会話。

週末。いつものように比呂の家に泊まりにいこうと思ってたのに、
比呂が俺に、泊まりにこないでいいと言う。

『なんで?いくよ、だって・・比呂一人じゃん。』
『うーん、でもさー、毎週毎週、わりいしさ。』
『なにが?!悪くないよ!』
『・・でもいい、泊まりは。そのかわり遊ぼう。』
『・・・・。』
『・・・・・。』
『・・・・うっ・・。』

俺は半分パニックになって泣く。
一週間、週末比呂と過ごす時間だけを楽しみにして頑張ったんだから・・・・。

『泣くなよ・・。夜は家に帰ったほうがいいって言ってるだけなんだよ。』
『言ってるだけって・・だけってなんだよ。』
『・・・・。』
『そんな些細なことだったのか?!比呂にとってはそんな・・。』

比呂は、ムっとした顔をして何かを言おうとしたんだけど
その言葉を飲み込んで、一回溜息ついたあと、ゆっくり俺に話しかける。

『そういう意味で言ったわけじゃねえよ?何でまたそんな風に言うんだよ。』
『俺がそういう意味でとったんだ。お前がどうこういう資格ねえしっ。』
『・・・・・・。』
『・・・・・・。』

比呂は参ったな・・って顔して、次の言葉を捜してるようだ。
黙ってじっくり考えた後、顔を上げて比呂は俺を見た。

『・・さや・・さあ・・。まだ・・もうちょっと入院長引くんだって。
その間・・・ずっとお前に週末俺んちに泊まってもらうわけにはいかないじゃん。』
『・・・・なんで?!』
『・・なんでって・・・。』

比呂が黙る。きっと俺が、比呂の言いたいことの殆んどを察してることに気づいてるからだ。

俺の家族に遠慮してんだ、比呂。
こないだ俺の母親がから揚げ作って比呂にやれっていったとき・・なんかそんな感じの話してた。
『俺・・・お前を独占しちゃってて、なんかもうしわけない・・お前んち家の人に』
とかさ。あっほすぎね?恋人なんだから当然じゃんかね。

ちょっと考えてた比呂は・・そういう・・なんつーか・・ヤボな説明はすっとばして、結論を俺に言ってきた。

『お前が泊まりにきてくれてたおかげで・・俺今ほんと、大丈夫なかんじなんだ。
・・・でも、いつまでこういう気分っていうか、テンション続くかわかんない。』
『・・・・。』
『だから、本当にどうしようもない時に・・お前にはそばにいてもらいたいから・・だから今週は・・うん・・。』
『来るな・・って言いたいの?』
『・・・そうじゃねえよ、じゃなくて・・・。』
『・・・結果は一緒じゃねえか。来るなってことだろ。』

そしたら比呂が怒った。憮然として黙ってしまった。
すっごい長い沈黙が続いた。気まずいんだけど俺・・むくれてる比呂の顔が大好きで、
ずっと見ていたくなるから全く救いようがない、マジ病気だ。

すると比呂が、そっぽ向いたまま話しだす。
『結果は一緒って・・その結果ってのが・・来るなってことなわけ?』
『そうじゃん・・・。』
『それはお前が・・俺の話きいて、そうとったってことだろーっ。
勝手にそれを俺が言いたかったことみたいな風にいうなよ。』
『・・・来るなっていってたじゃん。』
『言ってない。』
『週末・・俺と一緒に過ごしたくないって言ったじゃん。』
『言ってない。』
『比呂は卑怯だ。俺より全然余裕だしっ、俺一人うろたえてて馬鹿みてえだよ。』
『・・・・。』
『・・・・。』

比呂はふうっとため息をついて、ちょっと考え込む。そんで俺のほうを見る。
目が合って俺は顔が真っ赤になりそうだ。

『俺は余裕だよ。それの何が悪いんだよ。お前がそばにいてくれるから、俺、こうしていられるんだろ?』
『・・・・・。』
『俺はお前といれてうれしいよ。だから毎日気持ちに余裕がある。余裕があるから、今は楽。
だから、そういう時は・・那央の事、お前んち家の人に返すっていってんの。』
『・・・・・・。』

