一筋の光。

今朝・・目が覚めて・・ふとカーテンのほうを見たら、一筋だけ朝の光が射し込んできてて、
それを見たら、背筋が凍るような気分になって、あわててベッドから飛び起きた。
机の上においてある携帯を開き、震える指で着歴から比呂に電話をする。

比呂が電話に出るまで10コールくらいだったんだけど・・その間、俺は生きた心地がしなかったんだ。

『・・・那央かー?どしたー・・。』気の抜けたような声。俺はその場に座り込んだ。
返事が出来ない俺。ぽたぽたと涙が出てとまらない。

『・・・・那央?』
『・・・・・。』
『・・・・那央ちゃん。』
『・・・・・・ひろ・・・。』
『うん。』
『生きてるよね。』
『・・・・うん。』
『・・・・・ほんとだよね。』
『・・・うん。大丈夫だよ。』
『・・・。』
『・・・おはよう。』
『・・おはよう・・・。』

あんなに綺麗に朝の光が・・たった一筋だけ入り込んできてたから・・
俺の知らないうちに、比呂が天国に行っちゃったんじゃないかって怖くなって・・・

だって怖いよ。そばにいられないんだもん。近くに住んでたあの時ですら、
俺は比呂の命が消えかけた瞬間、何も知らないで友達と笑って話をしていた。

会えなくなって、まだとおかちょっと。GWには会う約束をしてる。
なのに、つらくって・・・。すごくつらくって・・・。

『なおー・・・』
『・・・・・。』
『・・お前、今日はバイトないの?』
『・・・・・午前中・・。』
『ふーん・・・。午後はなんかあんの?』
『・・・・わかんない・・・。』
『ふーん・・。』
『比呂、今、なにしてんの?』
『え?俺?・・俺は仕入れの帰り。路肩に車とめて電話してる。』
『・・・・体、大丈夫?』
『・・・うん。慣れた。とりあえず早起きには。』

のんびり口調の比呂の話。話す比呂の顔を見て聞きたいなあ・・・。
それから少しだけ話をして、電話を切った。涙は止まった。
仕事がんばってる比呂。俺も頑張りたいって思って、ちゃんとバイトに出かけた。

仕事中、なんかチラチラと見覚えある人間が視界に入るから、
『・・・なにしてんの?』って声をかけてみた。相手はもちろんせおなおだ。
『ちゃんと働いているのかどうかと思い・・見に来ました。』必死な標準語が泣ける。
バイトあとに一緒に昼飯食って、せおなおは絵の具を買いに行くといって街に消えていった。

俺は一人で部屋に帰って、小沢に電話しようかなーと思ったんだけど、
小沢は研修で地方を回ってるから、夜でもなかなか電話に出ることができない。
俺は比呂からもらったワンピを一巻から読み返しながら、いつの間にか眠っていた。

そして、比呂からの着信で目が覚める。
『・・・・ひろ?』『那央?』『うん・・。あ・・。朝・・ごめん。俺・・。』
俺が寝起きの頭でぼそぼそ謝ると、比呂が珍しく急いだような口調で俺に言った。
『そんなのいい。後で話そう。』

・・・・・え?
俺がぽけーっとしてたら、比呂がね・・比呂がしんじらんないようなことを言ったんだ。

『那央。会おう。お前、名古屋までこれる?』
『・・・・・えっ?』
『秋山さんに店頼んで、今、新横浜に向かってる。7時くらいの新幹線に乗れそうだから
お前、こっちに向かってきてほしいんだけど。』
『・・・・・うそっ・・え・・・?でも・・・え?!!!』
『京都までいってもいいんだけど、あんまりゆっくり時間が・・
だから・・とにかく少しでも長く会いたいから・・名古屋まで出てきて。』
『・・・え・・あ・・・・うんっ。いくっ。いけるっ。』
『さっき調べたんだけど、そっちを8時位に出るのぞみがあんの。』
『うん。』
『俺は名古屋に8時半ごろつくようにするから、お前、8時9分ののぞみにのって。』
『うん・・わかった。』
『駅までどんくらいかかる?』
『大丈夫。あと2時間あるし全然大丈夫。』
『じゃあ、あとで。』
『うん。あとで。』

あわてて電話を切る比呂。

・・・・。

俺も、そっから大慌てだった。急いで何着るか決めて、とりあえず顔洗って歯を磨いた。
そんで、服を着替えて髪の毛とかして、バッグの中に交換日記を入れた。
携帯をもって、部屋を出たんだけど、思い出したことがあって、また部屋に戻って
部屋の写真と、部屋から見る街の写真と・・せおなおの写真と、他の友達の写真をとって
で、こんどこそ京都駅に向かった。

