比呂ちゃん。

今朝・・比呂に電話してー・・起こしてあげたんだ。うん。
何コールくらいかかったかな・・でも頑張って電話でてくれてね。すっごいかすれた小さい声で

『・・はい・・・。』

聞いた俺は胸がギュンと痛む。目覚めたての比呂。第一声を聞けた俺。なんかすごく感動しちゃって。

『・・・・おはよ。朝だよ。起きて。』
『・・・おはよ・・・。』
『・・・目、開けた?』
『・・・・さむい・・。』
『そろそろ起きて、支度しよう。』
『・・・・・・。』
『学校のしたく。ね。起きな。』
『・・・・・・うん。』

目を閉じて、想像をする。付き合ってから何度も見た比呂の寝起き。
閉じたまつげの長さ。かたっぽひとえの起きたての目元。
目が完全に覚めるまでに、すっごく時間がかかるとこ。ガラガラ声・・・かすれ声・・・。

声・・・。

『那央、今日いくの・・?学校。』低くてかすれた声の比呂が聞く。

『うん。いくよー。いくさー。』
『俺、午後から仕事なんだ。だから昼までしかいれないかもしれない。』
『・・・俺は・・・ちょっとでも会えれば嬉しいよ。』
『・・・・わかったー・・。じゃあ行く。』
『うんっ。』

そのあと少しだけ話して、電話をきり、俺は支度をはじめた。

学校に来た比呂。声はすっかりいつもの声。
坂口が寒いからって言って、抱きつきまくってたっから、俺がそれを引き剥がしまくった。
『独占禁止法だっ!』って坂口に文句言われたけど無視。

1時間目の休み時間から麦が学校に来てさ。『あー、来てるじゃん。比呂〜。』とかいう。
んぼーっとした顔で、麦のほうをみる比呂の頭をパシっとはたいて
『仕事大変なんだろ。大丈夫なのかー。』っていった。

・・・・・・・ズキ。心に何かが刺さる。刺さったものは麦の言葉だ。
俺・・何も考えないで・・自分のわがままで比呂のこと・・・
無理やり起こしてまで学校こさせちゃった。思わずうつむく。泣くのだけはなんとかガマン。
そしたら比呂が麦に向かって『大丈夫だよ。』って言って笑った。

二時間目の休み時間。『那央。水飲みにいかね?』っていわれて
比呂と2人で水道の方に歩いた。そしたら比呂があくびしてさ。
『・・疲れてるのにゴメンね・・俺・・無理やり学校来いとか・・。』
気がついたら俺、謝ってた。二年も付き合ってていまだに俺、
浮き足立ってて、一人でバカみたいに気持ちを押し付けて、我を通して・・
大事な人の体の事とか、心配することすら出来ないで・・・

そしたらね。比呂がね。普通にね。うん。
『疲れてないよ。っていうか最近寝不足なのはさー。
浦安の星君探しにはまっててさ〜・・寝るの遅いからなんだー。』とかいうんだよ。

『バイトなんか、一時期に比べたら全然楽。ほら、引継ぎほとんど終わったし
俺はもう雑用や配達ばっかだし。』
『・・・でもー・・。』
『・・・那央に会いたがってもらえて嬉しいよ。いっちばん嬉しい。』
『・・・・・・・でも。』
『でもじゃない。あやまんなくてもいい。っていうかー・・。』
『・・・・・・何?』
『また明日も起こして。あの時間でいいから。』
『・・・もーーーっ!!!!』

俺は比呂の背中にへにゃちょこぱんちを食らわした。
顔が真っ赤になって、みぞおちの辺りで涙の味がした気がした。

比呂は昼ごはんをみんなで一緒に食べてから帰って行ってしまったけど
俺は門まで一緒に行って、後姿が見えなくなるまで手を振って
すごく幸せな気分で、冷たい風に春色のハートを見る。

もうすぐバイト終わりの時間かな。電話しようかな・・。


声、聞きたい。


2009/02/19(木) 22:30:36
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