2008/4/6 (Sun.) 01:44:05

『鍋やるぞ〜鍋〜!!』・・と勢いよく誘ってきた比呂は
鍋開始後わずか30分で、腹いっぱいになって眠ってしまった。
タモさんクラブをみて思い立って、いきなり鍋の会をやろうと決めて
材料とか全部自分で買って、バイトもいって、疲れたんだろう。

今夜は比呂の家に泊まる。ヒノエと小沢は用事があるから10時に帰った。

『夜食食べたいね〜。』『アイスアイス〜☆』そんなこと言って坂口たちがわめくから
『じゃ、買ってきてやるよ。』と俺が言うと、坂口が『じゃんけんにしよう!』とはしゃぎだす。

坂口と幸村が負けて、2人で買出し。大丈夫かあのコンビ。

俺は眠る比呂に布団をかけて、外に一服しにいこうとした。
おぎやんもヘビースモーカーだから、たまには一緒に吸おうと思って。

そしたらおぎやんが『佐伯。』という。部屋を出て、ドアをしめたら、俺をじっと見て言う。
『俺は、お前のほうが、紺野に合うような気がする』


・・・体中が凍るかと思った。

『何いってんの?それ・・・・。』『みてたらわかるよ。』
『・・・・は?・・ちょっと・・何を・・。』『わかるよ。・・ずっと辛かったよ。』
『・・・・え?』『・・・好きなんだろ。紺野を。』

小木矢は・・・

小木矢とは・・俺はあんまり話をしたことがない。浅井と比呂と仲良くて
ヒノエとクラスが同じだけど、タイプが違うから、ワンセットと言うイメージもない。
比呂がつるんでるヤツの中では、一番大人しくてとっつきにくい。
どちらかと言うと、俺は得意なほうではないタイプの人間だ。

『幸村の事を・・貶めたいとか・・そういうんじゃないんだ。
ただ・・佐伯はあんなに比呂のことを大事に大事にしているのに報われなすぎるのが辛いんだ。
そういう事を言うのは、お前に対して失礼かもしれないけど。』
『・・・・・・。』
『・・それでも、俺はいやなんだ。アレだけ我侭や暴言ばかりを吐いて、
酷い態度をとってきた幸村ばかりが、幸せな思いをして・・
本当に比呂のために苦しんできたお前が、なにもごほうびがもらえないのが
辛いんだ。悔しいし許せないんだ。』
『・・・・・・・。』
『陰口は好きじゃない。だからこんな話は今これ限りにする。
ただ、やっぱり俺は・・・そういう理不尽が・・俺は大嫌いなんだ。』
『・・・・・。』
『俺は今から下にいって、一人で煙草を吸ってあいつらの帰りを待つ。
その間俺は、この部屋には来ない。お前はこの部屋で比呂を見ててやりな。
何をしたって誰もとがめない。お前が何したって、寝てる比呂には関係ない。』
『・・・・小木矢・・・。』

小木矢は俺をまっすぐ見て言う。

『お前が一年のときから比呂のことを好きなのは知ってる。
俺はいつか比呂がちゃんとそれにきづいて、お前と付き合うかもしれないとおもってた。
でもあのバカは気がつかないで、幸村に振り回されっぱなしだ。』
『・・そんな・・幸村はよくやってるよ・・。紺野がバカでしょうもないから・・だから・・』
『・・幸村も比呂に対して、精一杯の事はしてるかもしれない。でも、お前の比には全然ならないだろ。』
『・・・・・。』
『俺が、お前っていう男をみてきて、・・だからこそ今、こういう事を言ってる。
佐伯。お前は、比呂のそばにいてやって。俺は、あいつらがくるまで、ここには絶対こないから。』

小木矢はそういうと、階段を下りて玄関を開けて外に行ってしまった。
俺は動揺していたが、眠る比呂の寝顔をみていたら
押さえつけていた自分の感情が、じわじわ溢れて、もうどうすることもできない。

口づけた。かすかに開いた比呂のくちびるに、舌を入れてからめる。
涙が出てきた。比呂は起きてはくれないけれど・・・
それでもからめた舌は甘く、大好きな比呂の綺麗な寝顔が俺すぐ目の前にあって・・そして・・
布団に手を突っ込んで比呂の手を・・ずっとずっと握ってみたかった比呂の手を・・
恋人つなぎで握ったら・・すごく幸せで・・罪悪感が一瞬よぎったけど
さっき小木矢が言ってくれた言葉が、そんな気持ちを一蹴してくれた。

