虹色

今日は午前中部活だった。
柔道部も部活だったみたくて、部室を出たら体育館の前で、バッシュー片手に持った比呂と
柔道着きた小沢が、なにやら深刻そうに話していた。

『おっはよー。』とりあえず、大声で挨拶しながら二人に近づく。
小沢が『おはよ。』といってくれて、比呂は無言で微笑んでくれた。

何話してんの?・・とか聞こうと思ったけどやめた。
あからさまに、はぐらかされたら、俺はきっと立ち直れないから。
なんか居辛くて、そのまま通り過ぎようとしたら、比呂に腕をつかまれた。ぐいっと引き戻されて驚く。

『おはよ。』一言いうと、比呂は部室のほうに入っていった。

小沢と2人きりになる。何を話せばいいんだろう・・。すると小沢が話を始める。遠い目で比呂のほうを見ながら。

『ユッキーいいね。幸せだね。比呂に大事にされて・・。』
俺は・・なんか、きゅんとくる。なんだ?もしかして・・恋愛話?俺は、恐る恐る聞く・・。
『ねえ・・君、好きな人でもいるの?』すると小沢が、ふふっとわらう。
『いるよ。物心ついたときから、ずっと片想い。』

びっくりした。それほんと?でも時間がないから、後で話すことにして、俺等はそれぞれ部活にいく。
体育館の中を走りながら、俺は目の前を走る比呂の後姿をみていた。
比呂は知っていたんだろうか・・。小沢の片想いの話。

部活が終わって、帰ろうとすると、サッカー部の連中が来て、塩ちゃんと坂口が、ヘラヘラしながら歩いてきた。
サッカー部のくせに、手にはバドミントンセットを持っている。
こないだ市の大会があって、参加賞でもらったんだって。どんな大会だよって話。

『やろうよー。』ってうるさいから、どうするのかなって比呂のほうをみた。
比呂はチラっと、柔道部が練習している武道場の方を見る。まだ柔道部は終わってないみたいだ。
『やろうかー。』っていいながら、俺のケツを蹴っ飛ばす比呂。痛えなあ〜。も〜。
仕方ないから4人で一つの羽根つかって、よくわかんねえルールでバドミントンをやった。
ちなみに麦は休み。選抜チームの練習があるからだって。

20分くらいやってたら、柔道部の奴らが着替えて出てきたのが見えた。
そしたら小沢が走ってきて、俺に話があるって言うんだ。

比呂の方をみたら『俺、今日バイトなんだ。だから、夜電話するよ。』っていう。
小沢が比呂に『悪いな。』ってあやまる。比呂は、にこっと笑って、帰っていった。

『ユッキー・・。』小沢が俺に話を始める・・・。

『・・・なに?』
『・・・今日・・好きな女と会うの、俺。』
『・・・・え?』

思わず木の影に小沢を引きずりこむ。

『どういうこと?』
『・・こないだ・・つか1年のときにさあ・・俺の誕生日に・・鍋やってくれたじゃん、お前らが。』
『うん。』
『あんときにね・・比呂に相談したの。』
『・・・。』
『生まれて初めて恋愛相談・・。』
『・・・・う・・。』

俺は思わず顔が真っ赤になる。比呂が小沢の恋愛相談?
わ・・どうしよう・・・。比呂は・・どんな話を小沢にしたんだろ・・・。

『で・・俺、ずっとウダウダ悩んでたことを、比呂に救ってもらって・・。』
『・・・・。』
『こないだ・・バレンタインでさ・・お前と静岡行ったじゃん。』
『うん。』
『あのときに・・その人に指輪を買ったわけ。』
『・・・・。』

ひゃ〜〜〜〜!!!まじかよ!小沢にこんな話されるなんて、ひたすら照れちゃうんですけど!

『でも渡せなくて・・そんなでずっとまた悩んでて・・・でも、思い切って今朝、勢いで渡して見ました!』

・・・小沢・・顔真っ赤・・・。

『ゆっきー、ごめん。ほんとは一番にお前に相談したかったんだけど、なんか照れちゃって・・なんか・・。
つか・・、比呂がさ・・いつも・・お前に対して向けてる表情?視線?みたいなのを、いつもみてたらさ・・・
なんか・・比呂に頼ってみたくなって・・つい・・・ごめんな?お前の彼氏借りるようなことしちゃって・・。』

俺は首をブンブン横に振る。勢いよくふりすぎて、思わずめまいがしたほどだ。

『そんな・・いいよ!!!それより・・約束何時?』『・・・・11時。商店街の外れにある・・三階建ての・・』
『あ?それってカフェ?』『・・そう。いいかんじの・・・。』

