2008/3/12 (Wed.) 14:23:43

ユッキーが昼飯を生徒会室でミーティングがてら食うという
情報を手に入れた俺は、そっこーで一組に行き比呂を連れ去る。

パンを二つとコーヒー牛乳、そして何故かふりかけを一袋持ってる比呂。
『おとなのふりかけ・・・加瀬がくれたんだけど、飯がない。』と、いうから
『土産にしな。屋上いこう。』と答えて、あいつのパーカー引っ張って強制連行した。

屋上の扉を開けると、風が強くてドアがバーンと開く。
『・・・風強いな・・・他で食うか。』俺が言うと
『いいよ。ここで食おう。』といい、比呂がドアをしめて手前に腰掛けた。

光が丘はもともと風の強い土地柄だけど
ここ一週間は春風なのか、やたらと突風が吹いてくる。

『・・・・ねえ。』
『ん?』
『昨日・・ごめんな。・・なんか。』
『ああ・・いいよ。つか、お前が悪いわけじゃねえだろ。』

お互いパンにかじりつきながら、話をする。
今朝、学校にいくとユッキーが比呂の髪の毛を編んで遊んでいた。
比呂はというと、ぼーっと窓から外を眺めているだけ。
ユッキーの様子からして、2人はきっと仲直りをしたんだろうけど
その割には比呂が嬉しそうじゃない。

ユッキーにあわせて無理に笑っている感じだったんだ。

黙った比呂を撫でたら胸が痛んだ。
ふたりっきりで、こんなにそばに座るなんて自殺行為だ。

俺はわざと大きなクシャミをする。冷静になれ。今は俺の事よりも比呂のことだ。
ふーっと溜息をついたら、少しだけ落ち着くことが出来た。
俺は比呂がもってたふりかけを、シャカシャカふりながら話をした。

『・・仲直りできた?』
『えー・・?仲直り?・・・仲直り・・わっかんねーなー。』
『だって幸村あんなにご機嫌じゃんか。』
『あー・・じゃあ、仲直りできたんじゃないのー?』
『なんだそりゃ。』

比呂のほうをみると、膝に顎をのっけて、さみしそうにむくれている。
かわいいな・・・。くっそ。そんな顔してんなよ。ずっと見ていたい。
出来れば触りたい。でも触ったら、歯止めがきかなくなる。俺は話に集中した。

『自分が仲直りしたかも忘れちゃうくらいボけちゃったのかー?おめーは。』
『・・・ちがうよ。別にそんなんじゃねえけど・・最近あいつとする仲直りって、なんなのかよくわかんない。』
『・・・・・・。』

比呂は、一口だけ食ったパンを、俺に『あげる』といって渡す。
チキンタツタパンだったんだけど、にんじんサラダが少しはいってた。
・・ったく、こんなもんも食えねえガキが、ああいうタイプと付き合うんじゃねーよ。

『・・・仲直りの意味か・・。たしかにあいつ、どんだけ仲直りしても、すーぐ問題をおこすからな。』
比呂の食いかけのパンにかじりつく。みぞおちの辺りがぎゅー・・とした。
『うん。そういうのもあるんだけど・・なんか・・
まず仲直りして、問題解決はそれから〜・・みたいな感じで毎回展開してて・・
なんかそれって、おかしくねえかとか思うんだ。うまくいえないけど・・』
『・・・・・。』

比呂は二つ目のパンの袋を開ける。きんぴらごぼうのマヨサンドだ。
やっぱりにんじんが入ってるんだけど『このにんじんだけは食える、すげえだろ』といって、
がぶりとパンを食いつく比呂。抱きしめてえ〜・・・・俺の恋心なんか無視して、比呂は話を続けた。

『いつもそうなんだ。なんかあって、おれらがこじれた時・・
大体はあいつの精神的な揺れが原因でさ・・。』
『おう。』
『ほとほと困って、俺も怒って、そんで問題になるじゃんね。』
『・・うん。そうだな。』
『・・・そうすると幸村が「ゆるして」とかいう。「やりなおしたい」とか「捨てないで」とか
そういう事ばっかいってくんの。全然話になんねーの。』
『・・・・。』