俺は、くちびるを離すと、比呂の髪を撫でた。愛しくて・・・心臓が止まりそうだ。
『比呂・・』名前を呼ぶ。返事はないが、寝息がとてもかわいらしい。

髪を指で梳きながら・・もう一度名前を呼ぶ。
・・・頼むよ・・俺のとこに来いよ。俺のものになれよ。

頬に触れると、比呂がふふっと笑った。起きたのかと思って焦ったけど、たまたま夢見がよかったらしい。
あほみたいに幸せそうな顔をして眠る比呂。俺は、頭を抱きしめて、また口づけた。

『あいしてるよ。比呂。』

耳元で囁いた。

いいんだ。比呂が寝ていても。いいんだ。これは俺の一方的な気持ちだから。

『うきゃ〜!外はさむいっすよ〜!』
『15個も買ってきちゃったよー。じゃんけんじゃんけん!』
アホ2人組がかえってきて、俺は階下におりていく。
小木矢が坂口の髪にのってた桜の花びらを取っているところだった。

『麦ちゃん!こんの比呂はおきた?』『・・まだ寝てるよ。』
坂口にいうと、幸村が階段を幸せそうにあがっていった。

『まて〜!おまえらばかりをいちゃつかせんぞ!!』

本来ならば読まなければいけない空気をあえて無視して後を追いかける坂口。

途端に静かになる玄関先。小木矢が俺を見て微笑んだ。俺も笑い返すと、なんだか涙が出た。
小木矢は俺の背中をさすって、なんでかわからないが、一緒に泣いてくれた。
浅井がいなくなってから・・・俺は比呂のそばで・・・一人ぼっちで・・報われない恋愛と戦ってきた気がする。

小木矢がこんなやつだと思ってなかったし・・強引なまでに俺の背中を押してくれると思わなかったけど・・
でも俺は・・・その強引さのおかげで・・・

やっと比呂に、愛してるっていうことができたよ。

寝てる比呂にキスをするのは初めてじゃない。卑怯な自分に吐き気がする。
でも、誰かに後押ししてもらえて・・なんていうんだろう・・・
俺の味方になってくれるヤツがいる環境でそういうことができたことが・・・・
・・あー・・なんかうまくいえないけど・・でもやっぱ・・・うれしかったよ。

恋人つなぎでつないだ手。あんなことできたのは・・
そういう時間をくれた小木矢のおかげだ。うん・・。

『ありがとう。なんか・・うん。』
俺がいうと、小木矢は笑う。そして言う。

『味方だっていいきっちゃうと・・やっぱ幸村のこともあるし・・だからあれだけど・・だけど・・・
俺も、お前が自分の気持ちを比呂に隠してるように・・お前の気持ちを比呂に隠し続けていくよ。

ただ、俺は本当に、お前のほうが、比呂を幸せにできる気がする。
あいつは苦労のしすぎだとおもうんだ。恋愛はもっと幸せなものだと思うんだ。
ちょっとまわり見渡せばわかるようなことなのにきっと比呂は一生それに気がつかないと思う。
残念だけど、そんな気難しい恋愛でも、比呂にとってはすごく大事みたいだから・・
俺は2人を応援していこうと思う。でも・・俺は・・俺はね・・お前の味方だし・・。』
『・・・・。』
『・・・今日の事に関しては、共犯だ。だから絶対罪悪感なんか感じるなよ。』
『・・小木矢・・・』

そのあとメル交換して、比呂が目を覚ましてアイス食いだした頃には、
俺は小木矢を『ユージ』と呼んで、小木矢は俺を『麦』と呼んだ。

寝起きで不機嫌な比呂がそんな俺らをうざそうに見て
『お前らいきなりなんだ。デキてんのか。』と、ガラガラの声で悪態をついている。
『もー!そんなこといわないの!』って幸村が紺野を愛しそうな顔で見つめながら叱る。
坂口はそんな二人を見ながらヘラヘラ笑って、俺の肩にもたれて青春アミーゴをうたっている。


俺はじっと自分の手を見た。比呂とつないだ手。

愛してるよ。・・・愛してるんだよ。
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