小沢と。

今日は朝6時50分から、学校近くの交差点で小学生の交通指導の当番に立った。
普段は風紀委員の奴と安全委員が、順番にこの当番をやるんだけど
年に1〜2度、他のやつにも当番が回るようになってる。

で、今日は俺だったんだけど、そしたらペアが小沢でさー

『あれー?なんで小沢がきたの?』ってきいたら
『柳が寝坊したからチェンジしてってー電話かかってきたー。』だって。
柳ってのは電子科だかの風紀委員だ。なんだかんだで友達おおい小沢。

うーん・・。ちょっと嫉妬・・・。

一緒に並んで交差点に立つ。この時期は地元の子供会だかのお母さん方も
当番に立つから道を隔てて立たなくてもいい。ゆっくり話できるなって思った。

『どう?彼女。』
『えー?順調だよ。』
『どんなふうに?』
『日曜日、夕飯食ったあと、手を繋いであるいちゃったもんねー。』
『わ!すげえ!』
そしたら信号が変わる。向こうから歩いてきた子供らに『おはようございます』と声かけ。
信号が変わる。目の前を車が走り出す。俺は小沢をみる。すっげ照れてる。

『ちゅうとかしたの?』
『えっ?!!!』

『したの?ねえ。』
『しないよしない!手をつないだけだよ。』
『えー・・・なんだよ意気地なし〜』
『ばっか、お前はされる立場だからわかんないだろうけど
すっげーハードルなんだからね!』
『・・・・される方?』
『比呂も相当悩んだと思うよー。初ちゅう、初エッチ・・。』
『・・・・俺だって悩んだよ?』
『ばっか、背負ってる重さがちげえの!手繋ぐのに、どんだけ前日シミュレーションしたことか。』
『ぷふふっ・・・。』
『笑うんじゃな〜〜〜い』

あ、信号かわった。小学生が歩いてくる。もう何度も当番やってるから、
なじみのガキとか何人かいて『あ、小沢だ。』『比呂は?比呂。』
とか声かけてきて、そんでニヤニヤ笑ってる。
『比呂は今日は当番じゃないよ。』ってこたえてやったら、
『比呂、いつ当番?』とかいわれた。呼び捨てで呼ぶなよ。まあいいけど。

『比呂はいつだっけ、忘れた。でもなんでお前、比呂のなまえしってんの?』
『だっていつもすげーだるそうに、ここに立ってるよ。』
『そうだよなー!話しかけると嫌そうな顔する。』
『する!あいつは不良だから!』

・・・・まじか。完全になめられとるよ。俺の彼。小沢が隣で、ぷぷっとふきだした。

『あいつの女ってどんな奴?』
『は?』
『彼女いるっていってたよー。』
『そう。5組の女が告白したら、断られたっていってた。』
『2組の女子も告白したけど、断られたんだって。』

・・・比呂・・・小学女子に告られてどーする・・・。

小沢がニヤニヤしながら言った。
『いい女だよ。背が高くてかわいい子だよ。ちょっと嫉妬深いけどね。』
『?!』
そのガキどもは心底嫌そうな顔をしてこういった。

『嫉妬深い女〜?!比呂も趣味が悪いな〜。』

当番終わって学校に行く途中、小沢に俺はプンプン怒った。

『嫉妬深いってなんだよー。』
『や、実際そうだとおもうし。』
『小沢じゃなかったら、本気ぱんちしてたとこだからな!』
『何でそこまで自分の嫉妬ぶかさを否定する。』
『・・・・・・。』
『・・・・・・。』
『・・・あのさー・・・。』
『なに?』

俺は心の底のほうで、ちょっとだけ引っかかってたことを小沢に何気に相談した。

『こないだ・・・日曜かな・・・夜、比呂に花束をもらったの。』
『おおおおおお!!!!!』
『でも、そんなのもらう理由ないわけ。記念日とかでもないしさ。』
『・・・・・。』
『理由聞いてもはぐらかされるし、ちょっと不安になっちゃってさ。』
『・・・・は?』
『もらったときは嬉しかったよ。でも昨夜とかさ・・寝る時考えちゃってさー・・。
なんか俺に後ろめたいことがあって、罪滅ぼしに花くれたのかなって。』
『・・・・・ユッキー。』

小沢が押してた自転車がとまる。俺は小沢のほうを見た。

『比呂がお前を裏切るとか、そんなのするわけねえじゃん。』
『・・・・・おざわ?』
『なんでわかんないの?何でいつもそういう風に考えるわけ?』
『・・・・・。』
『比呂は・・・比呂はお前の事が大好きで、あんなに大事にしてるじゃん。』
『・・・・・。』
『あの花は・・・。』

そこに後ろから全速力の自転車が通り抜ける。

『おはよー!きみたち。』といって麦が俺らを追い抜いていった。
麦の後ろ姿を見ながら、しばらく黙った俺たち。小沢が俺の腕に、軽くぱんちをしてきた。

『あの花は・・俺が・・あの日に彼女に花束渡したくて・・お前ら店にいったときに・・比呂が・・・。』
『ひろが?』
『・・俺の彼女にやる花を一緒に選んでくれて、それで・・そんときに・・。』
『・・・。』
『俺も那央に花でも買ってやろうかなって・・そんで。』
『・・・え?』
『俺の彼女の分と、お前にやる分の花を・・・2人で選んだんだよ。』
『・・・・。』
『俺のことみて・・比呂が、自分が那央と付き合い始めた頃を思い出すなーとかいって・・
そんであの花束つくったんだよ?』
『・・・・・。』
『・・・何でいつもお前は・・疑うわけ?比呂を。』

や・・・。疑ったわけじゃないけど・・でも・・

『でも俺、そんなの知らなかったし・・。』
『知らないに決まってるよ、そういうの言わない奴じゃん。比呂は。』
『・・・。』
『そういうことを、押し付けがましくいわないのが比呂だってことは、わかってるじゃん?わかるよね?
なのになんでそんな・・比呂にやましいことがあるとか思っちゃえるわけ?』
『・・・ごめん・・・。』

気まずい・・・。でも本当に・・知らなかったから。
そのままなんとなく無言で、学校いったら下駄箱に比呂がいた。
正確に言うと比呂が岸先生と一緒に廊下に座って話をしていた。

俺に気がついて比呂が笑う。『おはよー。潤也もおはよー。』
俺は最大限に根性で笑顔見せて『おはよう』っていった。

そしたら一瞬比呂が、ん?っていう顔をして
すっと立ち上がると俺のほうにきて『どうした?』ってきく。



・・・何かをいったわけでもないし
表情には出してないつもりだった。
でも比呂は気づく・・・。俺に何もいわれなくても。

小沢のほうを振り返ったら、小沢が、頷きながら笑ってくれた。


・・・俺って駄目だな・・・。ほんとなんか・・薄っぺらな男だよな・・・・。

2007/05/29(火) 08:44:41
NEXT