遠距離



ブログ久々だ。

色々なことがあった。川上亜樹の事とか・・・比呂んちおばちゃんの出産とか。
なーんか・・毎日が10倍速で過ぎてくような・・そんな感じの日々だった。

昨日から比呂は、また山梨に行ってる。
比呂の弟が生まれたんだけど・・なんかちょっと体の調子が悪いみたいで。
生まれてからずっと・・いまだに病院に入院してる。
命に関わる感じの峠は越したみたいなんだけど・・


お産も順調で、一週間位して退院ってときに、急に調子がわるくなって・・・
あの時の比呂は思い返すのも苦しいほどに痛々しかった。

名前は『紺野さや』って名前で・・まあとにかく、
記憶に刻んどきたいこといっぱいあるんだけど・・
もうちょっとしたら比呂から電話が来る予定だから・・電話で話したらまた日記かく。
さや君の容態がおちついてたらいいな・・。

*******

比呂ー・・・。


電話かかってきて・・『那央?』って俺の名前を呼ぶ声が泣き声で・・・。
俺・・ずきずき痛む胸をおさえながら『比呂』って呼んだ。

『大丈夫?・・・さや君・・どう?』
『うん・・・。意識戻った・・。さっき・・。』
『・・・・。』

絶句。そこまで酷い状態だったなんて知らなかった。

昨日比呂は、1時間目の途中で先生に呼ばれてそのまま迎えに来たおじちゃんの車に乗って
山梨に行った。休み時間に電話したら、比呂はまだ車の中で・・・おじちゃんの話によると、
ちょっと熱が高くなって、念のため会いにいくとのことだった。
ホントは比呂はいかなくなっていいような・・そんな程度の熱だったみたいだけど、
比呂が心配してパニックになるとこまるからっておじちゃんが比呂をつれてったみたい。
昨日の昼間の時点ではそういうことだったのに・・・。

『昨夜・・・急になんか息が止まったとか言って・・俺ら・・病院にいたからさ・・だから
そのまま・・さやのとこにいったら、呼吸はすぐに戻ったんだけど・・手とかすげえ震えてて・・
熱がすげえ上がってたのね。もー・・俺、どうしていいのかわかんなくて・・・・・。』
『・・・ひろ・・。』

名前呼ぶくらいしか出来ない。・・さやくんは・・とつきとおか・・しっかりおばちゃんの腹の中で
すごしてから生まれてきたんだけど、体が小さくって2100グラムだかしかなかったみたいで・・・
泣き声は小さいし・・手とかはもう折れそうだし・・ずっと保育器にはいっていたんだ。

っていっても、お産は順調だったし、体重は少なかったけど、でも他には異常が無かったから
俺も抱かせてもらえたんだよ?そのときの感触がまだ残る俺の両腕。ぬくもりだって忘れない。

電話の向こうで比呂が、ふーって息を深く吐いた。

『でも・・昼くらいに熱が下がって、意識ももどったっていうか顔つきが普通になって・・』
『・・・うん。』
『・・・明日からまた・・検査だって。』
『・・・・そう。』

さやくんがうまれたとき、俺、比呂のそばにいたんだ。

おばちゃんが里帰りしてるからって、俺、金曜と土曜は毎週比呂の家にとまってて
予定日が近づくにつれて、比呂がナーバスになっていくのがわかったから出来るだけそばにいて、
色々話してたんだけど・・帝王切開で生むはずが、その前に急に陣痛来ちゃって
比呂が山梨に呼ばれたんだけど、とにかく比呂がすげえ動揺してて・・・

だから俺・・一緒に山梨行って、病院までついてったのね。そしたら、おばちゃんの親戚の人が
廊下とかにいっぱい来ててさ・・。比呂が・・・もう・・一歩も歩けなくなっちゃったの。
『俺は行けない・・。』って。

『俺のせいでおばちゃんの人生めちゃくちゃにしたのに』って。『あの人達にあわす顔がない』って・・。

震えながらボロボロ泣いちゃって・・ほんと・・一年の夏に比呂が
入院した時以上に・・比呂が比呂自身を見失ってる感じで・・。
そしたらさ・・おばちゃんのお母さんが比呂に寄ってきて・・
比呂が・・もうね・・・何も言われてないのにずっと謝ってんのね。
そしたら親戚の人らまで泣いちゃってね・・・おばちゃんの母ちゃんが、比呂をぎゅっと抱きしめたんだ。

『あの子から事情は聞いてる。あの子の辛い時にいつも助けてやってくれてありがとうね。
あんたは私の初孫。こんなイケメンさんが孫なんて幸せものだねえ。』
って言ってくれたんだ。比呂の背中を擦りながらね・・。
すっげえばあちゃんなのに、『イケメンさん』なんてさ・・すげー最高に素晴らしい女性だと思った。まじで。

で、おじちゃんが比呂を立たせて、出産に立ち会うんだよ・・みたいなこと言ったら
比呂が、子供みたいに泣いちゃって『無理無理無理無理・・・』って逃げようとすんの。
だから今度は俺が背中をさすって『ちょっと話してもいいですか?』っていって、
みんなから離れたとこに比呂を連れて行って、手を繋いで比呂の目をじっと見て話したんだ。

