2006/9/13 (Wed.) 22:30:05

朝、学校に行くと、昇降口前に比呂がいた。

『ゆっき村、誕生日おめでと。一緒に行こー。』
『(誕生日覚えててくれたんだ!!!)』

朝、飯食うのに居間におりていったら、母親に『おめでとう』といわれて
誕生日を妙に意識しちゃって、学校着くまで気が気じゃなかったんだ。
一番最初に比呂にお祝いの言葉を言ってもらえて、超うれしかった。

一緒に下駄箱にいって、靴はきかえて、教室に向かう。
その途中、いろいろな話をしてる時に、比呂が笑って俺に言った。

『今日、ひま?ひまだろ。暇なお前は俺と遊べ。』

『・・・・ええええええーーーーーーっ?!!!』

『でけえよ声がっ。なんか用事あんの?』
『えっ・・普通にヒマだけど・・』
『なんだよ!びびるだろ!人の耳元で叫ぶなっ』
『ごめんなたい。』
『ファミリーの夕飯までには帰れるようにするからー。約束ねー。』

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教室に入ると、口々にみんなに『おめでとう』といわれた。
坂口が『これでエロ本見放題だね』と言ってきたんだけど、
16になったとこで、そのへんはフリーダムに許可されたわけではないと思う。

小沢がちょこちょこ近づいてきて『誕生日だね。』と言って笑う。
『うん。ありがとう』と俺が笑うと、俺の目の前で携帯のボタンをおした。
すると俺のケツポケットの携帯から、エルレの曲が流れてきた。着うた比呂とお揃いにしたんだ。
(でも比呂は昨日、坂口に勝手に曲変えられちゃったんだけど→青春アミーゴ)
俺は携帯を取り出して見る。そしたら思い切りのけぞった。

なんとそれは、まさに俺の目の前にいるナイスパパラッチ小沢からの、紺野盗み撮りメールだったからだ。

今回のスクープは比呂の寝顔だった。それがすげえかわいかったんだ。
可愛くって、すげえ大好きな顔で、俺、すげえうれしくて、何度も小沢にありがとうをいったよ。

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昼休み。斉藤が、フィッシュバーガーおごってくれた。
それをうまそうに食っていたら、浅井らがきて、俺に話しかける。
『鍋奉行リターンズのお知らせなんですが、週末三連休あたりいかがかと。』
なんか微妙な話し方するから、俺の返事も微妙になって
『いつでもいいですとおもうけどす』
とかいっちゃったから、その発言以降俺の周囲では
『いつでもいいですとおもうけどす』が流行語大賞だった。やめて・・・・・。

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ちなみに今日はクラブの日だった。俺は地味に将棋をうちにいく。
その隣の教室では、比呂所属の地味集団☆観察クラブが、
もやしとかいわれとブロッコリースプラウトだかの種まきをしていた。
ビーカーで育てるらしい。一週間でどれくらい育つかとか調べて
最終的には皆で食うらしいが、ならビーカーで育てんなよな。

でも、ビーカーの中で、きれいな緑がいっぱい育ったら、きれいだろうなあ。

クラブの時間が終わって、俺は観察クラブに顔を出そうと席を立った。
すると将棋部の先輩が、『お前今日誕生日だって?おめでとな。』といってくれた。

今まで話なんかしたことねえのに、すげえびっくりして、
『ありがとうございます!』って俺はいったけど、その声がひっくり返って、ちょう恥ずかしかった。

観察クラブの先輩が、その先輩と同じクラスで、前のクラブの時に
比呂が観察クラブで俺の誕生日のこと話したから、それが伝わっていったらしい。

うれしいな・・・。なんか・・・・。

満面の笑みで観察クラブの教室に入ると、いつものあの、のんびりした雰囲気がみちていて
『あー・・幸村君、おめでとー。』『誕生日なんだってねー。おめでとうー。』といってもらえた。

・・もー・・。皆さんマジありがとうございます。

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部活ないから、そのまま比呂と帰ろうとしたんだけど、放送で比呂が先生に呼ばれて、
職員室いったら機械科の専門の先生で、年寄りじいちゃんがいるんだけど
その人が比呂に、『PCの配線みてくれ。どうせひまだろう』とかいってくる。
『暇じゃないけど、みてやるよ。まじで暇じゃないんだけど!』
ニコニコしながらじいちゃんが『ほんとは暇なんだろ。』と比呂がにいう。
俺は近くにあった岸先生のイスに座って、くるくるエンドレスで回っていた。(回転イスのため)

そしたら、岸先生が戻ってきて、『なーんだ幸村。たのしそうだなー。』と寄って来た。
俺はあわてて席を空けようとしたんだけど、無意識のうちに相当な回転をしていたらしく、
目が回ってすぐに立てなくてそしたら岸先生が『いいよ。すわってて。』っていってくれたから
『ありがとうございます。』といってイスに座り続けた。

そんな俺をちらっとみたあと、じいちゃんのPCに視線戻した比呂が
『岸せんせー・・。そいつ今日、誕生日なんだぜー。』といった。
すると、周囲の先生まで『何だお前、いくつになった?』
『そうかー。おめでとう。』と、口々に声かけてくれる。

・・うれしかった。すごいうれしかった。
俺照れくさくて、真っ赤になって、鶏みたいに、かくかく頭だけでお辞儀した。

そしたら比呂が、先生見回して『言葉はいらねー!形でよこせー!!』
っていうんだ。すっげー性格悪そうな顔で!

そしたら比呂は先生ら皆に、教科書とかで頭パコーンとかはたかれて
『はい。愛の制裁』とかいわれてたw
ひろは『そんなんいらーーーんっ!俺の誕生日じゃねえし!』ってケラケラ笑った。大好きな笑顔。愛しい。
兄弟喧嘩というか、親子喧嘩というか、そのあともしばらく先生と比呂で、キュートな口喧嘩が続く。

オレ、そういうのみてると、この光景って宝物みたいだなあ・・っていつも思うんだ。
教師という人たちが、普通の人間なんだということすら、意識せずに生きてきたからね。ピカ工に入学するまでは。

比呂がじいちゃんのPCなおして、じいちゃんにお礼代わりに茶をいれてもらって、
それ飲んで職員室出るまでの間、俺はなんか、すっげえ幸福感に浸って、ずっと笑ってた。

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さあ帰ろうということになって、比呂と2人で下駄箱に進む。
『茶で腹いっぱい。』とか言いながら、けらけらと比呂が笑うから
『ねえ、何して遊ぶの?』と俺は聞いた。すると比呂は、『なんでもいいよ。』という。


『なんでもいいってなに?』
『ゲームでもいいしー、カラオケでもいいしー、ナンパでもいいしー。』
『なんで?』
『だって誕生日だから。』
『え?』
『お前の誕生日だから!誕生日ルールだろ。そういうのは!』

思わず立ち止まる俺。

俺の視界の中心に比呂がいて・・・目に映る全ての世界には、ただ、幸せしか存在していなかった。
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