Date 2007 ・ 02 ・ 20
お電話


つくづく、携帯電話のある時代に生まれてよかったと思う。

比呂が、バイト終わってすぐに電話くれた。
『今なにしてんの?』って言われたから、
『お風呂から出たとこ。』って答えた。

比呂は『えー・・まじでー。』とか言いながら笑ってる。

俺は布団にもぐりこんで、目を閉じて比呂の顔を想像した。
俺の一番好きな顔。がくっと全身から力抜けちゃったような仕草で
あははって笑う比呂の顔。

『ねえ・・。ハルカさんになんか言われた?』
『別に言われないよ。』
『えー・・本当ー?』
『ほんとだよー・・・。俺・・。』
『え?』

ちょっとした間のあと、比呂が言いにくそうに、こんなことを言った。
『ねえ・・、もう22時になっちゃうけど・・ちょっと会えない?』

俺は目をバシッと開ける。

『塾のとこのサニマの前にいるんだけど・・・お前んちの近所に
空き地かなんかあったら・・・。』
俺は飛び起きて比呂に言った。
『いいよ。サニマいくっ。そこイートインあるよね!腹減ったからいく!』

・・・何いってんのか自分でもよくわかんなかったけど、
比呂との電話を切る時には、気に入ってる服とかが部屋に散乱していた。

会える!!!会えるや!!

俺は、階下にいた父親に『塾のプリントコピーしてくる!』っていって、
慌てて家を飛び出した。

塾前のサニマには、いつもより5分ぐらい早くついて
イートインコーナーに行くと、俺の分まで食い物買っておいてくれた
比呂が、テーブルで転寝していた。

『比呂・・。』小さい声で、比呂を起こす。
比呂はどこでもよく眠るけど、眠り自体は浅いみたくて、
起こせばすぐに起きてくれる。

『ああ・・わり。呼び出して。』『ううん。俺も会いたかったから。』
『・・てきとーに買っといた。食って。』『ごめん。いくらだった?』
『いいよそんなの・・・。』

・・・・そういうと、比呂は短いため息をついて、
それに自分でびっくりして、口を押さえて『ごめん』っていった。

『なんかしたの?』
俺は比呂に買ってもらったポテトをつまんで話をする。
比呂が首を横にふって、
『最近・・あんまあえなくてごめんな。』
ぼそりとそういった。
『いいよそんな・・。比呂は悪くないし・・・。』
俺が慌てたように言うと、比呂がふふっと笑う。

飲み物飲んで、たわいもない会話して、
殆んど手をつけなかった食い物は、俺が持って帰ることになった。

たった10分程度だったけど・・それでもすごくうれしかった。
比呂がコインランドリーに行くというから、サニマの前で俺達は別れる。

比呂は入院してた時以外、ずっと自分でコインランドリーにいき、洗濯をしている。
比呂が行ってるコインランドリーには、なんか変わった人がいっぱいいるみたいで
それが楽しいみたいなんだけど・・・
でも・・だからって・・大人と一緒に住んでるのに、わざわざコインランドリーに行くなんて・・・。


いや・・そんなの俺の勝手な考えだ。俺が言及することじゃない。

コインランドリーにしろなんにしろ・・
比呂がそうすることで、精神的に安心するなら
それでいいんだ・・きっと・・・。

俺の知らない比呂の一面・・・すっごくいっぱいある気がする。
でも俺は、比呂に全部のことを見透かされているような気がして
恥ずかしいし、なんていうか・・薄っぺらい自分がかなり悔しい。

でもその代わり、俺にはあふれるほどの幸せがあったと思う。
いじめを克服した今、怖いものは比呂を失うことだけだ。


家に着いたら、兄ちゃんが風呂から上がったとこだった。
手にビールを持っていたから、比呂からもらった食い物を
一緒に食うことにした。
兄ちゃんの部屋でマリオカートをやりながら
『学校どうだ?』って聞かれたから
『すごいたのしいよ。』って答えた。
『あはは。』兄ちゃんは嬉しそうだった。


俺はぼんやりとゲームやりながら
早く夜が明けて、明日になったらいいなあって
そればっかり思っていたよ。



Post at 23:28

STEREO(別窓/背後注意/紺幸初H漫画)

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