2006/10/31 (Tue.) 17:55:26
最近俺の日常に、コインランドリー通いという項目が加えられた。
ちょっと変わったコインランドリーで、夜に行くと決まって、静かな酔っ払いと、人懐こい高校生と、
女装癖のある大学生らしき男が談笑をしている。
その日。俺が洗濯物をもち、コインランドリーに入ると、いつもの高校生がいなかった。
いないから、いつもそいつが座ってジャンプを読んでいるソファにすわり、ジャンプを読んだ。
女装癖のある大学生が、『小林さん』と声をかけてくる。小林というのは俺のことだ。
返事もせずにそっちを向くと、 『きたよ。』とそいつが、一言いった。
ガーッと自動ドアが開く音がして、いつもの高校生が入ってきた。
機嫌が悪いのかどうなのか、酔っ払いに『死に損ない。』というと、酔っ払いにぎゅうっと抱きついた。
『どうかしたのかい。』
酔っ払いが、静かに高校生の頭を撫でる。死に損ない呼ばわりされても怒ったりしない。
『何にもしないよ。』
と、その高校生は言って、酔っ払いが差し出した焼き鳥の缶詰をパカンとあけた。
『小林さん、こんばんわ。』
そいつに言われて、俺は、黙って頭をさげた。
高校生は洗濯物を、洗濯機に入れると、金を入れて、スイッチを入れた。
やかましい音が鳴る。でも今日はやけに静かだ、
いつもケラケラいつも笑っている高校生が笑ってないから。
『どうしたー。佐藤君。』俺が声をかけると、高校生は俺を見て
『欲求不満なだけですよ。』といった。
女装癖のある大学生がそれをきいて、『最近、人妻とやってないのー?』と茶化す。
高校生は、ふふっと笑うと、『あたりー。』といって、焼き鳥をひとつ、口にほおりこんだ。
佐藤は、ほんとは、佐藤じゃない。それは前に、本人が言ってた。
でも昔は、佐藤だったそうだ。
本人が佐藤の方が好きだというから、みんなで『佐藤』と呼んでいる。
佐藤の家には洗濯機があるみたいなんだけど、
そこで洗わない事情があるらしく、深く聞く必要もないから、それを誰も何も言わない。
佐藤が俺の隣に座り、だけど余りにおとなしいから、俺はずっと佐藤の頭を撫でていた。
佐藤は、無言で焼き鳥を食って、俺が読んでいたジャンプを横から覗いて一緒に読み始める。
なんなんだろうな、この空間は。
俺はこの空間にいる連中と、何の接点もありはしない。
ただ、『コインランドリア』と言う名前に惹かれて、ふらりと此処に入っただけで、
この空間が、俺の生活の一部になってしまっただけで
家に帰れば、洗濯から乾燥までしてくれる地球に優しい洗濯機があるんだけどね。