新幹線の中。どきどきがとまらない。比呂に会える・・会える・・ほんとに?なんで?うそみたい。
そんなことを思っていたら、あっというまに名古屋駅に着いた。

初めての名古屋駅。どこに下りていいのかもわかんないくらい
パニったけど、同じ新幹線に乗ってた人たちの後をついていったら
改札があって、そしたらね・・。比呂がいたんだ。先について俺をまってくれてた。

涙が出て、改札を通り過ぎて・・そばに駆け寄る。
服の袖をつかんだら、幻じゃないってわかったよ。
比呂の顔を見る。かたっぽだけ目が一重だ。

比呂が俺の肩をぽんって叩いて、『腹減ったね。飯いこう。』っていう。
あっけらかんとした声。俺は心の底から笑顔になる。
比呂の顔をまたみたら、周囲の人間の視線を感じた。
歩きながら俺は、比呂に『・・ジロジロみられてる・・。』っていったら、
『俺の那央をみるなー・・・。』って、息だけの声で比呂が言って笑った。

駅の中の店に入る。ラストオーダーに何とか間に合った。
初めての場所で緊張してんだけど、比呂がいてくれるから安心していられる。
席につくと感じのいい店員さんがメニューを持ってきてくれて、
二人で適当に頼んで、店員さんがいってしまったら、今度こそゆっくりと目を合わせた。

何を話したらいいのかわかんない。ちょっと会わなかっただけなのに・・おかしいな。
話したいことは山ほどあるのに・・優先順位が決められない。
頭の中がバグったみたいに、好きって単語ばっかりグルグルとまわって止まらない。
だから、テーブルの下で比呂の足を軽く蹴飛ばした。
比呂が笑う。 『蹴るか普通・・・。』そういいながら自分の口元を左手で覆った。
比呂の癖。ほっぺとか・・口元とかを、そっと触ってふふって笑う。
その仕草が俺は大好きで・・見たくて恋しくて何度も泣いたんだよ。

『・・比呂・・。』
『ん?』
『交換日記もってきたよ。』
『ほんと?みせて!』
『でも一冊だけ。連休のときにもう一冊もってくね。』
『あ・・じゃあ持って帰っていいの?これ。』
『いいよ。 』
『超うれしいー・・。ありがとー・・。』
ほんとにうれしそうな顔の比呂。・・好き。

『あのね!比呂。』
『ん?』
『俺、周辺環境写真とってきた。』
『なにそれ。』
『部屋とかせおなおとか。あと友達』
『うっそ。まじか?ちょ・・見せろっ。』
『へへ〜・・・。』

一緒に携帯画面を覗き込む。
やっぱ片付いてんのなー・・お前の部屋・・とか
せおなお超イメージどおり・・とか言いながらへらへら笑う比呂。
料理が運ばれてきたから、携帯を閉じて話をしながら食べた。

比呂と食べるご飯・・すごくうまくってさ・・おいしいなあって・・幸せな気分に感動しちゃってさ
涙がまた出てとまんねえの・・・。比呂が優しい顔で俺を見ていた。

『・・・なおー・・・。』
『・・・・・ん?』
『・・ガマンできなかったー・・。』
『・・・・』
『あと一ヶ月もすれば会えるってわかってんだけど・・どうしても・・。 』
『・・・・・・うん。』
『・・・いつもいきなりでごめんな。』
『・・・ううん。いい。』

俺は涙をぬぐって比呂をみた。

『いい。うれしい。・・一生懸命都合をつけて、会いにきてくれたのはわかってる。
俺・・・・すごく心細かった・・。ほんとにずっと俺・・比呂のおかげで安心してこれたんだよね。』
『・・・・。』
『こんな風に会いにきてくれたことが、これからの俺をずっと支えてくれる。
俺・・がんばるよ。好きな人に、こんなに大切にしてもらえるんだから・・がんばれる・・。
ほんとに夢みたいだ・・・うそみたいだ・・。すごくうれしい・・・サイコー・・。』

せっかくぬぐった涙がまた溢れて、口のなかに押し込んだご飯は涙の味がした。


比呂が10時くらいの新幹線に乗らないといけないから飯を食ってすぐに店を出る。
切符売り場で比呂が俺の分も乗車券を買ってくれたから
『いいよ!自分で出す。』っていったんだけど、比呂は『いい。』って一言、それだけだった。
『金使わせた。ごめんな。』とかいうから、今度は俺が『いい。』っていった。

