テスト三日めおわり さーて、明日でテスト終わりだ。今日もいっちょ勉強頑張るかねー。 昨日もテストで半日だった。少しは比呂と遊べるかなーと思ったけど 火曜(つまりは今日)に俺の大嫌いな製図のテストがあったから 泣く泣く家に帰って、勉強したー・・・。夜、比呂から電話があって 『勉強頑張ってるー?』って言われた。『愛してるよ〜!!』って答えたら はははって笑われた。笑い声がキュートですね〜。 さもない話して電話切って、それから1時間勉強して ぐっすり寝たら夢に比呂が出てきた。 俺、夢で比呂に言葉攻めされてた・・。うう・・・・。 秘めたる俺の性癖が・・・(内緒)で、ドキドキの朝フル勃ちで、夢を頭でリピートして一発抜き したくして学校にいったら、比呂が後から教室に入ってきた。 『みやげー。』 菓子の入った箱を教卓の上であける比呂。 クラスのヤツとか廊下を通りかかったヤツが群がって一気になくなった。 なんか妙にうまい魚の形のクッキーだったんだけど・・・。 空き箱片付けてる比呂に『どこかいったの?』ってきいたら 『水族館。おじちゃんと行った。後で話す。』って言って笑ったんだ。 午前中最後の製図のテストが終わって、安心してたら比呂が寄ってきて 『飯くいにいかねえ?』って誘ってくれたから、俺は全身笑顔で後についていく。 約束があるから・・・とかいって、手近な喫茶店に入る。 カレーのいい匂いがしたから、2人でシーフードカレーを頼んだ。 運ばれてきた水にはレモンが浮かんでて、その黄色がとても綺麗だった。 それに見とれてたら、比呂が静かに話をし始めたんだ。 『日曜に・・おじちゃんが帰ってきてさ・・・。 一日早いからどうしたのかなって思ってたんだけど・・・ 昨日の朝にさ、・・・学校終わったら出かけようとかいわれたんだ。 テスト中なの知ってるのに、そんなこと言うのおかしいなって思って 俺、身構えてたんだけど、帰ったら車のエンジンかけてあって』 『うん。』 『玄関開けたらさ、おじちゃん飛び出てきてさー・・ いくぞ!とかいうの。だから俺、どこに?ってきいたんだ。』 『うん。』 『そしたら、江ノ島水族館とかいうんだよ。』 『え?』 『浅井とかといったじゃん・・・。あそこ。』 ・・・江ノ島の水族館には、浅井が転校する前に、仲いいやつらでいったとこ。 3月のはじめ頃だったとおもう・・。 俺にとってもとても思い出深く、あのときのことを思い出すと 楽しいのと悲しいのと色々な感情が混ざって、涙がぼた落ちしそうになる。 でもなんでそんなとこに、おじちゃんは比呂を連れて行こうとしたんだろう・・・・。 比呂は、レモンと氷の入ったコップを持ち、からん・・・とまわす。 氷とガラスが静かにぶつかり合う音が、比呂にとてもよく似合っていた。 『・・・前に・・・友達といって楽しかったってことを・・・ほら・・停学したとき入院したろ?俺』 『・・・・うん。』 ・・俺のために喧嘩してくれた時の事ね。 『そんとき、担当医の先生に話したのを、おじちゃんきいてたみたくて。』 『・・・・・。』 『テスト中だけど、行こうって言われたんだ。比呂と2人で俺は行きたいんだっていわれて。』 『・・・・・。』 『だから・・うん・・。行ってきた。』 『・・・・・・どうだった?』 比呂は、頬杖ついて、窓の外を見ながら、少し目を潤ませて 『・・・・。』無言で頷いて目を閉じた。 ・・・・比呂・・・・。 静かに目を開けた比呂が、窓の外をもう一回見た後、 頬杖してた手で目をこすって、俺を見て笑ってくれたんだ・・・。 『おじちゃん・・弁当つくってくれててさ・・すっげーの・・むちゃくちゃで・・・。』 『・・・・・。』 『あの人カメラマンのくせに、そのへんのセンスはおかしいみたくて・・・ むちゃくちゃすぎて受けたんだけど・・・食ったらなんか・・やっぱうれしくて。』 『・・・・うん。』 『イルカのショーも、隣に座ってみた。どの水槽の前でも、一緒に並んで見た。 時々おじちゃんが、俺の写真を撮ってたりして、なんか変な感じで。』 『・・・・・。』 『くらげの水槽の前に行ったら・・・・。』 『・・・・・・。』 『駄目な親だったこと、ごめん・・・っていわれた。』 『・・・・・・・・・。』 ・・・・・。 シーフードカレーが運ばれてきた。 固まってる俺の手にスプーンを持たせてくれる比呂。 