2009/2/27 (Fri.) 19:35:51

げほっと咳をする音で目が覚める。あたりはまだ暗い。どうやら外は雨のようだ。
自分で咳でもしたのかな・・と、ノドを2〜3回ならす。
簡易ベッドから起き上がり、ピッピッ・・と規則的な音を鳴らす計測器を見る。

比呂の心音だ。ちゃんと動いている。穏やかな寝顔。
『おはよう。』囁く程度に朝の挨拶をした。

体中につけられていた精密機器や点滴は少しずつ外されていき
昨日からは酸素マスクも外してもらうことができた。

顔にかかった前髪をそっと整える。頬に触れると、肌は柔らかくあたたかい。
鼻にチューブを入れていたときに、少し傷ができてしまって、
バンソコがひとつ貼られている。

時計を見たら、朝の4時をまわっていた。
看護師さんの見回りにも気づかないほど私は熟睡してしまっていたようだ。
久しぶりの睡眠。おかげで心の混乱も拭えた気がする。

カーテンを少し開けて、外の様子を見た。やはり雨だ。空は暗い。
窓に反射する比呂の心電図。比呂のほうを振りかえる。

そのとき。

小さな声で咳き込んだ。私ではない。目の前の比呂がだ。
思わず目を疑う。でもすぐにその光景を信じた。

『比呂っ・・・。比呂っ・・・。』
慌てて駆け寄り何度も呼び続ける。すると比呂がゆっくりと目をあけた。

ぼんやりとした顔のまま、黙っている比呂。私は彼の視界に入るようにして、目を合わせる。
『比呂。』目があった状態で比呂が私を見つめる。そしてとても小さな声で言葉を発した。

『・・・・さやは?』

・・・・うん。そうだね。お前は何にも知らないんだよね。
でも今はいい。君におきた出来事はあとでゆっくり話をしよう。

比呂。よく頑張った。

『・・さやは、母さんと家で寝てるよ。』
『・・・ここ・・・病院?』
『うん。病院。』
『・・・・。』
比呂がゆっくりと自分の右手首を目元までもってきて
何かを確認してるから、私がちゃんと答えをあげる。
『お前は何もしてないよ。傷もつけてないし、薬の飲みすぎとかでもない。』
『・・・・。』
手首をぱたりとベッドに投げ出して、比呂はまたぼんやりとしている。

『比呂。』
呼びかけてみたら、比呂は自分で視線を合わせてきた。
『・・・・。』
『寒くないか?』
『・・・・だいじょうぶ。』
『・・・痛いところとかないか?』
『・・・・うん。』
『・・・ちょっと・・看護師さん呼んでくるよ。』
『・・・・なんで?』
『比呂が起きたらね、教える約束なんだ。』
『・・・わかった。』

比呂は自分のそばにある精密機器をぼんやりとみつめる。
スイッチやランプやコードが沢山ついているから、興味をもっているんだろう。
この子は昔からこういうものが好きだったから。

『ちゃんと起きて待ってるんだよ。』
『・・・・うん。』

比呂の返事をきいたあと、私は病室をでてナースセンターに行く。

看護師さんに『息子が目を覚ましました。』と声をかけた瞬間。
体中が震えて・・涙がボロボロとでた。
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