別れ際。すごくさみしくて・・どっちが先に帰るかでもめた。っていうか・・・俺んち方への新幹線は
結構でてんだけど、比呂んちに帰る方は本数少なくて、俺がその辺は譲らなかった。
『見送らせて?お願いだから・・。』って涙目で頼んだら、最後にはちゃんと納得してくれた。
ホームで比呂を見送る。こんなに苦しくてこんなに悲しい。
ドアが閉まって、もう声は聞えない。泣きっぱなしの俺を見てた比呂の頬に、涙が伝った。

口の動きで『那央。』っていってくれてるのがわかる。頑張ってここまできてくれた比呂。
俺は『比呂っ。』って呼んだ。声を出して。比呂の目をみて名前を呼んだ。

来た道を帰ればいい。それだけなのに、気持ちが重かった。会えたのはうれしい。
だけど・・あたたかかった心が急激に冷える感覚が、なんともいえないつらさだった。
心に溜め込んだぬくもりは俺をあたためてくれるけど・・
さっきまで俺のそばには、比呂の実体温が存在してて・・

すこしだけ手をつないだとき・・体が浮きそうになるくらい、心の底から安心をしたんだよ。

新横浜にさっき着いて、『ゆっくり車で店に戻る。』って比呂から電話があって、
俺はその頃には家のそばまできていた。新横浜から・・時間すごいかかるって言ってたから
だんだん心配になっちゃって『夜道の運転、大丈夫?』ってきいたら
『・・大丈夫だよー。那央に会えたしっ。俺、今、めちゃくちゃ顔が勝手に笑う。 』とかいうんだよ。

『会いに行ってよかったー・・。ギリまですっげー悩んだんだけど
秋山さんが静岡戻ったら、マジで俺、店を開けらんなくなるじゃん。
だから、今しかないって思ったら、もーーー一瞬もガマンできねえの。
でも、ほんとに会いに行ってよかったー・・。きてくれてありがとー。那央。』

夜道、街灯のした。俺の影はひとつ。なのにちゃんとそばに比呂がいる気がした。
電話の向こう。周りは静かだ。車の中にいるんだろうけど、エンジン音はきこえない。
俺が泣いて喋れなくなったら、比呂が俺の名前をまた呼んで
『家に着いたら電話して。高速とか乗らないからさ、ちゃんと出るから。車止める分、時間かかるけど。』
っていった。

それからしばらくトボトボ歩いて、部屋の鍵を開けたら、隣の部屋のドアが開いて
『おかえりー・・。』ってせおなおが顔を出した。
『・・ただいま』って俺が言うと『おやすみ。』っていって、さっさと顔を引っ込めてドア閉めちゃったあいつ。

俺も部屋に入って、鍵を閉めて、肌寒いから暖房を入れて、比呂に電話した。
少しして電話に出る比呂。カーステの音だ。まだ車なんだよな。

『今ついたよ。』
『ちゃんと部屋はいった?』
『うん。入ってかぎもかけたよ。』
『えらい。』
『えへ。』
『俺も、もうちょいでつくよ。新しい道ができてさ、遠回りしないですむようになったから。』
『へえ〜・・。でも、ついたら電話してね。』
『・・・いいよー。遅くなるし。』
『でも俺、比呂が無事つくか心配でどうせ眠れないよ?』
『・・じゃあ・・ソッコー帰って、電話する。』
『あほー!安全運転第一でしょーーー!!!』
『・・・・わかった。あと30分くらいだと思うから。すぐ電話する。じゃね。』


電話を切って時計を見る。一時過ぎかな・・・。店に着くの。

やっぱ、遠いんだなー・・・。だけど・・・会いにきてくれた。うれしかった・・・。

俺が朝、あんなことをいったから・・会いにきてくれたのかなあ・・。だけど、ほんと・・なんていうんだろ・・
見送った直後は悲しくて震えたけど・・比呂が来てくれた事が、俺に沢山勇気をくれた気がする。

ちゃんと会えた。ここのとこの俺は、比呂に二度と会えないような錯覚に陥って
ほんとにしんどかったりしたんだ・・。会えた・・。

会えた会えた会えた!!!!

比呂が無事に着くように、夜空に向かって祈る。
今夜はあと一回、確実に比呂と話ができるんだなあ・・・。


声が聞けるんだなあ・・・・。


うれしいなあ・・・・。


2009/04/04(土) 00:39:42
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