『俺・・何も言えなくなっちゃって、おじちゃんを見るのも怖くてさ・・ ずっとくらげみてたんだ。返事もしないで。 心の中で・・おっくんの名前呼んで、勘弁して勘弁して勘弁してー・・って もうほんと・・どうしていいのかわかんないほど動揺しちゃってさ。』 『・・うん。』 『・・さやが・・さやと、おばちゃんが戻る前に、俺と2人で親子らしい場所にいって 遊んでみたかったって・・テスト中だけど、今しかないって思ったから・・・っていわれた。』 『・・・・・・。』 『今更遅いと思うけど、でも、遅くても何でも、今、・・比呂が・・まだ子供のうちに 子供らしいところにつれてきてあげたかったって・・・。』 『・・・。』 『今更・・っていってるうちに、比呂はこんなに大きくなっちゃったからって。』 『・・・・・。』 自分もスプーンをとり、カレーをつつき始める比呂。 うつむいて、カレー見ながら、比呂がふふっ・・・ってわらった。 『俺は、なにも気持ちの準備してなくてさ・・・・つか正直・・ 学校卒業したら家を出て行けって言われると思って・・・ だから、言われた言葉に対しての、気構えが何も出来てなくてさ・・・』 『うん・・・。』 『なんなんだろう・・・・嬉しいのと・・・ほっとしたのと・・なんか色々・・あれで・・ ぼっろ泣きしちゃったのね。ちょーーーーーーはっずかしいんだけど・・。』 『・・・・・。』 目じりに浮かんだ涙を、親指の関節で拭った比呂。 またふふっと笑って、今度は俺を見て・・そんで優しく笑ってくれた。 『なんかさー・・そしたら、俺・・・幼稚園くらいのときの感覚にもどっちゃって 遊園地いきたいとかー・・バッティングセンターいきたいとか・・・ ボーリングいきたいとか・・・そういうの、勝手に口が喋るんだよ。怖いだろ?』 『・・ははっ・・・。』 『心の中では自分のそういうのに、おいおいおいおい・・って突っ込んでるんだけど でも止まんねーのね。なんでかさ・・・。』 『ふふっ・・・。』 『・・・・おじちゃん・・、すげえ喜んでくれて・・・水族館帰りにバッティングセンターに寄って・・』 『・・・・・。』 比呂は、唇を噛み締めて、・・言った。 『父さんとバッティングセンター行くの、夢だったから、すげえ・・・うれしかった。』 ・・・・・うん・・・。・・・・・・うん。 ふーっと息を吐いて、うつむく比呂。下がった前髪の向こうで、涙がきらって落ちたのが見える。 しばらく黙って、俺と比呂。カレーをちまちま食っていた。 少ししたら比呂がカレーくいながら、『今日、遊園地いってくる』っていった。 そっか。 『さっきおじちゃんに電話して、雨降ってきたけどどうする?ってきいたら、 ちょっと一旦電話切れとか言われてさ、何事かと思ったんだけど そしたらすぐにデコメがきたの。こじまよしおのやつ・・。 そんなの関係ねーとか・・。すっげうけるんだけど!無理やり感が。』 『あははは。』 ・・・誰にも言わないで。 誰となんでわざわざテスト期間中に水族館に行ったのかなんて 誰にも言わないで・・・俺だけにこうやって打ち明けてくれた比呂。 きっとすごく大切な転換期になったんだろうな・・・。 比呂が歩む道は少しだけ、角度を変えて違う未来に進み始めたのかもしれない。 おじちゃんに今まで以上に頼れるようになって、 子供時代のやり直しもできるだろう・・・。よかったね。比呂。 おじちゃんが、思い切って比呂を水族館に連れて行ってくれなかったら 比呂はこんなに幸せな思い出を、手に入れることが出来なかった。 必死に比呂の父親になろうと頑張る紺野さんを、俺は心の底から尊敬する。 遠慮に縛られて動けないままじゃ、駄目なんだ。やっぱ一歩前に進まないと。 今頃比呂はおじちゃんと、遊園地にいって何をしてるのかな・・・。 186センチもあるでかい息子と2人で、おじちゃんは何を話すんだろう。 さっき、俺の父ちゃんが帰ってきて、あんまりに早いから何事かと思って 『風邪でもひいたのかよ。』っていったら、『今から忘年会なんだよ。』といわれた。 だから・・『とーちゃん・・・今度遊園地つれていってくれよ。』ってねだってみた。 一瞬黙った父ちゃんが、ふってわらって、『いいよ。そのうちな。』っていってくれたよ。 あーあ。ピカリが丘は今日も、激さむですよ−。 風呂でも入って、あったまって、勉強して比呂に電話しようかなー。 2007/12/11(火) 17:29:08 |
|||
NEXT |