2006/9/29 (Fri.) 00:25:50
部活の休憩時間。
ピンクが思い切りバテていて、相手にしてもらえない紺野がメガネと立ち話をしている。
どうやら天文関係の話で、冥王星の話題らしい。
今更過ぎじゃね?とおもったけど、俺は黙って近くにいって、2人の話を聞いていた。
そのうち話題が少し変わる。輪廻についての話になった。どういう流れでそうなったのかというと、
『星かあ・・・・・人は最終的に星になるのかな』と、浅井が紺野にいったからだ。
紺野はそれに対して、まずひとこと。『俺はヤダなー。』といった。
『なんで?』
『だってやだよ。星なんて。』
『だからなんでよー。』
『だって、怖いじゃん。あんな広くて暗いとこにずっとだよ?やだよ。』
『ああ。』
浅井が体育館のカーテンのわずかな隙間から空を見た。紺野もみた。俺も見た。
『俺さ・・・。』紺野が話をしだす。
『なに?』
『つい最近、それ考えた。』
『なにを?』
『死んだらやっぱ、終わりがいいなって。』
『?』
『生まれ変わりも、星もなしで、何もなくなって終わりにしてほしい。』
『えー?なんで?』
『・・・。』
浅井がちょっと泣きまねをして『さみしいこといわないでよー。』という。
紺野は、なにそれ!と笑って、肩をすくめながら困り顔をした。
『考えただけで怖い。あんな・・どんだけ広いか想像つかないような宇宙で独りぼっちになるとか。』
『・・・・。』
『俺、父さん死んだじゃん?』
『うん。』
『最初は毎日星見て過ごしてたんだけど・・・』
『・・そうなんだ。』
『うん。子供だったからさ・・お前のさっきの話じゃねえけど・・死んだ人は星になると思ってて。』
『・・うん。』
紺野はうつむくと床をトントンとつま先で蹴る
『でもさ、最近色々考えてさ・・・他の人はともかくさ・・・
俺はやっぱ、死んだらきれいさっぱり終わりがいいとおもったんだ。
だってさ、星はともかくさ、たとえば生まれ変わりとかいうじゃん。』
『うん。』
『そんなんになったらさ、新しい記憶とか出来ちゃうじゃん。 』
『ああ・・。』
『今の思い出を忘れるってことじゃん。』
『・・・いわれてみれば・・・そうだね。』
紺野は浅井をまっすぐ見て言った。
『俺、そんなのヤだもん。』
『こんのちゃん・・・。』
紺野は、またうつむいて、話をつづける。
『俺は、父さんの子供にうまれて、お前らとかの友達になれて、そういう自分で終わりたいよ。
新しい人生とかに興味なんかないし、とにかく生まれ変わりたくない。
記憶を重ねどりされたくないんだよね・・そんなの勝手にされたらって思うと、わりと本気で怖いよ。
絶対生まれ変わらないって保障があるなら今死んだっていいってくらい。』
『なんでよー・・。今死ぬなんていうなよー。』
浅井が紺野を突き飛ばした。紺野は、小さな声で『ごめんごめん。それくらい今が好きってことだから。』といった。
で、話を続ける。
『父さんは死んだけど、あの人は色々大変だったから、だから、生まれ変わって、今度こそ、
幸せな人生を送ってほしい。俺が生まれないルートの人生をもう一回・・・とは思うし願う。
でも俺は、父さんの子供のまま終わりたいから、星にも何にもなりたくないなっていう・・・』
俺はそこで、口を挟む。
『でもさ、比呂。』
『なに?』
『死んだら全部なくなるんだろ。大事な父さんとの思い出も消えるよ。』
そしたら紺野は、ちょっと考えた後、俺を見ていった。
『いいんだよ。父さんが俺を忘れて、俺が死んだんなら、もう必要ねーもん。思い出なんか。』
・・・矛盾してないか?
『必要ねえ思い出ならさ・・・別にいいじゃねえかよ。
記憶の重ねどりとかしたって・・。消えることにはかわらねえじゃねえか』
そしたら紺野が言うんだ。
『なにいってんだよ。全然違うよ。俺は、俺で終わって、それで全部なくなりたいんだよ。
それは俺の希望だし、希望かなえて消えるのはいいよ。でも、その後にまた別の人生があったらいやなんだ。
無意識だろうがなんだろうが、上書きされたくないってこと。俺は今の、俺の人生で終わりがいいんだよ。』
『・・・・』
『つか部活で話す様な事じゃねーじゃん。なんでこんな話してんだよ、俺。』
『『しるかよ。』』
俺と浅井につっこまれて、嫌そうな顔をする紺野。
休憩が終わって、練習に戻るとき、紺野はもう一度カーテンの向こうの空を見た。
比呂。
お前の言いたい事は、本当はすごくわかるんだ。俺はさ・・俺だって、たとえ生まれ変わりがあるとしたって、
次の人生でお前に出会える絶対的な保障がなかったら俺の今の人生で終わりたい。
でもさ、お前の前では俺はいつまでも、お前の言い分を理解できないふりをするよ。
俺がお前を理解して、お前がそれを喜んだら、俺はきっとすげえ悲しいし、一生立ち直れなくなりそうだから。