比呂が一生懸命になって・・俺に気持ちを伝えようとしてくれてる。
なんともいえない気分になる。涙が出そう。うれし涙が。

『・・前にも言った。きっと俺、お前に言ったはず。ちょっと前まで本当にしんどくて毎日がどうでもよかったりしてた。
色々なものが怖かったし、全部大切なのに全部いらない感じで、とにかく投げ出したかったけど、どうもできなくて。
余裕なんか欠片もなかった・・それどころか何がなんだかわかんなくって・・何をどうすればいいのかもわかんなくて・・』
『・・・・。』
『那央と付き合い始めて、なんか・・いろんなものをしっかり見れるようになった気がする。
お前がいてくれるから出た勇気もいっぱいあった。俺の自信にもなった。
だから何でも、お前に話したし・・そんな俺の話を、お前が聞いてくれて・・・
そういうことが俺を支えてくれた。今、本当に俺、大丈夫なんだよ。』
『・・・うん。』

俺は比呂の服の裾をつまむ。

『・・・お前を俺だけのものにしたいって気持ちはある。欲もでる。』
『・・・。』
『でも、俺たちの世界は、俺たち2人だけで回ってるわけじゃねえじゃん。
お前にも俺にも家族があるし、そのほかだって。』
『・・・・。』
『俺はそれをずっとわかってたのに、自分がガマンできなくてお前を独占してた。
お前の家の人に寂しい思いをさせてたんじゃねーかなーって・・今、すごい反省してる。』

喉の奥がズキンと痛む。

『さっきも言ったけど・・お前と一緒にいられた間に俺は色々考えた・・。
お前がいてくれたから考えられた。そりゃ・・すぐにくじけるかも知れねーけど、
でも・・今はもう・・漠然と・・・大丈夫なんだ。』
『・・・。』
『だったら・・今度は俺が那央の事、考える番だ。お前本人のことも、その周りの事も考えて・・・』
『・・・・。』

・・・声がところどころかすれる比呂。去年よりも少しだけ、低くなったその声・・・。
俺は意外と泣いていなかった。比呂の言葉に圧倒されて涙がでなかったんだ。
比呂は話を続けた。

『・・いつもあれだけグズグズ言ってたお前が・・ここんとこずっと、元気で頑張ってくれて・・・
でもさ、前に言ってくれたじゃん・・・。本音?みたいなかんじで。』
『・・さやくんに・・やきもち?』
『ああ・・そう。そういう感じの話・・。』
『・・・。』

比呂は、照れくさそうに・・そして言いたくなさそうな仕草で話す。

『あの時、ほんと俺・・なんか嬉しくて・・・俺・・早く元気にならねーと駄目だなって・・・思ってさ。』
『・・・。』
『俺が元気になることで・・・喜んでくれる人がいるって嬉しいよ。それがお前じゃん、俺の大好きな。』
『・・え・・?』
『・・・なんかさ・・エサで釣られてるような感じであれなんだけど・・でも・・うん・・。お前のおかげで・・元気になれた。
ちょっと前まで言ってた『大丈夫』って言葉は・・・ぶっちゃけ若干ハッタリだったけど・・今はほんと大丈夫だから・・。
また、前みたいに・・・頑張っていける・・・。』
『・・・・・。』
『ありがとう。』

・・・いつの間にか向かい合っていた俺たちは、お互い照れてしまって、互いの足を蹴飛ばしあった。
結局・・言い散らかしっぱなしで・・・比呂は話を終わりにした。
つか、テレちゃってさ、話続けらんなくなっちゃったーってだけなんだろうけど。
『いてえなっあほ』とか言い合いながら、俺はにやけた顔を隠しきれない。

週末は比呂の家に泊まらなかった。

でも、沢山遊んで、体ごとじゃれあって・・新婚さんというよりは
恋人同士ってかんじの・・そんな感じの・・休日を過ごした。

意固地でマイナス思考の俺に、なんとか真意を伝えようと、比呂はすごく大事に大事に、気持ちを話してくれて
なのに俺はそんな比呂の言葉を・・わざと捻じ曲げて受け止めて喧嘩の種を作ったり、攻撃の武器にしてしまう。
何度も繰り返してしまう罪悪感みたいな感情を、持ってしまって俺は落ち込んで
それを比呂に打ち明けたら、比呂はまた少し考えて・・・
『・・お前だけが悪いんじゃないよ。繰り返させちゃう俺も悪い。ごめんな。』
って言ってくれた。






うれしかった。


2007/11/05(月) 23:13:25
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