『比呂・・?』
『無理。』
『大丈夫だよ。行っておいで。』
『・・無理だよ・・だって俺・・他人なのに・・。』
『なのに?』
『立ち会えないよ・・無理だよ・・』
『・・・無理じゃないよ。』
『だって俺・・おばちゃんが痛がるの見るのやだよ・・・。』

・・案外・・・案外シンプルな理由で立会いを拒んでいるのを知って
俺はなんか・・・なんか目の前で泣いてる比呂を愛しく思えた。
や・・実際比呂にとってそんな単純な問題じゃないんだろうけど
どうにもこうにもパニック状態な比呂には、思いついた言葉を頭で整理することが出来ないらしい。

『なら、痛がるおばちゃんの手を握ってやりな?』
『・・・・。』
『痛がるおばちゃんを一人きりにするつもりか?』
『・・おじちゃんがいるじゃねえかよ』

俺は比呂の手をぎゅっと握った。

『家族になりたいんだろ?!』
『・・・・。』

比呂が俺の顔を見た。

『家族になりたいんだろ。』
『・・・・。』
『一緒に立ち会おうって言ってくれたおじちゃんの気持ちを・・比呂は踏みにじるような子じゃないよね?』
『・・・・。』
『お前は確かに大変な人生を歩いてきたと思うよ。でも、今は全部それ棚に上げてさ立ち会お?ね?
お前のきょうだいが生まれるんだよ。頑張れ。俺、ずっと待ってるから。一瞬も他の事考えないで、お前の事だけ思ってるから。』


・・・比呂はそんな俺の顔を見て、ほんの少しだけ考えて・・涙を拭いて俺に言った。

『絶対俺の事考えててよ。』

2時間。俺はひたすら比呂の事だけ考えていた。思い出はいっぱいあったけど、思い返す余裕がない。
やっぱりそれよりも分娩室で、色々な葛藤と戦っている比呂が心配で心配で心配で神様に死ぬほど祈り続けてた。

・・男の子が無事に生まれて・・・いわゆる低体重児なんだけど
でも元気で・・・新生児室のガラス越しに、俺もさやくんをみることができた。
分娩室からでてきた比呂は、廊下に出てからもおじちゃんとずっと抱き合って大喜びしてて
腕にはくっきり人の指のアザ。

おばちゃんが比呂の腕をにぎって、頑張って頑張って産んだんだって。

そんな風に生まれてきたさやくんだから・・俺にとっても愛しさが・・もう他人って感じじゃねえのね。
比呂なんか俺の数千倍も、さやくんにベタ惚れでさ・・携帯の待ちうけがあれなだよ。さや君の写真・・・。
さや君が元気な時に、俺が一回さや君を抱かせてもらった時の写真で・・。何度も見てはデレデレしてんの。
あんなにウダウダ悩んでた比呂が一瞬でもうお兄ちゃんになっちゃうんだから、
あかんぼの誕生ってすげえなって思ったし・・無事に大きくなってもらいたい。

その後、普通に退院って時に、肺炎みたいなの起こして一回ヤバイ状態になったんだけど、
さやくんは何とか回復して、ここのとこ随分体調も安定してたってきいてた。
体重も増えて体も大きくなってきたっていってたのに・・。生まれたての命だもんな・・・。
やっぱ・・色々なことがおこる。

・・俺に話すことで、だいぶ落ち着いたらしい比呂は『静岡も寒い?』って俺に言ってくる

『だいぶ涼しいよ?そっちは?』『今、病院の外にいるから、やっぱ寒い・・。』
『そっか。・・・明日は学校どうするの?』『あー・・休む。でも明日中に帰るよ。』
『土日やすみなのに?』『・・でもほら・・練習試合もバイトもあるし。』
『・・・そっか・・。』『那央、またとまりにきてよ。』
『・・ふふ・・。』『俺、ひとりでいるの・・ヤだから・・。』
『いいよ。いくよ。友達も呼ぶ?』『ううん・・疲れたから・・お前だけそばにいてほしい。』
『・・・・うん。』

・・・・俺は部屋の窓を開けて、空を見た。
夜空。つながってるよな。富士山の向こう側にお前、こっち側に俺・・・みたいなかんじで。

『比呂?』『・・・なに?』
『・・・遠距離恋愛みたいだよな』『えー?』
『・・なんか・・遠距離ちっく。』『ああ・・そうだね・・・。遠いよね・・。』
『・・・・・寂しいよ。比呂。』『・・・俺だって・・お前に会いたいよ。』
『明日、お前んちいくからね。』『・・うん。』
『パジャマ持ってくね。』『ああ。』
『ゴムあんの?まだ。』『・・おっま・・ゴ・・むとかいうな。夢がねえな。あっほ』
『あはは。』『・・・そういうのは・・・大丈夫だから。』
『・・・。』『今するような話じゃねえだろー・・・』
『あははは。』

あー・・・。夜空。果てしなく暗いな。ちきしょ。

『比呂。』『・・・ん?』
『ちゃんと眠りなよ?今夜。』『ああ・・。』
『眠れる?』

沈黙が数秒続いた後、比呂は元気な声で俺に言った。

『大丈夫。お前と話したら・・元気でた。』

おやすみって言い合って、電話きって窓を閉める。
さやくんの容態が、とりあえず落ち着いて本当によかった。
そして、明日の夜、比呂の部屋で一緒に眠るんだっておもったら
体の奥からドキドキしちゃって・・俺、今夜眠れるかなー・・ってちょっと心配。



2007/10/25(木) 21:23:12
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