小さな歯型とか、
とにかく状況証拠が怖すぎて、慌てて那央に電話したの。

まさか死んだんじゃないかって、超心配になって。

でも、那央元気だった。変な夢見て泣いてたらしいんだけど、とりあえず、ちゃんと生きてた。
あー・・よかったーって思ってさ。駄目だ、絶対会いに行かなきゃって思ってさ。
一方的に約束おしつけた。で、ソッコー仕事片付けて、なんとか新幹線の最終間に合った。


・・・・それにしても、さっきのあれは、いったいなんだったんだろう・・・・。
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ハッピーバースデー那央ちゃん。