比呂、ごめんね。


・・・本気で消えたいと思った。

今日、部活が30分早く終わって、着替えて駐輪場に行く途中
比呂の携帯に電話があって、なんか話してるなーと思ったら
『ああ・・・すぐいけます。はい・・はい・・。はーい。』
っていって、電話切るの。

『どうした?』ってきいたら、比呂は何事もないような顔で
『バイト。秋山さんが休むんだって。人がいなから入ってって言われた。』とかいう。
それをきいたら、カチンときたんだ。

そんな・・誘われたらすぐにバイトは入れるほど暇だったの?
じゃ、何で俺を誘ってくれなかったんだよって・・・・。

頭にきたからぶん殴って、家に帰ったあと正気になりぞっとした。
俺・・比呂を殴っちゃった・・。比呂は何も悪くないのに・・・。
怖くて電話なんかできないし、店に行く勇気だってない。
っていうか、今回はさすがに自分を正当化する理由もない・・
比呂に非がないって自分でも怖いほどわかってるから
どうすることも出来ないで・・一人で夕飯も食わず部屋で泣いてた。

7時と9時に比呂から着信あったんだけど、話するのが怖くて出れないのね。
だけど電源はきらないの。比呂と話がしたいから。俺に何度もかけてきてほしいから。

11時にまた着信があって、俺、怖くて出れなかったんだけど
そしたらさ、全然さ、携帯の着信が止まらないのね。
1分位しても切れないから、そのあいだに俺、自分をはげまして電話に出れた。
電話に出たら、大好きな比呂の声がした。

『・・・よかったー・・・ごめんな。寝てた?』

普通に話をしだしてくれたから、それだけで嬉しくて涙が出る。
『ごめんね。さっき殴っちゃって・・・。』
そういうと比呂が電話の向こうで、ふふっとわらう。

『外は寒いよー。那央ちゃん。』
『・・・外にいるの?』
『いるよ。だって今終わったんだからさー。』
『忙しかったの?バイト・・・。』
『・・・んー・・帰り際にトラブったからなー・・・・。』

・・・そうなんだ・・・。


『比呂、今帰り道?』
『そうだよ。一応、お前んち方面に向かってる。』
『え?』
『もうすぐ通りかかるよ。窓の外見てみな。』
『え?!・・えっ?!!!』

カーテン開けたら、ちょうど比呂が通りかかった。
ブレーキかけて、自転車がとまる。比呂が自転車にのったまま、
俺を見て手を振ってくれた。

『・・一応って・・・なんで?』
『どうせ帰る途中だしー、もしかしたら、顔みれるかなーとおもって。』
『途中っていったって、超遠回りじゃんっ。』
『自転車漕いで近づける距離なら、遠いのうちにはいらねえよ。』

・・・・・・比呂・・。

『ごめんな。那央。いきなりバイト入れて。』
『・・・・・。』
『でも仕方なかったんだ。説明できなくて悪かった。』
『・・・・・。』
『お前、俺のことどーでもよくなったの?』
『そんなことないっ。大好きだもん。』

冷たい窓ガラスにデコつけて話すおれ。
窓が自分の吐息で曇るから、俺はガラっと窓を開けた。


・・・・つめたい・・。寒さが顔に痛い。


こんなに寒いのに、俺の顔見るために、遠回りしてきてくれたんだ・・・
俺がバカで最悪でわるかったのに・・・・。

比呂が仕草で窓を閉めろという。首を振ったら、怒るような顔をされた。
だから、仕方なく窓を閉めて、曇ったとこはシャツの袖で拭った。そして比呂のことを見る。

『もう夜遅いから、明日話しよう。俺もお前もちゃんと寝て、明日学校でゆっくり話そう。』
『・・・・・比呂〜・・・。』
『泣かすようなことして悪かった。ごめんな。ほんとに。』
『・・ちがう・・俺が一番わるかったんだ・・・。』

口をヘノ字にした俺の泣き顔を見た比呂は、困ったような顔で笑った。
『お前一人が悪いわけがないだろ。謝り合うのは明日にしよう。頼むから笑ってくれよ。』

・・意外な言葉が比呂から出たから・・・俺は一瞬泣くことも忘れる。
頼むから笑ってくれよって・・・。何でそんなに嬉しいことをいってくれるの?

俺は涙を拭いて、比呂にわらいかけた。最初は無理やりだったけど
比呂がすごく優しい顔で笑い返してくれたから、
今度は心の底から、最高幸せな気分になって、勝手に顔が笑った。
すっごく嬉しい気分になった。

そしたら比呂がふふって笑って
『じゃ・・帰りまーす。』っていうと、自転車にまたがって俺に手を振るんだ。

『帰っちゃうの?』
『帰るよ。こんな夜中にいつまでも、お前んちまえにいられねえだろ。』
『・・・・そっか。』
『そう。そうなんだよー。俺、そろそろ不審者リストに載るよ。』
『ふふっ。』
『じゃ、また明日・・つか、ついたら電話する。』
『うん。』
『じゃ、またあとでー。』
『あとでー。』


・・・俺は比呂を見送ったあと、そのまま床にへたり込んだ。
大声になりそうだったから、枕で口を押さえてわんわん泣いた。

安心したし、嬉しかったし・・ほんとにごめんねって反省した。
毎日俺は間違えて、比呂に色々な形でそれを指摘される。
直接言葉で言われる時もあれば、今日みたく、
態度で自分の間違いに気づかされることがある。

自分が悪いと思ったからこそ、比呂の優しさに頼る前に
自分から謝らなきゃだめだった。
消えたいなんて、ずるいこと言わないで
むしろ自分から比呂に会いに行かないといけなかった。

比呂がこんなに冷たい風が吹く夜中に遠回りしてまで
俺のそばに来た上で、電話してくれたこと

俺の顔を見て電話してくれたこと。

俺が比呂を殴っちゃったから、元気なとこをちゃんと見せて、
怒ってないだろ、みてみろよって・・疑り深い俺相手だからこそ、
疑いようのないように笑顔を見せてくれたんだよね。
ありがとう。本当にどうもありがとう。比呂ちゃん。

笑ってくれよって頼んでくれた。あのときの比呂の顔、すごく心に刺さったよ。
あんな表情をする比呂に、俺は人として全然おいつけない。

比呂は家に着いたらすぐに、俺に電話をしてくれた。
おやすみってお互い言い合って、電話を切った。うれしかった。

比呂が、俺の心のもやもやを、明日まで放っておかないでくれたから
俺、きっとぐっすり眠れる。
明日話あおうっていわれたけど、比呂が相手だから、ちゃんと俺
自分の気持ちとかいえると思う。

こんなに頻繁に比呂を困らせるのに、ずっと付き合ってくれてる比呂。
でも、そういうのを判断基準にして、俺ら順調だーって言うのはおかしいんだよな。
波風起こして、それでも別れないでもらえるから・・俺等は愛し合ってるって
そういう間違った安心の仕方、そろそろ卒業したい・・・ほんと。


お互いにストレス少なく、普通の付き合いをしていきたい。

俺が成長しなきゃ駄目なんだ。

・・・今日はもう寝る。

比呂に夢で甘えたい。



2008/01/28(月) 23:19:19
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