2007/1/21 (Sun.) 22:21:41 朝早くに待ち合わせをして、俺たちは電車で2時間ほどの場所にある遊園地へ向かった。 休日の電車の中は、笑っちゃうくらい閑散としていて、俺らの他に、一組だけ老夫婦が同じ車両に座っていて にこやかに話す2人の様子を見ながら比呂が俺の手を握った。 今日の休みを取るために、比呂はここのところバイト三昧で、 今朝も仕入れ直後の店で生花を束ね、リースを三つ作ってから駅に来たらしい。 髪に触れたら、とても甘い花のにおいがして、素敵だった。 2時間もの間、俺たちは、小沢にお土産買おうという話をして盛り上がっていた。 現地に着く前からはしゃぐ俺たち。比呂もこういうデートは、はじめてなんだって。 目的地が近づくにつれ、電車の中も混み始める。俺等は席を立ってドア際の手すりにもたれて、外を眺めた。 比呂は遠くを見つめていて、俺は窓に映る比呂を見ていた。 比呂の視線の先には、ただ無限に広がる青い空。目元が悲しそうに見えて、俺も悲しくなったけど そしたら窓の中の比呂と視線があって、俺が見てるのに気づきふっと笑ってくれたから、それだけで幸せになった。 遊園地に着いたら、笑っちゃうくらい子供連ればっかで、だけど、そんなに混んではいない。 やっぱ寒いからかなあ。 チケットがすげえかわいくて、それを買うだけではしゃいだ俺。でも料金は比呂が払ってくれて いいのかな・・いいのかな・・って、戸惑ってたら、比呂が俺の肩を叩く。 『あれ乗ってみ?ゆっきー。』っていうから、そっちを見たらメリーゴーランドだった。 『わーー、あんなの俺みたいのが乗っても法に触れない?』 『触れない触れない。大丈夫。』 『比呂は乗らないの?』 『俺の場合は触れる。法に。』 『えーー。一人で乗るのー。』 すると比呂は笑った。 『お前の写真、待ち受けにしたいんだよ。携帯で撮りたいから。』 ・・俺もうさあ・・そんなのきいたらさー、熟れきったりんごみたいに真っ赤な顔で、 水色の馬にまたがってしまったよ・・・。 新米パパさんのように、比呂が俺の写真を携帯でとっていた。 後で見せてもらったら、俺、すっげえ笑顔全開だったー・・。 でもー・・自分でも、なかなかいい線いってる感じにうつってて、うれしかったな。 比呂がずりネタにしてくれますように! そんなヨコシマなことを考えつつ、次はジェットコースターにのって、 そんでプラプラ歩いていたら、土産屋を見つけ二人ではしゃぐ。 初デート記念に、小沢に今までのお礼がてらの、土産を買うことにきめたから、 目星をつけておこうってことになって、ちょっと物色してみたんだ。 俺が、(グングン育とう元気っこチョコレートカルシウム入り)を選ぼうとしたら 比呂に、『ネーミングがリアルすぎないか?』と、真顔でとめられて、 結局バームクーヘンのホワイトチョコがかかったやつを買うことに決定した。 土産屋の中があたたかくって、のんびりしてたら昼時になってしまったから、 そこからちょっと歩いたとこにある洋食屋みたいなとこに行って、飯を食うことにした。 比呂のところに浅井から電話があって、比呂が外に出て電話してたんだけど、 その間に俺は小沢に中間報告を済ませた。 小沢からの即レスは、『ハネムーン頑張って★』だった。もうっ!!! *** テレテレしながら飯食って、そのあとジェットコースターにのろうって思ってたんだけど、 想定外に腹いっぱいで、今ジェットコースターに乗ったら、大変になる予感大のため、 先に観覧車に乗ることにした。 オレンジ色の俺らのゴンドラは、8番という番号がかいてあった。末広がりだ。なんとなく・・嬉しい感じ。 先に比呂が乗り込んで、俺の手を引っ張ってくれた。 そんで対面に座る。ゴンドラのドアが、ガチャンと施錠された。すごくのんびりゴンドラがあがっていく。 