がんばりやさん 昨日は、俺も比呂もバイトだった。 比呂は、朝の仕入れからはいって2時まで。俺は、2時から5時まで。 入れ違いだったけど、仕事中比呂を少しだけ見れて、うれしかった。 『那央、今日ひま?』 『うん。大丈夫。』 『夕飯食いにいく?』 『いく!いく!!』 『じゃ、バイト終わったら電話して。家にいるから。』 『うん!』 俺の頭をくしゃくしゃ撫でてから、階段をあがっていく比呂の背中。 やっぱちょっと、お疲れ気味?・・・よいしょ・・よいしょ・・ってかんじであがってく。 だけど、一昨日、お父さんの話してくれたのに、その割には普通だ。変ではない。 安心したような、どこかひっかかるような、ごちゃ混ぜな気分になったけど そんなときには、指輪を見る。 俺が比呂を支えるんだよ。なんかあったときには。 バイト中に、坂口が遊びに来た。 『あっれー。黒い子どうした?』っていうから『家に帰った。』って俺は言った。 『なにかあったの?』ってきく坂口。『別に?』といったら安心してた。 考えてみたらね。『家にいるから電話して。』とか言われることって、実はあんまなかったのね。 この頃の比呂は、時間があると、とりあえず家に寄って、さやくんと仲良くあそんでるみたい。 比呂がさやくんが一緒にいると、こっちまで顔が微笑んでしまう。 ほっぺにちゅーとかすりすりしたり、抱っこする時の顔とかが、すっごい幸せそうなんだもん。 前に、おばちゃんが妊娠してすぐの頃、比呂がすっごい鬱っぽくなったときがあって、 そのとき比呂は、『おじちゃんたちを、おなかの子にとられた気がした。』みたいなこといってたけど、 なんか、今度は俺のほうが、さやくんに比呂をとられたみたいだよー・・・。 赤ちゃん相手に、本気嫉妬だ!坂口は比呂に用事があったようで、いないとわかると少しだけ店をうろつき、いつの間にか消えた。 バイト上がりに、ソッコーで、比呂に電話を入れて、近所の定食屋で待ち合わせた。 席について、注文たのんだあと、すぐに俺は比呂にいう 『最近比呂、疲れてない?』『・・・・えー?大丈夫だよ。 』 『過労じゃないの?大丈夫なの?』『そうだなー。昨日はちょっとヤりすぎた。』 ・・・・・・あほっ。 『じゃなくってー、大丈夫なの?この頃ほんと、疲れてるようだから。』 『・・・ああ、大丈夫だよ。昨日もいったけど、俺、苦手なものが結構多いだろ。 だから少しだけ気疲れしてるだけだから。』 『・・・・』 あっさりと、比呂が弱音はいた。フェイントだー。返す言葉みつからない。 『それよりさー、ちょっとお前見てくれない?』 『え?』 『首の裏っかわ。なんか、昨日から痛くてさー。』 『えー?どこー?』 比呂がパーカーの襟のへんを、ぐいっと下げて俺に見せる。 あ・・・・・。引っかき傷だ・・・。きっと俺が昨日つけちゃった・・・・。 『ごめん・・それ、俺が昨日・・・。 』そういってうつむくと、比呂がちょっと考えたあと 『あ・・、あんときか。ならいい。ごめん、だいじょぶ。』そういって笑った。 ドキドキ。ほんとどっきどきだよ。比呂は俺の彼氏だけど、憧れが強くて片想い長かったから なんかやっぱ、いちいちときめいてしまう。ほんとに『俺の』っていってもいいのーー?! そんな風に、きょどってたら比呂が『なーあー・・・。』とか俺に話しかけてくる。 無言で首を傾げたら『麦って最近、おかしくね?』とかいってくるんだ。 『なんで?』 『んー・・。何がへんとか、具体的には言えないんだけど・・・でもなんか、変じゃない?』 『そっかなー。』 『んー・・・・。