雨が冷たい 小沢に怒られた。 午前中比呂は、バイトだったみたいで・・午後は俺が塾でさ・・。 8時までだったんだけど、比呂は午後からおぎやんと遊ぶ約束してたみたくて・・・。 だから、せっかく比呂に『8時から遊ぶ?』って誘ってもらったのに、 断っちゃったの。朝イチ電話かかってきたときに。いつもの通りの、いじけ虫で。 『塾、結構大変なんだ。だから、終わった後遊ぶのは無理。』って。 そしたら比呂、ちょっと黙った後 『わかった。じゃあ、またゆっくりあえる日に。』って言うのね。うん。普通に。そんで 『じゃ、ごめんな。また電話する。塾頑張れよ。』って、・・・うん。 俺、何でそんなこといったかって言うと、やっぱ悔しかったからだとおもう。 比呂の午前バイトは大体12時か1時あがりだから 塾が始まるまでの30分とかでもいいから、会いたがってほしかったのね。 なのに、比呂は最初から、塾の後に会おうって誘ってきたじゃん。 頑張れば、塾前に会えるのに・・それでなおかつ、塾あとも誘ってもらえるくらい 俺に・・・会いたがって欲しかったの。比呂に。 比呂が、俺に会えないのに、おぎやんと遊んで笑ってるなんて・・嫌だったの。 俺に会えないなら、寂しがってほしいし、家でぐずぐず落ち込んでほしい。 勝手かもしれないけど、でもそうおもっちゃうんだもん。しょーがないじゃん・・。ねえ・・。 塾終わったあと、塾前のサニマでココア飲んでぼーっとしてたら、デート帰りの小沢に会った。 俺の様子を見て、なんかおもったのか、彼女と店前でわかれて、小沢だけが俺のとこに来た。 『喧嘩でもしたの?』第一声がそれだった。 『よっぽど酷い顔してる?俺。』 『ひどいねー。どうしたんだよ。』 『・・・・・・。』 『今日比呂と会ったよ。3時くらいに。坂口とおぎやんと、なんでかしらんけど、ヒノエもいた。』 『・・・・・・あ、そう。』 俺がいなくたって、楽しいんだ。比呂。 小沢が、レジの方に向かって、ちょっとしたらパフェをもってきて隣にすわる。 『おごるよ。』 『いいよ。』 『比呂以外のヤツにはおごられたくねえの?』 『・・・・・・・。』 彼女といちゃこいた後のお前に、そんなえらそうなこと言われたかねえよ。 小沢が外を見て、携帯をかけた。俺はドキッとする。 だけど小沢が電話かけた先は、小沢の自宅だったようで、俺は思わずテーブルに突っ伏す。 『期待したね、お前。 』思い切りつかれた。・・図星。 観念した俺は事情を説明した。そして相変わらず小沢に呆れられる。 『ユッキーはバカだね。もう最低だね。会いたいなら素直になりなよ。』 『・・・・友達と浮かれて遊んでる比呂に、会いたいなんていえないよ。』 『ほーら、また自虐的なものの言い方する。お前さ、自覚ないかもしれないけど、 すげえそれって、比呂のことバカにしてるように聞こえるよ?』 『は?そんなわけねえじゃん。比呂のこと大好きだもん。馬鹿にしてるわけじゃねえよ。』 『・・・・だから、自覚できてねえっていうの。』 『・・・・・。』 小沢がスプーンでクリームをすくうと、俺の口元に差し出した。俺は、それをぱくっと食べた。 すごく甘くて・・・うん。小沢の顔見たら、あいつ困ったような顔してんの。 『会いたいなら電話すればいいんじゃないの?』 『・・・・・。 』 『友達と遊んでたって、すぐにきてくれたんじゃないの?比呂。』 『でも、比呂は、友達の方が大事っていうようなヤツじゃん。』 『は?』 『俺にはいつも、「潤也との約束優先しろ」っていうもん。』 『・・・・・あほ。』 『え?』 俺は小沢に、溜息つかれた。 『そう言った比呂の気持ちと、お前のいじけたくだらない気持ちを一緒にするな。』 『・・・・・・。』 『比呂は、お前を試すためにそういうことを言ってるわけじゃないでしょ。』 『・・・・・。』 小沢は自分のコーヒーをのむ。 『・・お前の言ってることは、ただのわがままだぜ?振り回して振り回して そんで試して・・そういうので安心してるんだろ。いい加減卒業しなよ。』 『・・・・・。』 『ユッキーはかわいいよ。俺の彼女が、ユッキーみたいなやきもち焼いてくれたら・・ かわいいなっておもってる、いつも。でもそれは、比呂から聞くユッキーのやきもちの話のことね。』 『・・・なにそれ。』 『すぐいじけてかわいいんだよーとか、風邪ひくと弱気になってかわいいとか・・・ おデートのとき、隣のテーブルのカップルと張り合おうとしてるとか そういうのがかわいいんだって・・比呂はよくお前の話をするから。