密室。上と下のゴンドラに人影はない。俺が微妙に緊張したら、比呂がなんか、さみしそうな顔で話をしだした。 『浅井が・・転校するんだ。』 『・・え?』 『秋ごろに・・それをきいてさあ・・。黙っててごめんな。』 全然考えてもいなかった話題をふられて、俺は固まる。 『・・三月いっぱいで、光が丘でるんだって。』 『うそ・・。』 『・・だけど、まだ行き先がハッキリしてなくてさ・・。』 『うん。』 『決まってからみんなに話すって言うから・・。』 『うん。』 『みんなには・・黙ってて。』 『ああ・・うんっ。わかった。』 比呂はなんか、ほんと辛そうな顔をしてて、俺・・どうしていいかわかんなくて、ただじっと比呂をみる。 そしたら比呂がうつむいて、そんで・・降りてきた前髪の向こうで、大粒の涙がぱたりと落ちた。 俺らの乗った観覧車が、もうすぐ一番高いところを通過する。空に近いところで比呂が、ぼろぼろと涙を流している。 俺も悲しくなったけど、今だけは絶対泣かない。俺は比呂の髪を撫でて、涙で濡れた頬を触った。 熱っぽいため息をついた比呂が、空を見上げながら 『俺・・一人でどうしていいのかわかんなくて・・。』なんていう。 『・・うん。』 『・・やっぱ・・あいつの口から、みんなに言わなきゃ意味ないし・・。』 『うん。』 『2月に行き先決まるらしいんだ。だからもうちょいなんだけど でもさ・・2月になっちゃったら、3月まであっという間じゃん?』 『うん。』 『小沢だって、麦だって、坂口だって、みんな浅井が大好きなのに、心の準備できねえじゃん。』 『・・・。』 比呂が泣いてる・・。子供みたいに泣いてる・・。 『俺・・なんかさあ・・3月に浅井と別れたら、二度と会えない気がするんだよ・・。』 『・・・なんで?』 『わかんない・・わかんないけど・・・でも、なんかそんな気がしてさみしくて。』 『・・・うん・・。』 『どうしたらいいと思う?』 俺らのゴンドラが、最高点を通過した。俺は比呂の髪を撫でて、素直に思ったことを伝えた。 『・・比呂はそのままでいいと思うよ。』 『・・・。』 『比呂は特別浅井と仲いいから、不安でどこか冷静じゃないんだ。』 『・・・。』 『俺も、浅井を好きだけど、たとえ離れてもいつか必ず会えるって自信を持てる。』 『・・・。』 『俺たちがずっと一緒にいたら、必ず浅井とまた会えるよ。』 『・・。』 『一緒に会いに行こうね。浅井に。』 比呂はしばらくじっとしてたけど、二回こくりと頷いて、そしてまた泣いた。 なんかほっとしたんだって・・・。 観覧車が地上について、ドアの鍵が外され、俺等は降りた。比呂はまだシクシク泣いていて、 ゴンドラ待ちの子供が『あのおにいちゃん、怖くて泣いてるよ。』といった。 それを聞いた比呂が、ふふっと笑って俺を見た。俺もふふっと笑った。俺の笑顔を見たら、比呂がまた泣いた。 *** そのあとジェットコースターにのって、小沢への土産を買い、 土産屋の隣のゲーセンで、比呂にユーフォーキャッチャーで人形をとってもらった。 地元に戻ってから夕飯食うって決めてたから、早めの電車で帰ることにする。 比呂の涙はとっくに止まったけど、泣きすぎたせいかテンションが変らしく 俺と目が合うたびに、ふふっと笑って、なんかやけに照れくさそうだった。 あーあ。あと少しで駅についちゃうなあ・・。そんな風に思ってたら、 比呂が二駅手前で、『降りよう。』といい出す。 そして、俺の手を引いて、地元とは違う駅に降りてしまった。 ・・二駅分・・歩いて帰ろうだって・・。なんてかわいいことを言うんだろう。 自分がまいてたマフラーを、俺にまいて比呂は手をつないでくれた。 外はだいぶ暗くなって、犬の散歩の人以外、誰ともすれ違わない。 