俺は笑顔でこういってやった。

『あそこ、飯出てくるのすげえ遅いけど、チキチキカレーセット、超うまいよ』

***********

11時から俺は塾で、3時に終わったんだけど、携帯の電源入れても誰からも着信等はない。
どうなったのかな・・小沢・・・。気になって、授業も若干上の空気味だった。
家に帰ったら姉ちゃんが、子供連れて遊びに来てて、俺は未羽ちゃんの横に添い寝する。
・・親友の片想いが実るように祈りながら、少しだけ眠った・・。

はっと気がつくと6時まわってて、目の前に夕飯がずらりと並ぶ。
携帯を見たら、メールが入ってた。俺は慌ててそれを開く。

<ゆっきー、こんにちわ。
<元気ー?
<今朝、めざましみてたらさー
<おとめ座イマイチだったんで
<どんな不運にあってるのかと
<若干気にしてるんじゃけんのう(不慣れ

<あさい


わ!浅井!!!!!!俺は慌てて浅井に返事を送る。
送信終わったその瞬間、電話がいきなり盛大に鳴った。

『もしもし・・?』『・・・ユッキ?』
『・・小沢?』『うん。今帰ってきた。』
『・・・・・・・。』『・・・・・。』
『・・・・どー・・だった?』『・・・うん・・・・。』
『・・・・・。』『・・・・ぐすっ・・・。』
『?!!』

小沢が・・泣いてる・・・。俺は自分の部屋にあがっていって、ドアをしめて話をする。

『大丈夫?』『・・ああ・・。うん。』
『・・・・。』『・・ユッキーの声聞いたら・・なんか気が抜けて・・。』
『・・・・・。』『ありがとね・・。えーと・・・。』
『・・・・・・うん。』『・・うん・・。付き合うことになった。』
『・・・・・。』『・・・・・・。』

『うっそーーっ?!!』



『嘘じゃねーって・・。ほんと・・。現実。』『・・・・・。』
『俺も片想い・・実ったー・・・。』『・・・お・・おめでとう・・・。』
『・・・・ありがとう。』『・・よ・・・よかったね・・・。』
『・・ああ、うん。』『・・・。』

『・・・・潤也〜!!』『・・那央〜!!』



そのあと俺等はあほみたいに、名前を呼びあって、なんか泣いた。
小沢は10年以上もずっと、一人の人が好きだったんだって。電話の切り際に、小沢が言う。

『比呂が・・お前に何も言ってなかったなんて知らなかった・・つか、とっくに少しは話してると思ってて。
でもさ・・ユッキー・・比呂を責めないでよ?きっとさ・・・きっと・・俺が直接お前に言えるときまで
黙っておこうとしてくれてたんだと思うんだ。』
『・・・・・。』
『・・・俺・・お前に相談できずにいたけど・・ユッキーにすげえ力をもらってたんだー。』
『・・・なんで?』
『・・あんだけ好きだった比呂とー・・・両思いになれたお前みてたら・・
なんか・・うん・・・なんか・・何もしないままじゃ変わらねえなって気がついて。』
『・・・・。』
『好きな気持ちは・・どっちかが伝えないと・・・・駄目なんだなあって・・・』
『・・・・。』
『だから告白したー。勇気くれたのはお前。どうもありがとう。』
『・・そんな・・。』
『ありがとね・・。』
『・・・・うん。』

ぽわっと心があたたかくなる。

『ま、またゆっくり話す。お前から比呂にいっておいて。』
『え・・・いいの?』
『うん。明日にでもまた、比呂には直接礼を言う。付き合える事になったってのは、お前が言って?』
『・・わかった・・。』

電話を切って・・そしたら俺・・なんか、メチャクチャこみあげるものがあって
枕に顔を押し付けて、きゃーきゃーわめいてしまった。嘘みたい!あの小沢が嘘みたい!!!!
でも・・あいつが嘘をつかないことは、俺が一番よく知ってる。
俺は下に降りて飯を食って、風呂に入って、比呂のバイト上がりの
8時まで時間をつぶして、そんで急いで自転車を飛ばした。

店に着いて、スタッフルームに行ったら比呂が煙草を吸っていた。
俺の表情をみた瞬間、比呂がすっげえ嬉しそうに笑う。笑顔だけで、伝わったとおもった。
小沢の恋が実ったことは、全部比呂に伝わったと思った。俺は比呂にぎゅっと抱きつく。
比呂は、煙草の灰がおちないように、左手を遠くの方に伸ばして右腕だけで俺を抱きしめた。

すごく・・すごく力強かった。

2007/05/27(日) 00:29:10
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