あいつ。』 『・・・。』 『でも、それは比呂が、すごい寛大にお前の事を受け止めてるからじゃん。 実際こうやって、お前のそういう気持ちを聞くと、すげえ嫌な気分になるな〜。』 『・・・・・・。』 『なおせって何度もいってんじゃん。お前、本当に比呂のこと好きなのか?』 『・・・好きだよ・・・。』 言ったはいいけど、だんだん自信がなくなってくる。 あんなに満たしてくれる比呂を、すぐに試そうとする俺・・・。 もしかしたら、俺が比呂に対して抱いている気持ちは恋じゃないのかな・・・。 すげえ悲しい気分になってたら、携帯が鳴った。俺のヤツ。 着歌ですぐに相手がわかる。比呂だった。 『もしもし・・』 『あ?那央?俺ー。お前、なにしてんの?』 『・・・なにもしてないよー。』 『・・・。』 『・・・・。』 『・・・・・・なんかあったのか?』 ・・・涙が出た。 俺は比呂にいう。『会いたいよ・・・。』 絶対無理だとおもったのに、どうしても会いたくて、小沢が背中擦ってくれたから 勇気も出た。だから言った。あいたかったから。 そしたら比呂が、なんかすごいかすれた声で 『会いたいよ?俺も。』っていうんだ。 何度も聞いた、その言葉。でも、いつも新しい気持ちをこめてくれている。 『どこにいんの?』 『・・塾前のサニマ・・・・』 『・・一人?』 『・・小沢といる。』 『じゃ、小沢にかわって?』 って言われたから、俺は携帯を小沢に渡して、テーブルに突っ伏して声を殺して泣いていた。 小沢が比呂と話してて、電話をきって俺に渡す。 『ユッキー。』俺の頭を擦る小沢。俺は、顔を上げる。 『・・・比呂ね、今、隣の駅にいるんだって。』 『・・・・え?』 『カラオケいってたみたい。そんでさ、寒いからみんなで電車でかえろうとしたんだけど 20分くらい先まで電車ないみたいなんだ。』 『・・・・・。』 『だから、走って帰るから、家に戻っててって。会えるかわかんないけど、電話するからって。』 『・・・・・・。』 『悪いけど、心配だから、家まで送ってやってくれる?って言われたよ。』 小沢は殆んどとけてどろどろになったパフェを、ぐいっと飲んで立ち上がった。 『ほら、帰ろう。比呂が心配する。』時計を見たら8時半をとっくにまわってる。 比呂の誘いを素直に受けてれば、今頃一緒にいられたんだな・・・。 『小沢・・・。』 『ん?』 『俺・・・駄目駄目だよね・・・まじで・・・。』 立ち上がった小沢は、俺を見て、またイスに座る。 『・・・でもさ・・治らないんだ・・。全然・・・。』 『・・・・・。』 あたまをぽんっとたたかれる。しばらくお互い黙っていた。 ちょっとしたら、小沢が、ふふっとわらいながらいう。 『でも、そういうとこもかわいいんだって。比呂いわくね。』 『・・・・。』 『考えてみたら、比呂はそう言うお前も全部まとめて 大事に大事にしてるんだよな。 俺こそ余計なこと言ったのかもな。ごめんな。』 『・・・・・・。』 俺が見たら小沢は、困ったような笑い顔で 『でも・・・俺、一応お前の親友だから、俺が嫌だなと思ったことは 言うよ?余計なことかもだけど。』 『・・・・・。』 『お似合いだと思うからさ、ずっと仲良くしてほしいしさ・・・。』 『・・・・・・うん。』 『・・・やばい。結構時間たっちゃったね。いこうか。』 『ああ・・。ありがと。』 コーヒーのコップとかをレジに戻して店を出たら、雨がしとしとと降っていた。 『雨だ・・・・・。』 傘を持たない俺たちは、サニマのビニールかさを買う。 そして、家の方に向かおうとした時、気がついたんだ。 比呂。雨の中を走ってくるのかなって・・・・・。 気がついちゃったら、もう俺パニック。 こんなに寒い日に、雨にぬれながら走ったりしたら、風邪ひいちゃうっていうか死んじゃうじゃん!!! 駅前に自転車とめてるんだったら、駅に行ったほうが早く会えるかもしれないって思って 俺、勝手に駅のほうにいこうとした。そしたら小沢に止められる。 『電話しなよ、電話。』 『え?』 『さっきの電話から結構時間たったぜ?10分以上たっただろ。』 『ああ・・。』 『比呂、近道とか詳しいから、早くこっちにつくかもしれないし。』 そういわれて、俺は言われるがままに比呂に電話をしようと携帯を出した。 そしたら背後から、ガバっと抱きつかれた。 ・・・比呂だったんだ。 雨でびしょぬれで、はあはあいってて、俺に抱きついたら、そのまま座り込んじゃって 小沢が急いで傘をさしたんだけど、仕草で大丈夫っていってそんで、俺を見たの。 『・・・・・・何で元気・・・ねえんだよお前。』 ごめんなさい。俺がバカだった。バカで最低で、死ぬ価値すらない。 ぼろぼろ泣いたら、比呂が立ち上がって『あれ?潤也、彼女は?』って話しだす。 小沢と話してる間、ずっと俺の手をギュッと握り締める比呂。 冷たくて震える手。Gパンの膝下とスニーカーが泥だらけだった。 どこを通ってここまできたんだろう。 サニマ前で小沢と別れて、そのまま俺を家まで送ってくれる比呂。 すごく寒そう。あたりまえだ。自転車は今日は乗ってこなかったらしい。 『死なないでよ?』『なんでだよ?』 『凍死しないの?』 『は?死なねえし。つか凍死してほしいわけ?お前。』『してほしくないよ、バカ!』 『バカはおまえだろ!』『・・・・。 』 『・・・寒くないよ。全速力で走ってきたんだから。』『・・・・。』 ばか・・。歯がガチガチいってるじゃん・・・・。 『比呂んちに先に行こう?』『は?』 『俺んちはそのあとでいい。』『駄目駄目。』 『・・・なんでそんな無理するの?お前いつも無理しすぎなんだよっ。』『・・・・。』 比呂が立ち止まった。 『無理させてるのは誰だよ。お前じゃねえの?違う?』 『・・・・。』 『俺に無理をさせるんだったら、それを受け入れるくらいの覚悟しろよ。』 『・・・・・。』 『・・・・無理じゃねえよ・・。お前がそれで救われるなら、全然むりじゃねえんだよ。 つか、無理してるなんて言わないでくれよ。俺、何一つ報われねえじゃねえかよ。』 『・・・・。』 比呂が俺の手を痛いほど強く握って、ずんずん歩く。 『早く歩けよ。立ち止まったら寒い。』そういう比呂。 ・・・胸の奥がずきずき痛い。比呂・・怒ってる。 俺は比呂に傘を差し出した。でもそれをぐいっと比呂が手でおしかえす。 『お前がぬれたら意味ねえし。』・・・・比呂が怒ると俺、魂ごと萎縮してしまう。 比呂は俺の手を相変わらずぎゅっとにぎって、暗い道を歩いていく。あと5分もすれば俺の家についちゃう。 『・・・ねえ。』 強い口調で比呂に話しかけられる。俺は返事もできずに、比呂の顔を見た。 雨にぬれて髪がぺしゃっとしてて、吐く息がすごく白くって。 『・・しょぼくれてる理由は知らないけど、会いたがってくれてたなら笑った顔の一つも見せてくれよ。 笑えないなら理由を言えよ。どっちかにして。ほんとに。』 『・・・・・。』 『いつも無理しすぎとか・・そんなわけのわかんないことで俺が怒られんの?まじ腹たつわ。』 『・・・・だって・・。』 『だってじゃないっ。』 ぴしゃりといわれて、俺は立ち止まった。比呂が俺の手を離す。比呂が静かに言った。 『家、見えた。ここから一人で帰りな。』『でも・・・。』 『俺、こんな格好でお前の家の人に会えないよ』『・・・・・比呂。』 比呂は俺の頬を撫でてくれた。『後で電話する。だから帰りな?』 ・・・別れ際、優しくしてくれる比呂。 なんでこんなふうになっちゃったんだろう・・今日の俺。 比呂のいうこときいて、家に帰り、30分位したら比呂から電話がかかってきた。 『風呂はいってたら遅くなったー。わりい!』 電話の声は、すごく元気な声。無理しないでって言いかけてやめた。さっき怒られたばっかだもん。 『比呂、今日、何して遊んだの?』『は?俺?俺は今日はねー。非常に濃厚な時間を過ごしたよー。』 『ほんとー?どんなふうに?』『ははっ。ヒノエがバカでさー。』 比呂は普通に話をする。俺がしょぼくれてた理由を、問いただすようなこともなく。 ・・・言わないことは、触れてほしくないこと。そう気づかってくれたのかもしれない。 楽しい話ばかりしてくれる比呂。電話のきりぎわに 『明日もバイトなんだよね。無理しないでね。』っていったら 『ああ・・うん・・。っていうかなにそれ。や。でもありがとう。うん。』って言って笑ってくれた。 電話の間、時々クシュンとくしゃみをしてたのが気になったから 明日朝イチ電話してみよう。風邪とかだったら大変だし。 小沢も比呂も、一生懸命に俺をしかってくれる。 反省はしてるんだけど、なかなかなおせなくって2人には申し訳なく思う。 ごめんね。 2007/12/28(金) 23:11:03 |
|||
BACK |