花火大会 夕方、比呂から電話が来て 『店のお客さんに聞いたんだけど、北公園の裏の神社の祭りで花火上げるんだって。』 っていわれたのね。 『那央、月曜から塾の合宿だろ?会おうよ!』 っていってもらえて、俺、走って店までいったんだ。 一緒にチャリで北公園行ったら、神社の祭りを本当にやってて 射的とかやったり、かき氷食ったりして、7時半から始まる花火大会まで ふらふらしながら楽しんだ。 花火が始まると、比呂が俺に『上の方にいこう。』っていうのね。 3メートルぐらいの崖があって、そこ登ると絶好の花火ポイントで。 わざわざ崖よじ登って花火見るような人はいなくて 俺らの特等席だった。最後の大玉があがった後、俺は比呂のほっぺにちゅっとした。 花火のあと、近くのカフェで飯を食った。 ゆっくり話すの、なんか久々な気分になって 今日、ふいに誘ってもらえたのが、すごく嬉しくて感動して パスタくるくるしながら涙が出たんだ。 すき。すごいすき。好き過ぎて俺は病気になりそう。 あえないと飯が食えなくなるし、会えば会えたでドキドキしちゃうし うれし泣きが、やがてまた不安の涙に代わって 比呂が横浜に行っちゃったらどうしようって思ったら すごい悲しくなっちゃって・・・ とまんなくなった涙を拭って比呂のほうをみたら 比呂はぼんやりと俺のほうをみていた。 『花火、きれいだったね。』 比呂の声は、とても小さくてかすれていて そのあと押し黙って飯食って・・・店を出た後、北公園で話をした。 『なんかあった?』『・・・・・・。』 『・・・・・。』『ひろ・・・。』 『・・・・・・ん?なに? 』『・・俺、比呂と離れたくないよ・・・。』 『・・・・・・・。』『横浜なんか行かないでよ・・・。』 『・・・・。』『ずっと光が丘で暮らそう?俺も大学行かない。一緒にいたいよ。』 祭りの片付けはほとんど終わっているようで、大人たちは神社でドンチャン騒ぎをしている。 比呂は、まだ明かりがともっている提灯をみながら溜息を一つついたあと、 俺の肩を抱き寄せた。頭を撫でられて俺は、ぐっとくる。 もう押さえようがなくて、嗚咽をあげた。 沢山会いたいよ。朝も昼も夜も。 なのに思うように会えない。・・・比呂に会いたくてたまらないのに。 比呂は、俺の頭を撫でた後、背中を擦ってくれて そのあと俺の手を握って、指を絡めながら、考え込んでいた。 だけど、なんにもいわなくて・・泣いてるのかと思ったんだけど、そうじゃなくて 俺が泣きやむのを、何もいわずに黙って待っていてくれているようだった。 泣き過ぎて・・目が痛くなって、溜息が出て、比呂にキスをねだると ちゅっと短くキスしてくれて、俺をベンチから立ち上がらせてくれた。 手をつないで・駐輪場にいって、俺の自転車にまたがる比呂。 自分の自転車は、公園の駐輪場に置いたまま 俺の自転車で俺を家まで送ってくれたんだ。 玄関で、別れ際『那央』っていわれて、俺は振り返る。 比呂はそんな俺と目があったら、目線を地面に落として、少しだけ考えて・・ そして顔を上げる。俺の事を、とても愛しそうな目で見てくれた。 『うれしかったよ。俺だって離れたくないし・・・。最近会えな過ぎだったよな。 ごめんな。出来るだけ時間つくるから、会えるときは会おう。 』 そういわれた俺は、必死に笑顔を作って頷いた。 横浜になんかいかないよ・・って・・・比呂はいわない。 大学なんか行くなって・・比呂はいわない。 俺だって・・そんなことを言っちゃ駄目だってことはわかってるんだけど・・ さみしくなっちゃって・・耐えられなくて、口がそれを勝手にしゃべっちゃった。 比呂は俺の頭をぽんぽんって、優しくたたくと、 小さい声で『おやすみ。』っていって、来た道を歩いていったんだ。 曲がり角を回って、比呂が見えなくなって、悲しくなって走って追いかけて 曲がり角を曲がったとき、比呂の背中が見えたんだけど・・・ 涙を拭きながら歩いているような・・・そんな仕草が目に飛び込んできて・・・ 俺、その先に行くことができなかった。 ・・・・・。 そのまま家に戻って、自分の部屋にはいったあと、 比呂の携帯に電話したら、比呂が元気な声ででてくれて 『さっきはごめんね。』って俺が言ったら 『なにいってんだよ、嬉しいよ。』って、屈託ない笑い声をあげてくれた。 そのあと少しだけ話をして、その間に何度も比呂が鼻を鳴らす音が聞こえて・・・ やっぱ泣いてたんだなっておもって・・・なのに元気なふりして頑張ってくれて だから俺も頑張りたいと思って・・・あんなこと言っちゃって馬鹿だったけど・・・ 比呂の優しさがすごくうれしかった。 2008/08/17(日) 00:04:38 |
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