『積み重ね』
比呂と話し合った。 風呂から出て、歩いて2分の自販機でジュースを買って、
比呂はタバコを吸って 部屋に戻り、ベッドに二人で座った。
比呂が選んだジュースが、お約束のようにファンタだったから、
俺はなんだか緊張が解けて、なんとなくちゃんと話せそうな気がした。
『俺さ・・。』
『うん。』
『形あるものはいつか壊れるっていう考え方が、根底にあるんだ。』
『・・・。』
『今はお前と仲良くできてるけど・・環境が変わったらきっと駄目になるって思うんだ。』
『・・・・・。』
『比呂と二人であれこれしてた時はよかった。でも部登録して佐伯が入ったら、比呂がとられちゃうって思って。』
『・・・。』
『斉藤が一緒につるむようになったら、俺だけつまんない人間に思えた。』
『・・・。』
『俺の世界が広がれば広がるほど、どんどん自己嫌悪におちいっちゃうんだ。』
『・・・・。』
『比呂に嫌われたらどうしようって・・。』
『・・俺がお前を嫌うの?』
『うん。俺は結局さ・・髪はこんな色してるけど、つまんない人間なんだよ。勝手だし、勉強しかできねえし。』
『・・。』
『だからさ、やれ女だの、何組の誰だのって、お前の口から出るたびにさ・・やきもち焼いてたんだとおもう。』
『・・・』
『・・・いじめられたことに、後ろめたさもある。ちゃんと自信が持てないんだ。』
『・・・。』
『俺は比呂に会って救われた。お前は俺の性格を生かしてくれた。周囲の環境も言葉ひとつで、俺にいいように整えてくれた。』
『・・・・。』
俺は深呼吸をひとつ。溜息じゃない。どん底みたいな話してても、今の俺は、ちゃんと前を見据えている。
『そういうお前に俺は甘えて、わがままになりすぎてるんだと思う。俺はお前の力になれないし、
お前は俺の友達でいたらきっとずっと大変なんだ。』
『・・・。』
『だから俺は、お前に友達やめろって言うけどさ、期待してんだ。そういう言葉を聞いてお前が引き止めてくれるのを。』
『・・・・。』
『お前は泣き言を武器にしないのに、俺は自分の過去とかさ・・いじけた性格を武器にして・・』
『・・・。』
『そういうのでお前の気を引いて、欲しい言葉を引き出そうとする・・。どうしていいのかわからねえんだ。』
『・・・・・。』
『情緒不安定で・・気を使わせてばっかで・・ほんとごめん・・。もう他に言うことはない・・。』
一気に喋った。ほんと、すっきりした。涙は出なかった。この状況で泣いたら卑怯だ。
比呂は、唇をぎゅっとしたあと、ふー・・って長く息を吐いた。 それで俺を見た。で、またため息をつく。
『じゃあ・・今度は・・俺が・・。』
俺は比呂の顔を見る。比呂は俺から目をそらして、そしてゆっくりと話を始めた。
『俺、お前のことが時々怖かった。本当に何考えてるかわかんない時とかあって。』
『・・・。』
『泣くし、喚くし、俺を拒絶するのに、でも会いたがるし、会えば嬉しそうだし・・・・。』
『・・。』
『だけど・・もうわかった・・今の話を聞いたら全部納得がいく。お前が今まで俺にしたり言ったこと全部に納得がいった。』
『・・・。』
『形あるものは壊れるけどさ、壊れないように気をつけてれば、案外何年も大丈夫じゃん。』
『・・・。』
『それって極論じゃん。人は生まれても結局死ぬとか、そういうのと一緒だったりするじゃん。』
『・・・。』
『あきらめのためにその言葉があるわけじゃないと思うんだよ。』
『・・・どういう意味?』
『形をとどめたかったら大事にすりゃいいじゃん。環境がかわったとこでさ、人はいきなり変わらないよ?
そりゃ何年もほっときゃ、あれだけど、毎日見てれば変化に気付くしちょっとのブレなら直せるじゃん。』
『・・・。』
『でも・・ごめん・・なんて言っていいのかわからない。お前の言いたいことはわかったけど。』
『・・・。』
『だって大事なことじゃん。簡単に考えられることじゃないし・・。』
『・・・。』
『お前の気持ち聞けて嬉しいけど、俺それに対して何を言ったらいいのか・・・・・』
『・・・・比呂・・。』
『とにかくお前の気持ちはわかった。話してもらえて安心した。何一つ嫌なことなんかないし、わかったら意外と単純だった。』
『・・・。』
『でも俺が今ここで何を言うかでさ、またお前を傷つけるとほんと困るしさ・・。ほら俺はさ・・言うことに優しさがないじゃん。』
『え?』
『思ったことをそのまま言っちゃうし・・俺まじで口が災いするタイプなんだよ・・。』
・・・なにいってんだ・・。お前は何も自分をわかってない・・。
『お前を言いくるめる気はないよ。これで終わりにするつもりはない。でも、ちゃんと考えてみたいと思う。
3年間も同じ学校でいられるし、その間にお前も俺も、色々話して分かり合っていこうよ・・。』
『・・・。』
『やっぱずっと仲良くしたいじゃん。死ぬまで遊べたら嬉しいし。
お前今まで友達がいなかったんなら、中学のときの分も俺と遊べばいいじゃん。ね?』
『・・比呂・・。』
『お前の言ったことに対してさ・・俺何一つこたえられてないと思うけど、クイズじゃねえし、
いきなりまともにこたえるなんて、俺には無理。だからごめん。それは、まじごめん。だけど、お前の気持ちはわかったから。』
・・・なんでもテキトーそうな比呂は・・実はそうでもないようで、
一言一言をちゃんと考えながら俺に必死に訴えかけてくれた。
ばかだな、比呂は。 お前はもうすっかり、俺の気持ちにこたえてくれているのに。
俺らはどちらともなく笑った。こんな夜中に、何を語ってるんだろうねってかんじで・・。
たかだか15歳の俺らが、人生語るなんて早すぎだ。
20歳になったら酒でも飲みながら、互いの哲学を語り合おうという意見で合意し、ジュースで乾杯した。
ファンタを飲みながら比呂は時々、何かを考えてるようだった。
なにかをひとつ乗り越えるたびに、何かが障害となって押し寄せる。
いつでも何かを悩んでる俺にはやっぱり、比呂みたいなツレが必要なんだ。
俺は比呂に念を押した。『俺、きっと何度も、くだらないことで落ち込んじゃうぜ?』
そしたら比呂は俺に言うんだ。『大丈夫・・・・・・・・・・・・・・・・・多分。』
俺は比呂に笑いかけた。そしたら比呂も笑ってくれた。
二人でばたりとベッドに寝転ぶ。今日と言う日を要約するとやっぱあれだ。
雨ふって地固まる。
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