すき

おめでとう。昨日の俺。すっごい幸せでよかったね。

比呂が、プラネタリウムに連れて行ってくれた。
星を見ながら、ずっと手を握って、隣にいる比呂を想っていた。

全然予想してなかったの。プラネタリウムなんて。だから、心の準備ができてなくて、
まるで初めてのデートのように、なんだかすごくドキドキした。

そのあとに、プラネタリウムのすぐそばの静かなカフェでご飯を食べることにしたのね。
野菜とシーフードのグリルに、雑穀パンときのこポタージュ。
『見ろよ、那央。ケーキが超ファンシー。』とかいって
比呂がケーキも頼んでくれた。すっごいキュートなビジュアルのヤツで照れた。
食後の飲み物はお互いコーヒーで、食事の時は黒豆茶にした。

『ねえ・・・。』『ん?』
『プラネタリウム・・・なんで?』『え?』
『なんで、つれてきてくれたの?』『・・・』

先に来た黒豆茶を飲みながら、俺は比呂に問いかけた。
比呂は、少しだけ考えた後、お茶のはいったカップを持って
『お前とゆっくりしたくって』それだけいって、お茶を一口のんだ。

『いつもゆっくりしてるじゃん』俺がいったら、比呂が笑う。俺も笑う。
『・・・まあ、そうだけど。』比呂の声は、去年よりちょっとだけ低くなった。

料理がきた。綺麗な色。おいしそう。俺は、木でできた箸を手にする。
いただきますをしてから、一口一口、噛み締めてたべる。
比呂は、きのこポタージュを、木のスプーンでかき混ぜながら
静かに話をつづけてくれた。

『那央ってさ、かわいいよな。』
『?!・・なにいきなり。』
『・・・・昨夜、俺、夢で一生懸命色々なこと考えてたの。』
『夢の中で?』
『うん。一人で真っ白な場所にいて、色々考えてんの。』
『へえ・・・・。』
『そんで、那央のことを、考えてんのね。』
『・・・・・・俺の事?』
『うん。』

ポタージュを一口飲むと比呂は、スプーンを置いて、頬杖をついた。

『今までの思い出って、どれもこれも本当のものじゃん。
それの全部でお前がかわいいって、すげえとおもわねえ?』
『は?』いきなりそんなこと言われててれる。
真っ赤になりながら俺は『なにいってんのー!!!』といって、野菜を頬ばった。
・・・たまに素でこういういこというから、比呂って困る。

あいかわらず頬杖ついたままの俺の彼。・・・かわいい顔だな。
でも俺の比呂に対する印象は、めちゃくちゃ男の子って感じなんだよね。
かっこいいんだ。やっぱ。強気でさ、いつも輪の中の中心で
いろいろなことも知ってるし、自分の影すらも踏み台にして
俺を引っ張っていってくれる後姿は、ほんとにかっこいい。

俺、くすってわらう。手に負えない恋愛ボケだな。
俺らを取り巻く空気がちょうど最適な幸せ濃度。
濃すぎるわけでもなく、薄すぎて不安になるわけでもなく
ちょうどいいかんじの、ほっとする幸せな感じ。

こんな感じの幸せが心地いいって思えるようになったのは
きっと俺、比呂の恋人であることにやっと慣れてきたからなんだろうね。

最近は、あまり不安はない。

この先、ずっと比呂と一緒にいられるような錯覚にまで陥る。
俺は老けたくないけど、30歳とかになった比呂を思い描いたら
やっぱかっこいいんだろうなーっておもう。あー、俺、これ以上、年とりたくない。
ずっと17歳のままで、比呂に愛され続けたいよ。

くだらない話しながら飯をくって、ケーキがきた。飲み物も。
俺にだけファンシーちっくなケーキ。
苺が沢山のってたから、フォークにさして比呂に一個あげる。
美味しそうに食べた時に比呂の携帯のバイブがぶるぶる鳴った。

メールだったようで、相手は小沢。休み時間に携帯写真とってもらったんだ。
それを送ってきてくれたんだって。
比呂が携帯を、幸せそうに笑いながらじっとみる。
『あいつって、写真とるのうまいよね。』そういって、俺にも見せてくれた。
『空間の切り取り方が上手なんだよね、あいつ。』だって。ふふ。

小沢はね、比呂の隠し撮り歴1年以上のプロだからね。
俺ら2人の事を撮るのが、上手なんだよ。お前には内緒だけどね。

ケーキは、甘酸っぱいのと、すっごい濃厚系クリーミー。
うっまかったー。一気に食った。最高だった。おなかいっぱいになったぜ。

店を出て、外は寒くて、自転車押して2人で歩いた。時計はもうすぐ9時になる。
部活が筋トレだけだったから、早めに学校でれたけど、でもやっぱ時間足りない。
俺が一番欲しいのは時間だ。