まあ・・変なのはもともと・・か・・』 『何いってんの!麦は普通の子だよ!けど・・悩みでもあるのかな? 』 飯が運ばれてくる。割り箸を割って比呂は味噌汁をかきまぜながら 『うん。多分、そうだとおもうの俺は。でもさ、聞いても教えてくれねーのね。』 俺も味噌汁を手にして飲む。うめっ。シジミの味噌汁だー。 『・・・聞いたってどんなふうに?』 『や、もう、直球で。』 『なんか悩みでもあるのー?とか?』 『うん。』 ふーん。最近の麦かー・・・。俺はいつもどおり普通に見えてたけど。 休み時間とかは、うちのクラスに来て、坂口と比呂の三人であそんでるし。 こないだ三人が”妄想人生ゲーム”と言う遊びをやっていて それを思い出して、ちょっと噴出した。 『・・・・なに?思い出し笑い?エロいな。おまえ。』 『カバっ!ちげえよ!だって比呂とかが、バカなんだもん。』 『俺とかが何でバカなんだよ。』 『妄想人生ゲームってなんなの?』 『ああ・・。』 比呂がおしんこを割り箸でつつきながら、思い出し笑いする。 『俺もよくわかんねーの。ただ俺は、坂口にー 20歳で株で転落。約束手形30億円・・っていっただけ。』 『ぶはっ』 『そしたら麦が、「約束手形、超懐かしい!」とかいいだしてさ。後は流れで。』 『流れって何だよー!』 『だから、いくつで何してどーなったーってのを、ひたすら妄想したんだよ。』 『あははは。』 『そんなのお前、よく覚えてるよなー。俺、半分忘れてたわ。そんなもん。』 ・・覚えてるさ。だって、俺、お前ら三人の輪がうらやましいんだもん。 余計な話をしたら、麦の事から話題がそれて、浅井の話になった。 『こないだ瑞希から電話きてさー。すっげー必死に広島弁しゃべってた。』 『あははっ!』 『もうね、なんどもいうんだけどー。』 『うん。』 『ネイティブ広島県民は最強だとおもうの。』『どー言う意味・・・』 『すげえんだぜ、まじで。ほうのー、ほうのーって。すげえ言われるんだから。』 『は?』 『浅井が友達によく電話かわるの。で、俺はなしするんだけどさー、すげえ意味不明なわけ。』 『ああ、そっかー。』 『静岡弁なんか、標準語が、多少バグった程度の方言じゃん。』 『(ばぐ・・・?)』 『かといって、椿平弁なんかしゃべったら、浅井にすら話し通じねえし。』 『ふふっ。』 『それに、笑いのツボが、浅いんだよ。』 『ああ、なんかそんなこといってたね。』 『広島の名物って、カープ?って聞いたら、それだけで死ぬほど笑われた。』 『ぶは!! 』 『不思議な子が多いからー、瑞希がうかずにすんでよかったね。』 『ゲラっこ友達がおおくて、幸せだね☆』 ・・・浅井ー・・。俺もこないだ電話した。 俺って電話苦手なんだけど、浅井と小沢にはかけやすい。広島楽しいって言ってる。いつも。 でもね、電話のキリ際にかならず言われるんだよ。『比呂のこと、たのむね。』って。 麦がへんなんじゃなくてさ・・・比呂のことがさ・・みんな心配なんだよ。 坂口だって、比呂のこと、すごい心配してるしさ。比呂は頑張り屋さんすぎるから。 悩みを全然相談しないでしょ。大きいものを抱えてるはずなのに。 俺には少しは話してくれるけど、それでも不安になっちゃうんだよなー。 大丈夫?っておもっちゃうんだよ。 ぼんやりしてたら、比呂が俺の皿に、千切りにんじんを、三本いれてきた。 ・・頑張り屋さんの比呂なんだから にんじん嫌いをまずなおしなさい!2008/01/14(月) 17:02:50 |
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