俺は比呂にとってもらった人形と、小沢への土産を片手に持ち、 もう一方の手で大好きな比呂の手を握り、自分達のまちへと歩いた。 すごく気持ちが満ち足りていて、俺は自分の片想いの頃の 思い出を少しずつ、話しながら夜道を歩く。 つないでいた手は、やがて離れて、比呂が俺の腰に手を回して、俺は比呂の服をぎゅっとつかんで、静かに歩いた。 そのうち俺は、比呂の肩に、頭をもたれかけながら歩き、そしたら比呂が、俺の頭を静かに撫でて、肩を抱いた。 そんなときに、最近できたっぽい公園を見つけた。わりと広くて、やたらと綺麗だ。俺らは少し休憩することにした。 『あったかいもの買ってくる。』 比呂が飲み物を買いに行ってくれて、俺は真新しいベンチに座り、空を見たら星が綺麗。 感慨深かったよ。観覧車のゴンドラの中で。一人で抱えきれなくなったものを、俺に打ち明けてすがってくれた。 いつだって、一人で頑張ってる比呂が、俺を本気で頼ってくれた。目元が急に冷たくなって、自分が泣いてることを悟った。 でもいい。もう比呂は泣いてないし。比呂がいてくれるから俺も泣ける。 俺は携帯を取り出して、比呂にメールを打った。 <お前を好きすぎて涙とまんない。> そんだけ。そんだけうって、送信した。 今日一日を振り返って・・どこを切り取っても幸せなんだ。 寒かったことも、比呂のくしゃみも、ユーフォーキャッチャーも全部全部。 比呂が、手に缶を持って歩いてきた。俺は立ち上がって比呂を待った。 『・・何泣いてるの?お前。』 『・・・比呂のことが好きで泣いてる・・。』 『・・・・まじかよ。』 ガーーン。俺のロマンチック100パーセントの一言を、こいつそんな一言で玉砕した。 比呂は何一つ悪びれずに、俺に缶を二つ差し出した。それは二本ともおしるこ。熱いから両方ぽっけに入れる。 『どしたのこれ。』 『・・・』 『比呂、甘いの嫌いじゃん・・・・。』 『うん。』 『・・・・。』 俺が言葉につまったら、比呂が俺をぎゅっと抱きしめた。 『俺、前にさ・・ジュースが当たった夢見たって言ったじゃん。覚えてる?』 『うん。』 『今さあ、自販機見つけて、最初にお前のおしるこ買おうと思って、金入れてボタン押したら当たったの。偶然。』 『うそ。』 『そしたら俺、反射的に、おしるこボタン、また押しちゃったんだ。』 『・・。』 比呂は、少しだけ顔の位置をずらして、俺のデコに自分のデコをくっつけた。 『俺・・そんときさ・・”正夢だ”って思って・・』 比呂の口が俺のくちびるに近づいて 『・・夢の時みたいな幸村の顔が、見れるかもって・・急いで戻ってきた・・・』 というと、そのまま静かに俺に口づけをした。 俺は片手に人形もって、頭には遊園地でもらった変なのをつけたまま。 そんな滅茶苦茶おかしな格好の俺に、比呂は優しくキスをしてくれた。 俺は体中の力が抜けて、比呂にしがみついてわあわあと泣く。 あはははっって笑いながら、比呂が俺をぎゅっとして、頭を撫でてくれて、 俺今までに何回か、寝てる比呂にキスをしてしまったんだけど、 比呂からしてもらうキスと言うものは、全く全然別モノで、 片想い数か月分の思い出が走馬灯のようによみがえって、 ・・・・・感動が止まらなかった・・・。自分の幸せに感動したんだよ。 しばらく俺が、本泣きをしていたから、比呂が俺をなだめながら歩いて、地元に着いたら20時過ぎてた。 お互い泣いたから腹が減ってたまんなくて、2人で定食屋に入って照れ笑いしながら飯を食った。 帰り道・・。自転車押しながら、俺達は今日一日を振り返りつつ、タラタラ歩く。 それでいつもの別れ道で、俺と比呂はもう一度、チュッとして別れた。 比呂と離れた俺は、さみしさよりも、押し殺していた幸せに耐え切る理性がなくなって、 大声で『やったーー!』といいながら、自転車立ちこぎで家まで走ったよ。 |