2007/6/17 (Sun.) 23:56:06

父の日だった。

那央が土曜に無理して塾行ったら、風邪ぶり返したんだって。
だから土日は会うのやめることになって、俺は土曜は佐藤のじいちゃんちに泊まりにいった。

バイトを8時にあげてもらって、紺野さんと一緒にじいちゃんちにいく。おばちゃんは、山梨に里帰り中。
俺をじいちゃんちに送ると、おじちゃんはそのまま山梨のおばちゃんちに向かった。

ちょっと前から、少しだけばあちゃんが、物忘れをするようになって、
俺の事をたまに『音羽』ってよぶ。じいちゃんは、それをきくと、ばあちゃんを叱る。

別にいいのに。俺は気にしてないし。

ばあちゃんがから揚げをつくってくれてた。自分らは、もう、から揚げなんか、食わないのに。
でもばあちゃんのから揚げは、すごいおいしいんだ。俺だったら死ぬまで食い続けたい。
もう忘れちゃったけど、きっと俺は、ばあちゃんのから揚げをくったことが、
きっかけでから揚げ好きになったんだと思う。

メシ食って風呂に入ったら、じいちゃんが仏壇にそなえてあった花火をもってきた。
『昔、お前が音羽に花火をやりたいって言ってたのを思い出してなあ・・。』
っていいながら、袋を破いて、庭で三人で花火をした。

じいちゃんと、ばあちゃんが、線香花火をふたりでやって、俺は派手目の花火をやった。

『花見の時期に、お前が音羽に花火をやりたいってごねてなあ。
そのへんの店全部探し回ったんだが、花火なんてなくてなあ。』
『比呂ちゃんが、あんなふうに駄々をこねるのは珍しかったんですよね、』
『ああ。』
『結局遠くのスーパーまで捜しにいってねえ。買ってきたわねえ。あの子が。』
『やっぱり父親だなあとおもったよ。覚えているかい?比呂。』

俺は、こくんとうなずいた。

覚えてる。おっくんが、一生懸命俺のために花火さがしてくれたこと。
だけど・・。だけどそのとき、じいちゃんとばあちゃんが、どんな顔をしてたとか、
そういうのを・・俺・・思い出せなくて・・。
俺の名前を時々間違えるだけで、ばあちゃんはじいちゃんにしかられるのに、
俺はこんなに色々忘れてごめんっておもった。 

俺はじいちゃんち家で数週間暮らしたことがあって、その時のじいちゃんとばあちゃんには本当に、
色々世話になってしまった。俺はもう小学生だったから、朝早く起きて朝飯食わせてくれて、
参観日にも出てもらったし運動会の親子競技にもじいちゃんが出てくれたんだ。
そうだ。そのときに、ばあちゃんがつくってくれた弁当に、から揚げがはいってて、夢中で食った記憶がある。

思い出した。

おっくんが花火を買ってくれたとき、じいちゃんが水を入れたバケツをもってきてくれて、
ばあちゃんが、ろうそくとマッチをもってきてくれたんだ。
そうだそうだ・・・。あの時はすごく楽しかったなあ・・・・。


気がついたら、俺はじいちゃんよりも大きくなって、力もついて。
今だったら恩返しできるかな・・。見た目もおっ君そっくりらしいし。
おっくんがしてたように、じいちゃんとばあちゃんに、優しくして、
おっくんみたいに庭の掃除とかも、たまにしてあげて・・・。


でもだったら、・・・だったらさ・・
単純に死ぬのが俺で、音羽くんが、生きてれば一番よかったんじゃないのかな。


俺なんか、結局・・計画はずれでできた子供だから・・・だから・・長生きなんてしないでいい。
おっくんが生き返るなら・・時間が戻せるんだったら、俺は生まれなくなっていい。
そう何度も願った。でも駄目だった。色々なものは何も変わらない。
時間だけが流れて、生きる人間だけが歳をとっていく。

じいちゃんと、ばあちゃんにいつまでも元気で長生きして欲しい。
みんながずっと元気だったらいい。
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