けだま。

塾が終わった後、店にいって、比呂がバイト終わるまで、ずっと待ってた。
帰り道だけでもいいから・・死ぬほど辛いから会いたかったし
どこにもいきやしないって・・わかってんだけど・・だけど駄目で
『比呂が終わるまで待ってる。』って俺が言ったら
比呂は『いいよ。』っていってくれた。

バイト上がりの時間。階段を駆け上がってくる比呂。
バターンってスタッフルームのドアあけると、俺の顔見てアハハって笑った。

『あんだよ〜・・。寝てねえじゃん。』
『なにそれ!』
『寝てるとおもって急いできたのに。』
『おきてるよ!』
『腹減ったな。・・9時か。サニマ寄るか。』
『・・・・・うん・・。』
『え?』
『・・・・・うんっ☆』

やった〜・・。勇気出してきてよかったや。

おぎやんのサニマにいったらおぎやんはいなくて、『お前、先すわってて』って比呂が言うから


カフェスペで待ってたら、レジのほうで大笑いしてる声が聞こえて、
おぎやんじゃない店員さんと、比呂が笑ってて、何の話してんのかな〜ってソワソワしてたんだけど
そしたら比呂が、俺にはパフェ、自分にはコーヒーとポテト買ってトレーにのせてきてくれた。

『はい。糖分。』
『俺、銀さんじゃねえよ。』
『でもスキだろ?』
『うん。』

クリームと果物いっぱい。超うまそうで思わず顔が笑う。
比呂がコーヒーを一口飲んで、そんで俺の方を見て言う。
『日記。あんだろ。俺の番だよ。』

俺はバッグから日記を取り出した。

俺の目の前で読む比呂。読んだ後、俺に向かって『・・・本文2行・・・・』とかいう。
俺はパフェの中のモンブランめいた部分をスプーンですくって頬張った。
くちのなか満タンなためのノーコメント。比呂は、だまって日記を閉じた。

『・・・俺はいいよ。どっちだって。那央が頑張って京都の大学受けるなら応援するし
俺と一緒にきてくれるっていうなら、それはすごいうれしいし。
でも、前にもいったけどギリギリまで、気持ちがどう動くかわかんねーんだから
受けて受かるだけの勉強しとけよ。』

俺はコクンとうなずいた。

『さて。』

比呂が日記を丁寧に自分のバッグにしまってから、ポテトをつまんでコーヒーをのんだ。
『名前きめた。』
『・・・・え? 』
『ハムスター。』
『まじで?!』
『だってお前、全然考えてくれないから。』
『だって〜!! 』
『っていうかんじだから『けだま』にした。』
『・・・・・・え?』
『けだま。』
『・・・・なにそれ。』

俺はパフェを食う手を動かしつつ、話をする・・し、比呂の話を聞く。

『だって・・・もっこもこなんだもん。それに俺に懐かな過ぎて超うけるし・・』
『・・・なつかな・・』
『すげえはやいの。動きが。俺、ぼさっとしてるから巣の掃除大変だよ。』
『あははっ。』
比呂はボケた性格してるけど、行動速度は人並みじゃん。

『や。でも最初はさー。』
『うん。』
『西やんとかにしようかとおもって。』
『ぶはっ・・・』
『超悩んだんだけど〜・・やっぱセンスねえなーって。』
『いやいやいや。なんで西やんがでてくんの』
『だっておまえ、けだまの毛、みただろ?』
『うん。』
『生え際が黒くて、ちょっと伸びた辺りがあのー・・茶封筒の薄い色みたいな色の』
『比喩おかしいけどすげえわかりやすい』
『あの配色が・・ぐ・・・』
『・・・・ぐ・・。』
『グレかけてたときの西やんの頭に見えて・・っ』
『あははははは。』

ああ・・・。たしかに。

比呂は、けだまの毛の配色と旧西やんの髪の色の
絶妙なシンクロ具合がかなりツボってるらしく、
俺に説明してる時点で、笑い死ぬ寸前だった。

・・・・そっか〜・・けだまか。でも・・前に、ころころにするっていってなかったっけっかな・・。まいいか。


『で、けだま元気?』
『うん。元気だよ。元気すぎてヒく。』
『なにそれ!』
『俺が言うのもなんだけど、とにかく落ち着きがなくてさ。』
『ははっ。』
『あっほなんだよ。わっざわざ掃除しにくいとこに、ひまわりの殻とか落っことしてあったりしてさー。』
『ふふっ。』
『で、毛づくろいがすげえの。』
『えー?』
『超全身を掻くの。』
『え?!!!』
『がしゃがしゃがしゃがしゃ〜!!!みたいに。』
『えーーー?!!』
『洗車機のほらっ・・わかるお前・・ほらっ・・でけえモップのくるくるまわる・・』
『あー!!わかるわかる!』
『あれに近い動きなんだよ。どんだけかゆいんだよもー・・意味わかんねーよー』
『あははっ。別にかゆくてやってるんじゃないんだろうけどね!』

俺が笑ったら、比呂もにこにこしてくれて。

『あ、でもねー・・西やんの前にー・・』
『うん』
『だすきん・・・とかにしようとも考えてて。』
『はー?』
『だって・・自分で散らかすんだけど、移動することによってー殻だのなんだのが、サーっとまとめられていく』
『ははは』
『で、だすきんにしようか、くいっくるにしようか悩んで。』
『うんうん。』
『結局けだまは自分で散らかしすぎるから、最終的に片付いてねえし、名前負けするからやめようっておもって。』
『ふふっ』
『とにかくけだまね。よろしくね』
『あっ!端折った!』

パフェがすごく美味しくってー・・・比呂はポテトを頼んだんだけど
2〜3本食べただけで、後は俺にくれたんだ。
調子まだよくないのかな・・。でも、前みたいに、沢山話をしてくれた。すげえうれしかった。
パフェもポテトも完食して、おなかがだいぶ満たされて〜2人で一緒にチャリ漕いで、夜空を見ながら話してー・・

途中で見つけた空き地に比呂が自転車ではいっていって、俺はそのあとをついていって
自転車とめて、木陰みつけて、比呂がキスしてくれた。
ぎゅーってしてくれて、『那央』っていってくれて、俺は目を閉じて思い切り深呼吸した。

ゆっくりした比呂の口調が好き。言葉と言葉の合間の沈黙も全部好き。

声も好き。

優しいから好き。

俺に一番優しくしてくれるから好き。


比呂が大好き。

2008/10/07(火) 23:03:36
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