俺もそんな類の話、ユッキーから聞かされたことがある。
随分身勝手なことを言うよな・・と、内心ムカついた記憶は鮮明だ。

比呂は、コーヒー牛乳を飲んだ。そんで腹の辺りを少し擦る。痛えのかな?
でもあえてそれには触れない。こいつの男のプライドは、なんとしても通してやりたいから。

『・・・納得いってないことが多いから、きっとあいつはグズグズいうんだろうけどさ・・
揉め事になったんなら、ちゃんと納得いくように話をして・・そんで仲直りにしたいわけよ。俺は。』
『・・・・そうだな。』
『でもさ・・そこまであいつは、自分の納得できる答えは求めないのね。
なーんか簡単に仲直りして終わりってきがしてさー・・。』
『・・っていうか、いつもお前が許しておわるだろ。』
『・・・? 』
『浮気の話だけじゃないよ。昔もあったろ。ユッキーのヤキモチが発展した短い別れみたいなヤツ。』
『・・・・・あったね・・。懐かしいな。』
『お前が簡単に許しすぎなんじゃねえのか?もっと文句とかいえばいいのに。』
『・・・・・。』
『お前も言葉が足らないと思うよ。我慢しすぎって言うかさ。』
『・・・んー・・。そうなのかなー・・。』

ぼんやりとした顔で考える比呂。

『でも実際、ガマンって言う感覚薄いんだ。言葉が足りないのはわかってるけど・・
でもなんかもうさー・・あいつに何を言えばいいのかわかんないときがあってさ。』
『・・・・・お手上げみたいな?』
『ああ・・。それに近いな。なんせ色々ありすぎだろう。
こないだなんか揉めたばっかなのに、もうこんなことになっちゃうのーー?!!ってさ・・
そうなるともうなんか、無抵抗みたいな感じになってくるんだよ。
あの人が、ガンガン文句言ってきてる隣で俺、"あー空が青いなー”とか思いつつボケてたりして。
なんていうのかな・・。受け入れ拒否状態になってんのかもしれない。
あーもう無理。何言われても、もう受け入れられないってかんじで。』
『・・・・わかるかも。それ。』

俺は比呂にぼそっといった。
『・・・・めんどくさくねーの?あいつとの付き合い。』
比呂は、目を閉じて、扉にガコンと音をたててもたれかかった。
『・・・めんどくさいねー・・。ほんっと、めんどくさい。』


***

2人で2年の教室のほうにあるいていくと、ユッキーが向こうから走ってきた。
『比呂ー!』といって、駆け寄るユッキーに
比呂が手を振って 『生徒会おわったかー?』と声をかける。

あのあと。

ユッキーのことをめんどくさいと言い切った比呂は、目を閉じたまま、話を続けた。

『なんかー・・・いっそのこと俺の心ん中、全部プリントアウトして、あいつに読ませたい気分。
どんだけあいつを好きなのかとか、全部思い知らせたい。浮気なんかしねえっつーの。ったくムカツク。
あいつは俺の気持ち、全然わかってない。俺の気持ちはいつもあいつに言ってんの。
いってることは事実じゃん。なのにあいつはそういうの無視して、ありもない事を心配して、
自虐スパイラルにハマっていくんだよ・・あほだろ。しまいには友達巻き込んで・・
ほんとごめんな・・わるかった。今度こそ俺、ちゃんと俺自身が、納得いくまであいつと話すわ。』


幸村の事を、比呂に謝られた。友達巻き込んで・・・とかいわれた。
・・・・・俺はその『友達』ってやつだ。

ここまで来ると、比呂がユッキーを好きだという神経がわからない。
わがままなあいつを放っておけないのか?


・・・・だったら俺も、我侭言うよ。

わがままいうから、付き合ってくれよ。
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