去年、一年生の時にクラスの数人にいじめられて、学校に行くのが嫌になったことがある。
母に『行きたくない。つらい。休みたい。』と、いじめのことを伏せて伝えたら、
最初は駄目だといわれたんだけど、結局許してくれたのか、学校に連絡してくれて、
その日は休むことができた。
あの時に、親がどういう理由をつけて欠席連絡をしたのか・・少しだけ気にはなったけど、
それよりも休めることがうれしくて、安心して数日ぶりに熟睡したのを覚えている。

あれからもうすぐ一年だなあと、カレンダーを見て考えていたら、母親が夕飯の支度をしながら、
『最近、学校楽しそうだね。』といった。

あの日は金曜だったから、そのあと土日も休むことができて、部活で描いていた絵のことも気になっていたし、
月曜は勇気を振り絞って学校に行ったから、登校拒否にはならずにすんだ。

『そういえば・・あの時なんて言い訳したの?』
『なにをよ。』
トマトを切る手を止めて、母親が僕を見る。
『つらいって言って休んだ時。』
僕がそういうと、母は包丁を置き、僕をじっと見て、こういった。

『最近元気がなくて、学校で何かあったのかと心配していたのですが、今朝になって休みたいというんです。
・・特に風邪でも怪我でもないんですが、お休みしても大丈夫ですか?』
『・・・・・。』

びっくりした。そんな理由で休めたのかと。

『・・・そしたらね、大丈夫ですよって言われたの。それは欠席に理由になりますって。』
『え?担任が?』
『違う。あのきれいな顔の数学の先生。』
『・・・幸村先生?』
『うん。』
『・・・・。』
『もちろんそのあと永田先生から連絡あったわよ。たしか昼前くらいにだけど。
あんたが悩みを相談したりしてなかったかとか、聞かれたんだけどわからなくて、
そういったら、学校でも気を付けるけど家庭でも様子も見てくださいって言われたの。
でもあんた、そのあと休みたいとも何も言わないし、そのままになっちゃったんだけど。
なんかあったの?あの時。』

永田先生ってのは、一年の時の担任だ。

『何もなかったけど。』

それだけ言って、僕は母に背を向けてソファに座った。


あのあと、いじめてたやつらにじろじろ見られたことはあったけど、手を出されることは無くなった。
無くなったというよりは、いじめるタイミングがなくなったってことかもしれない。
僕が掃除当番の時なんかは、掃除場所が人目に付きにくいところになると
永田先生や幸村先生が通りかかって、立ち話をしてくれたりしたし、休み時間には
部活の先輩や、ほかのクラスの友達が遊びに来てくれて、あまり一人にならなくなったからだ。
そのうちに、クラスにも友達が何人かできて、その子らと話すようになると、先生や先輩たちはあまり
僕のところには来なくなった。


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