Date 2006 ・ 05 ・ 29
失恋
今日、学校に行ったら、比呂が下駄箱で俺を待っていた。
『おはよう。』って声をかけたら、『・・はよ。』といって立ち上がる。
『どうしたの?』俺は靴を上履きに履き替えながら、比呂に聞いた。
『いや。ちょっと、話しようと思って。』
そういうと比呂が俺の手を引いて工具室の前まで連れて行った。
どきどきした。頬のあざが薄くなった比呂。眼帯は取れてないけど、
なんか口数少ないし他人みたいだ。もしかして・・告白してくれるの?
いやいやまさか・・。だけどこういう雰囲気ってもしかして・・。
歩みを止めて、くるっと振り返る比呂。朝の日差しを背中に背負って、俺には神様みたいに見えた。
『ねえ。』といわれて俺は思わず赤くなる。
ごくりと俺がノドを鳴らした瞬間、比呂が神妙そうな顔で俺に言った。
『喧嘩のこと、誰にも言うなよ。』
『・・・・え?』
『俺、階段で転んだってことにするから、絶対喧嘩のこと言うなよ』
『え・・だって・・。』
『部員同士で喧嘩して、警察まで来たなんてばれたら、やばいだろ。』
『・・・。』
『麦とか小沢とか浅井にもいうな。斉藤にも。』
『・・なんで?友達にくらい言っても・・。』
『あほか。内緒ごとをあいつらに話しちゃったら、巻き込んじゃうかもしれないだろ。』
『・・・。』
『俺とお前の秘密。わかった?』
『・・うん。わかった。』
なんというか・・結局告白ではなかったわけだ。
その後、教室に行ったら、案の定比呂はみんなに怪我のことを聞かれる。
『階段で転んだんだよ。』と言う比呂。本当は俺が殴ったせいなのに。
茶化されて、冷やかされる比呂。それでも嘘つき通して、乗り越えた比呂。
ひとりで怪我して、ひとりでうそついて、結局そうやって俺を守ってくれたのかもしれない。
昼休み。話題は比呂の怪我から、エロビデオの話にかわっていた。
どういうのがいいとか、あのメーカーのやつはモザイクが薄いとか、マニアックな話に花が咲く。
比呂はパン当番で、パン箱を片付けにいってたから、話には入ってなかったけど
パン箱を片付け終わって、話の途中で戻ってきたときに、クラスの奴が
『俺、ヤれるんだったら男相手でもいいなー。』といってるの聞いた比呂が、
『ほんとに?俺は男相手はだめだなー。』って言って、俺の机の上に腰掛けた。
クラスの奴が、げらげら笑って、口々にあれこれ言っている。
比呂はその輪の中に入らずに、俺に話しかけてきた。
『さっき麦に会ったんだけど、次の鍋いつやろうかだって。』
俺は鍋どころじゃなかったんだ。
俺・・・ちゃんと告白する前に振られた。
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