『ねえ比呂?』
歩きながら話す。比呂は黙ったまま、俺の方を見る。
顔つきが、すっごくすっごく優しい。やっばいな。まいったな。
口が勝手に変な形になった。好きっ言おうと思っただけなのに。

涙がでる。感動しちゃった。『好き』っていう単語に感動しちゃった。
比呂に言われたわけじゃないし、俺が口にしたわけじゃないのに
頭に浮かんだだけで、じーんときちゃって、ぽろっとなみだがでた。

『好き』っていう気持ちは知ってる。
甘いものが好き。家族が好き。小沢が好き。勉強が好き。
でもたった一個の『好き』だけは、ちょっと違う『好き』なんだ。

比呂が好き。すごく大好き。大好きだから、泣いちゃってごめんね。 

比呂が泣く俺を、優しい顔で黙ってみている。あー、駄目だ。今、時間がとまれ。
俺と比呂が目が合っている今、時間が止まってほしいよ。
そしたら俺、ずっとずっと比呂と目が合ったままでいられるのに。
先の未来を全て放棄すれば、今この十数秒を永遠に繰り返せるって言うんなら
俺はきっと、全てを捨てられる。・・・・そんくらい幸せだ。

『那央。』
比呂のかすれ声。小さな声で話すときの比呂は、
囁くその声が喉ぼとけで押しつぶされるような風にかすれる。
それがすきなの。すごくすきなんだ。
もう好きしか浮かんでこないよ。

あれだけ大きな恋心をもって、比呂に片想いしていたのに、
がっかりさせられたことがないよ。俺にとって完璧すぎて、逆に怖い。
返事もせずに比呂の腕を掴む。それで泣く。声も出さずに泣く。
俺の涙なんか、もう何十回目で、すっかり安っぽくなっちゃっただろうけど
でも泣くなら比呂の隣でがいいよ。ずっとずっと一緒にいたいよ。


比呂が、黙って俺の背中を擦る。そんでいうのね。
『去年も泣いてたよな。お前。』って。

『あんなに泣かれて、すげえびびったけど、それがずっと一年間だぜ。』
『・・・・・。』
『ずっと泣いてるし、ずっとかわいいし、どーすんの?』
『しらないよっ!ばか!』

俺は、めちゃくちゃ泣きながら比呂にだきついた。
抱きつきながら、急に頭が冷静になっちゃって、
自分の恥ずかしい取り乱しっぷりに、舌噛んで死にたくなってくる。

比呂はふふんとわらって、俺を抱きしめる。
『・・・・・お前・・本当によく俺をバカバカいうよな。そこまでバカか?俺は!』


・・・ははっ。思わず噴出した。
バカって言葉すら愛情表現なんだもんね。うけるらー。
比呂もいってよー。一回くらいは真剣な顔で『愛してるよ』ってさ。
だって記念日なんだから!


結局、そのまま2人で悪口?言い合って、家に向かって歩いた。

『ばーか。』
『泣き虫。』
『にんじんぎらい!』
『スパゲッティーくるくるするの苦手〜』
『なにそれっ〈怒)!!』
『あれ?俺の勝ち?』

あー、くそ!あしらわれてる!

『変態スケベの人妻オタクーー!!エロ本全部捨てちまえ!』


『おっ前それは聖域でしょー!!』




いみわかんないし!あっほーー!!!


あーあ。あはは。結局俺たち、こんな風なんだもんね。
俺が女だったらさ、もっと恋愛モードのままさよならできるのかな。
比呂が俺のほっぺを掴んで、びろーんとのばすから、変顔になる俺。
無理やり横に伸ばされた口から、ベロだして『べー!』ってしたら、
比呂がそのままキスをしてきた。

・・・・・・あー。一年間の結果がこれなのかなー。
こんな風な恋愛ー・・。理想の上のさらに上を行く幸せだ。

すっごい楽しくて、すっごいときめいて、すっごい気持ちよくてすっごく切ない。
俺を浮かせて、自由に遊ばせて、振り回すだけ振り回して
でもたまにギュッと強く縛り付ける比呂の恋の仕方は基本変わらない。
きっとこれが、比呂の本質なんだろうな。

抱きしめられて、吐く息が白くて、お互いの呼吸が目に見える冬に
一年を越えられたことが、とても素敵なことのように思えた。
生きている俺たちが、今、呼吸をしていて
冷たい空気を頬で感じて、触れ合う体で大好きな人の体温を感じる

俺たちは、生きているから、体も吐息もあたたかくて
それは恋も同じことで、恋心が生きているからこんなにあたたかいんだろうね

守ろうね。俺と比呂とで。恋心が死なないように守ろうね。
すっごくしあわせな1月10日だった。

そして、一日過ぎた今日も、やっぱすっごい幸せだ。
いえーい!!









2008/01/11(金) 16:26:51
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